第十七章 ぼくらが原っぱへ行った時の事 1.塞の原をめざして
~Side 真凛~
夏休み最後の土曜日、あたしと優樹は自転車で塞の原に向かっていた。お盆の間は怪しげな場所に近付くな――地獄の釜の蓋が開くからなんだって――って、親から言われてたから、優樹と会うのはほぼ一週間ぶりになる。
自由研究のつもりだったアサガオは、まだ花を咲かせそうにないし、研究の課題を地元の妖怪調査に変更しようって話になったんだけど、そうすると塞の原の現地調査はどうしても押さえておきたい。行き帰りの時間を考えると、自由の利く夏休み中に終わらせておきたい……って事で、今日の調査となったってわけ。
付き合わされる優樹にはいい迷惑だろうし、悪いと思ってたんだけど……
「気にしなくていいってば、真凛ちゃん。怪異を調べるのはぼくにだって無関係じゃないし、それ以外にも得られるものはありそうだしね」
優樹が言うには、塞の原というのは草原だそうだから、まとまった量の草を回収できる――はず――らしい。本当なら草を刈るのは初冬なんだそうだけど、さすがにそれでは遅すぎるわよね。
青草か枯れ草かしらないけど、草なんてどうするんだろうと思ってたら、
「草って言うか……カヤが手に入らないかって思って」
「カヤ? カヤって……草の茅?」
「うん、その茅。屋根を葺くのに使ったりするよね?」
茅かぁ……うっかりしてたわね。でも待って? 塞の原が草原だとしても、茅の原っぱかどうかはわからないのよね?
「その時は他の草でも代用できそうだし」
「……できるの?」
茅葺き屋根っていうのは聞いた事があるけど、セイタカアワダチソウ葺きの屋根なんて聞いた事がないわよ? ……アメリカとかにはあるのかしら……?
「実際の建材に使うと言うより、魔力で素材を創る時の、お手本だか核だかにするみたいだから。セイタカアワダチソウは無理かもしれないけど、似たような草でなら代用できないかな――って。……ススキとか」
あぁ……そういう事ね。
「屋根の材料に使う以外に、壁土にも刻んだ藁とかを混ぜ込むみたいだし」
「あ……それもあったわね」
「自然素材が回収できそうな機会は、できるだけ押さえておきたいからね」
「そうよねぇ……」
チマチマとなら回収できるチャンスはあるんだろうけど、はかどらないわよね。
「まぁでも一番は、いわくありそうな場所に行くチャンスは逃せない――っていうのが大きいけど」
「あぁ、そういうところはあたしといっしょね」
ちょっと安心したわ。
「でもまぁ、問題がないわけじゃないけどね」
「問題?」
「うん。ぼくらがいままさに直面してる問題。……『塞の原』っていうのは通称だから、正確な場所とかがわからないんだよね?」
「……そうなのよね……」
勝三お祖父ちゃんに電話しても、何だか要領を得なかったし……〝この道をまっすぐ行けばそこに出る〟――って言ってたけど……
「……ねぇ優樹、この辺りがそうなのかしら? 草ばっかり生えてるけど」
「……どうだろう……ここはむしろ田んぼだったんじゃないかな? 用水路とかあるし」
「あ、そうか……だったらまだ先なのかしら?」
「そうじゃないかなぁ……まだ家とかがチラホラあるし。何もない原っぱなんだよね? 塞の原って」
「そうらしいわ」
お祖父ちゃんはそう言ってたけど……
「……でも優樹、何だかどれもこれも空き家っぽくない?」
人が住んでるって感じじゃないのよね。草とかボウボウだし。
「空き家だとしたら……取り込む?」
ダメもとで優樹に確認したんだけど、
「ダメだよ真凜ちゃん。こんな道路のそばじゃ、すぐに気付かれて怪しまれるのがオチだって。……それに、あぁいう風にちゃんとしてる家だと、所有権とかもまだ存在してるはずだし」
……バレるかどうかを最初に気にする辺り、優樹も段々性根が怪しくなってきたわね……
・・・・・・・・
そのまま先に進んで行くと、原っぱの手前に古びた案山子が倒れていた。ここが「塞の原」なのかと思ったけど、よく見ると原っぱじゃなくて田んぼの跡地らしかった。案山子はこの田んぼに立てられていたのが、田んぼの放棄と同時に捨てられたみたい。
「もう見守るべき田んぼもなくなっちゃってるし、リストラってとこかしらね」
……冗談めかして言ったんだけど、隣にいるはずの優樹の返事がない。ふと横を見たら、困ったような表情で立ちつくしている優樹がいた。
「……どうしたのよ? 優樹?」




