第十六章 ぼくらが廃屋に行った時の事 2.上級生の廃屋調査
~Side 真凛~
――失敗したわ。建物の中に入ってたせいで風が流れず、何者かの接近を許してしまうなんて……警戒役失格よね。風魔法による探索の欠点……いえ、単にあたしの未熟か不注意よね。
警戒しつつもちょっとだけ凹んでたら、
「真凛ちゃん、ぼくの後ろに入って」
優樹が、あたしをかばうように前に出た。
「優樹……」
思いがけなく感動的な展開にちょっとジーンとしてたら、
「接近して来るのが敵対者だったら、ぼくの後ろから狙って倒して。仮にぼくが捕まる事になっても、真凜ちゃんをフリーにした方が、勝率が高そうだしね」
――えぇ、どうせそんなところよね。戦術的判断としては正しいんだろうけど……あたしの感動を返してよ。
ともあれ、そんな感じで待ち構えていると、
「お~い、誰かいるんですかぁ~?」
――のんきな声が聞こえてきた。
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~Side 優樹~
「……みずようかん?」
「水陽館。能く間違えられるんだけどね」
「あ……すみませんでした」
「いいよ。ちなみに、『水陽』というのは〝川の北側〟という意味でね。移川の北岸にある事から付けられた名前らしい。ちなみに、校章のデザインは枝垂れ柳で、こっちは『垂楊』という同音異義語からきてるらしい」
「「はぁ……」」
そう言ってぼくたちは、見せてもらっていた生徒手帳をその人に返した。そこには「水陽館学園高等部一年 千 豊理」と書いてあった。地元ではそこそこ有名な私立学園だ。自分たちは怪しい者ではないと言って、身分証明にって見せてくれたんだけど……
「それで……その、『伝承文化研究会』……ですか?」
「そう。現代生活の中で失われゆく民俗伝承を可能な限り採集し、後世に残すために記録する……っていうのは、まぁ建前でね。ぶっちゃけ、やってる事はいわゆる『オカルト研究会』ってやつだ。けど、一応は真面目に調査して、記録とか研究とかしてるんだよ?」
「「はぁ……」」
ここへ来たのもその「調査」の一環で、ネット上でうわさになってる廃屋を調べに来たらしい。
ちなみに、水陽館学園は中高一貫の学校で、伝承文化研究会も中等部と高等部にそれぞれあるそうだ。一応は独立した研究会として活動してるんだけど、今日のような調査の場合は、中等部と高等部が一緒に活動する事もあるんだって。今回のリーダーは高等部の千さんだけど、中等部の生徒も参加してるらしい。
「しかし……小学生にも同じような事を考えてるのがいたとはね」
「ぼくたちは夏休みの自由研究なんですけど」
「まぁ、解るけど……でもやっぱり、小学生だけで来るところじゃないね。自転車で来たんだろ? 僕らもそうだから、少し待っててくれたら送って行くよ」
ぼくと真凜は顔を見合わせたけど、千さんという高校生の提案に従う事にした。高校のオカルト研究会がどういう〝調査〟をするのか、興味もあったしね。
・・・・・・・・
「わぁ~……ザ・廃屋って感じ」
「誰かが結構立ち入ってるみたい。廃墟マニアかな?」
「実際にネットに写真とかアップされてたしね。そうなんじゃない?」
軽い感じで廃屋に入った研究会の皆さんだけど、
「ネットの記事だと、〝遠くから見て窓に光が映っていた〟――とあったけど……問題の窓はこれかなぁ?」
「そうじゃない? こっち側だと木とか繁ってて、見通せるようにはなってないから」
「とすると……問題の怪光が出現したのはこの部屋か?」
「アップされた写真とも合致してるわね」
廃屋の間取りや立地条件から、あっさりと問題の部屋を特定してみせた。〝真面目に調査してる〟――っていうだけの事はあるなぁ。真凜も感心してるみたいだ。
「廃屋を見に来たマニアの懐中電灯の光じゃないか――って、話してたんですけど」
「うん。着眼点は悪くないね。けど、残念ながら少し違うみたいなんだよね」
――ぼくたちの推理は千さんたちに否定された。
「ネット上の記事の履歴を調べてみたんだけどね、ここが廃屋としてクローズアップされるようになったのは、怪光についての記事が出た後なんだよ。それまではほとんど話題に上ってなかったみたいだから――誰かが立ち入ったのは事実だろうけど、少なくとも噂を聞いてやって来た、廃墟マニアとかオカルトマニアじゃないだろうね」
「そうなんですか?」
「マニア云々とかじゃなくて、ここに入った者がいたんだろうね。……ほら、この弁当の容器が証拠だよ」
千さんが見せてくれた容器のラベルには賞味期限が書いてあったけど、それがちょうど、怪光の記事がアップされたのと同じ頃らしい。
「何だか探偵みたい……」
「……さすが、高校生ともなると違うんですね……」
「まぁ、半分以上は慣れだね」
ぼくらの子供だましとは一味違う、上級生の「調査」ってやつを見せてもらって、この日のぼくらの「調査」は終わった。ゴミとかちゃんと持ち帰るそうだし、意識も高いよね。
千さんという人にお願いして、「伝承文化研究会」の会報を送ってもらえるようにもお願いしたし、割と得るものが多い一日だったんじゃないかな。
・・・・・・・・
「……優樹、一体何を考えてるのよ?」
「だって、この先も怪異の調査を続けるんなら、オカルト研究会に知り合いがいると便利じゃない? 調査のコツとか教えてもらえそうだし、色々と隠れみのにも使えそうだしね」
今回の更新はこれにて終幕です。今後とも「マヨヒガ」をよろしくお願いします。




