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ぼくたちのマヨヒガ  作者: 唖鳴蝉
第二部 五年生 夏休み
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第十五章 ぼくらが墓地跡に行った時の事~じゃんじゃん火~ 2.現場検証

 ~Side 真凛~


「火の玉の事だけどね、『じゃんじゃん火』っていうのが似てるみたい」


 昨日(ゆう)()から話を聞いて、家に帰ってから調べてみたのよね。一応は夏休みの自由研究候補って事になってるしわけだし。

 そうしたら、二つの火の玉が飛びまわるっていう条件にヒットしたのが、


「その『じゃんじゃん火』っていう妖怪?」

「えぇ。火の玉っていうのは定番の怪異らしくって、全国各地に出現してるのよ。けど、二つの火の玉っていうのはあまりないの。(しん)(じゅう)した男女が別々に葬られたのを悲しんで、火の玉になって()()きするんだって」


 織姫と彦星みたいで、ちょっとロマンチックよね。……なのに、(ゆう)()ったら……


「あれ? 落語に『(りん)()の火の玉』ってなかった? 本妻とおめかけさんの人魂(ひとだま)がケンカする話」

「……そっちはヒットしなかったわ……」

「ふぅん……でさ、()(りん)ちゃん、その『じゃんじゃん火』っていうの、この辺りで記録があったっけ?」


 ……それが問題なのよね……


「夕べお祖父ちゃんにも電話して確かめたんだけど、火の玉自体は定番だからか、この辺りにもあったみたい。けど、二つの火の玉――っていうのは、聞いた事がないんだって」

「ふぅん……(しげ)ちんの話でも、火の玉が墓地跡に現れるのか、それとも他の場所から飛んで来るのかは、はっきりしなかったんだよね」

「まぁ、その辺も現場に行ってみたらわかるんじゃない?」


 ああだこうだと机上の空論を積み重ねてたってしょうがないわよ。まずはデータありきだって、(ゆう)()もいつか言ってたものね。



 ********



 ~Side 優樹~


 お墓の跡地に来てみたんだけど、崖崩れ自体はそんなに大きなものじゃなかった。新たに崩れたら危ないっていうんで当初は立ち入り禁止にしたんだろうけど、その気配もないからって、今度は後まわしにされてるみたいだ。……〝なおざりにする〟――って言うんだっけ、こういう時。……あれ? 〝おざなり〟だったかな?


「う~ん……崖崩れって言っても大したものじゃないし……それ以前に、お墓が残ってないわよね?」

「うん」


 壊された墓石らしいのはあるけど、あれは前からだし。……こないだここに来た時も、何か(さわ)りがあったら嫌だからって、取り込まなかったんだよね。

 けど……大雨の後で出るようになったっていうのは、逆に言えば大雨の影響を受けたって事だから……


「……何かあるとしたら、崖崩れのあった辺りが怪しいんじゃないかな」

「……考えられるわね」


 そういう話になって、用心しながら崖崩れの現場に近寄ってみた。一応、用心のために【立地鑑定】をかけて、差し迫った崖崩れの危険がないかどうかを確認してたんだけど……


「……あれ?」

「どうかしたの? (ゆう)()

「うん……この石だけど……」

「……これ? ただの石に見えるけど……これがどうかしたの?」

「うん……何か格が高いような気がするんだよね……」


 マヨヒガの素材になるかどうか鑑定しまくってるせいか、最近ではそういうのも何となくわかるようになった。ただ……この石に対しては、なぜか【素材鑑定】が発動しないんだよね……


「取り込むの?」

「どうだろう……何となくだけど、そうしない方が良いような気がするんだよね」

「そう?」


 ……気になってるのはもう一つあるんだ。……さっきから、か細い声みたいなのが聞こえる……と言うか、頭の中に響いてくるんだよね。……〝あの人を捜して下さい〟――って。


「……()(りん)ちゃん、多分だけど、これが問題のお墓じゃないかな。……(しん)(じゅう)したっていう女の人の」

「はぁ? この……粗末な石が?」

「うん。そういうワケありのお墓なら、あんまり立派にはしないだろうし」

「……(ゆう)()がそう言うのなら、そうかもしれないわね。――で、どうするの?」


 頼まれた以上は探さないとね。墓石が〝あの人〟と言うんなら、探す相手もやっぱりお墓じゃないのかな?

 他に霊格の高そうな石は転がってないかと見まわしていたら……崩れた土砂の下に、それらしい反応が見つかった。


()(りん)ちゃん、土魔法でここの土砂をどける事ってできる? 二十五センチくらいの深さまで」

「簡単よ。……これでいい?」

「うん、ありがと」


 ()(りん)に頼むと、あっさりと土をどけてくれた。そこから目当ての石を掘り出して、ついでに水魔法で泥とかを落としてもらう。


 さっきの墓石のとなりに並べて置くと……小さな声で〝ありがとう〟と聞こえた。


「それで終わり?」

「多分ね。けど、せっかく来たんだから少し見てまわろうよ。ひょっとして違ってたらまずいし、他にも何かあるかもしれないし」


 ……ついでに崖崩れで転がり出てきた石なんかも取り込んでおこう。少しくらいなら問題ないよね?


 そうやってお墓跡を見てまわって、元の場所へ戻って来たんだけど……


「……ねぇ(ゆう)()……さっきの場所にあんなの(・・・・)あった?」

「……なかった……と、思うけど……」


 さっきの場所に戻ってみると、並べたはずの墓石はなくなってて……


「……古い……石仏っていうのかしら……?」

「道祖神じゃないかな? 仲良さそうな男女が手をつないでる姿が彫ってあるし」

 

 まるで……二度と離れ離れになるまいとしているみたいに。


「……どうするの? (ゆう)()

「何となくだけど、取り込んで……じゃなくて、連れて行く(・・・・・)方が良いような気がする」

「連れて行く――って……これもマヨヒガのところへ?」

「うん……多分だけど、この二人(・・)もそれを望んでるような気がするし」


 ぼくがそう言うと、()(りん)は小さな溜息をついた。


「……ま、鳥居やお地蔵様や案山子(かかし)様を取り込んでる……お迎えしてる時点で今更よね。どうせバレたりもしないでしょうし、構わないからやっちゃいなさい」

「うん」


 気分的なものだけど……()(りん)がそう言ってくれると気が楽になるよね。ちょっと偉そうなのも、(しか)るべき筋から許可をもらえたみたいで好い感じだし。()(りん)がいてくれて良かったよ。



・・・・・・・・



 ――それからは、墓地跡に出るという火の玉の噂は聞かれなくなった。


今回の更新はこれにて終幕です。本作は不定期更新ではありますが、大体月一回ペースでの更新を目指しています。今後ともお付き合い戴ければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] これからもよろしくお願いいたします。
[一言] おお!ホンモノでしたか。こういうちょっとした現代ファンタジー的な話は良いですね!
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