第一章 ぼくたちが迷い家に出会った日 5.迷い家(その3)
~Side 優樹~
《マヨヒガを選んだ場合、保有者の魔力に合わせて新たに建築する必要があるため、竣工までに時間がかかります。また、初期状態では現在の迷い家より、容積や設備の面で劣ります。更に、現在の迷い家にあるものを持ち帰る事はできません。それでもマヨヒガを選びますか? はい/いいえ》
ぼくはためらう事なく「はい」を押した。当然だよね?
「……ちょっと優樹……今のアクションって、ひょっとして……」
「うん。マヨヒガを選べるみたいだったから、選んじゃった」
「はぁ!? 何なのよそれ!?」
呆れたように叫ぶ真凜に、ぼくはウィンドウの説明文について話してやった。
「……ここの『迷い家』より性能は劣るのよね?」
「だけど説明文には〝初期状態〟って書いてあったし。わざわざ〝初期状態〟って書くからには、今後バージョンアップとか強化が可能って事だろうし」
「……それもそうね。……けど、バージョンアップにどれだけ時間がかかるか、わからないわよ?」
「う……それを言われると……けど、その場合でもマヨヒガが増えるのは確かなんだよね? それはそれで面白いじゃない?」
どうせ棚ボタのあぶく銭みたいなもんだし、生涯かけて楽しめる盆栽みたいなもんだと思えば……
「……優樹ってば、他人の事はうるさく注意するくせに、自分の事だとノリと勢いで決めちゃうのよね」
「我が身を省みず、他人の安全と幸せに気を配ってるんだよ?」
・・・・・・・・
その後で迷い家を出ると、またすごい霧が立ちこめて……霧が晴れたと思ったら、ぼくは元の散歩道にいた。ちなみに真凜も一緒だった。
「……夢……じゃ、ないわよね……?」
「真凜ちゃん、まだ巻物持ってるじゃない。どうすんのさ、それ?」
「え、え~と……どうしよっか……」
「……この山の上の方なら人も来ないし。そこで試してみたら? ラノベのスキルスクロールみたいに、光って消えちゃうのかどうか」
「そ、そうね……」
・・・・・・・・
結論から言うと、真凜がもらったのは本当に魔法のスキルスクロールだったみたいだ。……少なくとも、それっぽいと言うか。
広げるとぼんやり光を放って、その光が真凜に吸い込まれるように消えた。
「……でさ、魔法、使えるようになったわけ?」
「え、えぇと……よくわかんないけど……」
真凜はあれこれ試してたみたいだけど、魔法を使う事はできなかった。ラノベでは定番のステータスも、見る事ができなかったみたいだしね。すっかりしょげてる。
「まぁ……そもそも魔力とかって、今まで意識した事なかったしね。それがわかるようになるまで、魔法は使えないとかじゃないの?」
「……何か、だまされたような気がする……」
「正しい処置だと思うよ? 魔法の使い方もおぼつかない子供が、いきなり大魔法を使おうなんてしたら……」
「……大惨事、間違い無しね……」
「だろ? やっぱり地道な練習から始めるべきなんだよ」
「あ~あ……チートで無双な人生はなしかぁ」
「〝千里の道も一歩から〟――って言うしね」
――こんな風にして、ぼくたちとマヨヒガの冒険が幕を開けた。




