表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぼくたちのマヨヒガ  作者: 唖鳴蝉
第二部 五年生 夏休み
52/118

第十四章 ぼくらが台風の被害を調べた時の事 2.川を見に行った時の事

 ~Side 優樹~


 町内の台風被害はそう大した事なくて、それはそれで良い事なんだけど、ぼくとしてはもう少し崖崩れとかがあっても好かったんだけど……落石とか土砂とかね。

 ま、土も石も採ろうと思えばいつだって採れるんだし、そこまでこだわる必要はないけどね。ぼくの本命は流木だ。


「流木ねぇ……」

「うん。石と違って木材は、得られる機会が少ないからね」

「そう言えば……生きている木は取り込めないんだったわね……」

「そ。だから、この機会を逃すわけにはいかないんだよね」


 狙いは木材だけじゃないんだよね。

 こないだ川へ行った時には、石の間に引っかかってた枯れ草とかも取り込めたしね。ヨシっていうのかな。そこらの雑草よりも役に立つみたいだし。


「けど(ゆう)()、水の勢いはまだ強いわよ? あたしの水魔法に期待してるわけ?」

「う~ん……それもいいけど、多分河原に降りて行こうとすると、親切な(・・・)人たちが止めると思うんだよね」

「まぁねぇ……子供が増水した川に近寄ってたら、そりゃ止めるわよねぇ……」


 立場を変えればぼくだってそうするだろうしね。

 ここで無茶をする子供だなんて評価が固まるのは、今後の事を考えるとよくないんだ。


「うん、だから基本的には水辺には近寄らなくて、写真を撮ってるだけ――って風にしたいんだよね」


 ぼくの【取り込み】も上達してきたからね。今では十メートル以上離れていても、問題なく素材を取り込む事ができる。


「……けど、その現場を見られたら色々とまずいから、あたしに周囲を警戒しろ――っていうわけね?」

「うん。()(りん)ちゃんのスキルはそういうのに向いてるし、スキルの訓練にもなるよね?」

「はぁ……まぁいいわ。これも共同作業だものね」



・・・・・・・・



 そんな感じで、ぼくらは川の様子をチェックしつつ、流木や草とかを回収していった。川縁(かわべり)に下りて行くまでもなくて、橋の下のアンダーパスにも意外と流れ着いていたしね。

 町内の被害は大した事なかったけど、上流ではそこそこ被害が出てるみたいで、予想してた以上の流木を取り込む事ができた。……正直な話、水辺に生えてる低木を回収できたら上出来だって思ってたんだけど……土石流か何かで流されて来たらしいスギの丸太が幾つかあったのには驚いたよ。……()(りん)に見張ってもらってて、大丈夫と判断したから取り込んだけど、品質も貢献度も結構高かったんだよね。


 そんなこんなでぼくとしては割とウハウハだったんだけど……



 ********



 ~Side 真凜~


()(りん)ちゃん! アレ!」


 切羽詰まったような(ゆう)()の声に驚いて、指し示してる方に目を向けると……


「……犬?」

「子犬みたいだよね」


 板切れにしがみつくようにして流されて来たのは、まだ小さな子犬だった。……動かないけど……死んでるのかしら?


()(りん)ちゃん、水魔法で引き寄せる事ってできる? 不自然でないように――って事だけど」

「大丈夫よ」


 どうせ水の流れはいつもと違ってるわけだし、多少おかしな感じになっても、怪しまれる心配はないわよね。

 水魔法で板もろとも子犬を引き寄せて、上手く岸辺に引き上げた。


 ……まだ息はあるみたいだけど……


()(りん)ちゃん、治癒魔法を試す好機だよ」


 ……治癒魔法?


「うん。ここで使わなきゃいつ使うのさ。動物実験とか言う前に、使わなきゃこの子犬、死んじゃうよ?」

「う、うん……」

「あ、ラノベみたいに光とか出たらまずいから、周りの状況には注意してね。ぼくも一応は目隠しになるようにするからさ」


 アサガオの時には別に発光しなかったけど……あの時と違って、今度は全力でやらなくちゃまずいのよね。


「あ、いきなり全力はよしたがいいよ。最初は少し強め程度にかけて、様子を見ながらの方がいいんじゃないかな? ……消費魔力とも相談しなくちゃだろうし」


 ためらってるあたしと違って、(ゆう)()はテキパキと手筈を決めてる。

 ……そうよね……ここでやらなきゃ、この子犬()だって死んじゃうのよね……


 覚悟を決めて【手当】を使ってみたんだけど……


「……へぇ……ラノベみたいに光とかは出ないんだ」

「そうみたい」

「手を当てるのが必要なわけ? 感染症の治療とか考えると、あまり接触するのは感心しないんだけど」

「う~ん……(ゆう)()の【取り込み】と同じじゃないかな。上達すると、必ずしも手を触れる必要はないと思う。……あとは力の入れ具合かな?」


 実際、アサガオにはそこまで触れる必要はなかったし。


「ふぅん……あ、目を開けた」

「……うん、弱ってたけど、もう大丈夫みたいね」

「……そういうのもわかるんだ?」

「えぇ。診断っぽい事もできるみたい。……あ……でも、お腹が減ってるみたいよ、この子」


 水だけは嫌というほど飲んだだろうけど、食べる方はできなかったみたいだものね。

 お弁当に持って来たパン、少し分けてあげなきゃダメかしらね。


「……で、(ゆう)()……この子どうしよう?」


 あたしに(なつ)いてくれたみたいだし、飼いたい気もあるんだけど……お父さんとお母さんがどう言うか……


「う~ん……首輪してるみたいだし、飼い犬だよね? 鑑札とか付いてない?」


 あ……そうか。飼い主の人、探してるわよね、きっと。


「まぁ、飼い主が無事かどうかって問題もあるけど……とりあえず、市役所の対策本部に連れて行くしかないんじゃないかな」



・・・・・・・・



 結局、子犬は連絡を受けてやって来た飼い主の人に引き取られていった。

 すごく心配してたみたいだし、あの子のためにもこれでよかったのよね。


 ……ちょっと残念な気もするけど……大分ね……


これにて今回の更新は終了です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 続きが読みたいです。更新を楽しみにしてます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ