第十二章 ぼくらが怪異を調べ始めた日 3.真凜の祖父から聞いた話(その1)
~Side 真凜~
優樹に誘われて「日本の怪異・妖怪展」というのを見に来たんだけど……肝心のマヨヒガの事は展示してなかったのよね。それどころか優樹ってば、マヨヒガの事なんか気にもしてなかったみたいだし。おばさんからチケットを二枚もらったから誘ったって言ってたけど……もう少し自分の立場っていうものを考えてほしいわよね。マヨヒガなんてもらってるくせに。
大体、マヨヒガがいきなりこの町に現れたのがおかしいと思うべきよ。この辺りにマヨヒガが出た事なんか、今までなかったはずなのに。
……こういう場合、ラノベだと全国の怪異が活発化してる――っていうのが定番の展開なのよね。なのに……優樹ったら、危機感ってものがないのかしら。
その辺を確かめるためにも、マヨヒガ以外の怪異について知っておくのは重要だし、優樹もてっきりそのつもりだと思ってたんだけど……
不完全燃焼っていうか、何かスッキリしなかったから、近くに住んでる勝三お祖父ちゃんのところへ昔話を聞きに行く事を提案してみた。勝三お祖父ちゃんは土地っ子だから、地元の昔話とか怪談にもくわしいのよね。
それで、優樹を連れてお祖父ちゃんのところへ話を聞きに行ったんだけど……
・・・・・・・・
「いやぁ~……まさか真凜がボーイフレンドを連れて来てくれるとはのぉ」
「そんなんじゃないってば。市民ホールであってた『日本の怪異・妖怪展』を見て、お祖父ちゃんがしてくれた昔話……怪談を思い出しただけだから」
「妖怪のぉ……確かに、デートに誘うにゃ妙なところじゃが……」
だから、そういうんじゃないって言ってるのに。
「あの……母親からチケットをもらったんですけど……ぼく、ほかに誘う相手もいなくって……」
「お、おぉ……そうなんかいの……」
……優樹ってば……うそじゃないけど、その言い方だと優樹がいじめられっ子のボッチみたいに聞こえるじゃないのよ。……まさか……気弱な少年を演じて、あたしに説明役を押しつける気じゃないでしょうね? ……いえ……ここはあたしのお祖父ちゃん家なんだから、あたしが聞き役にまわるのは当然なんだけど……
「そ、それで何が聞きたいんかの?」
あぁ……お祖父ちゃん、完全にあたしを聞き役にする気だわ……。追及されてボロを出さない用心とはいえ、優樹も巧く立ち回ったものね……
「えぇと……この土地の怪談とか七不思議とか、そういう話を聞きたいんだけど」
「七不思議のぉ……そりゃ色々あるが……」
そう言ってお祖父ちゃんが話してくれたのは――
・昔、合戦で死んだ亡者の群れがこの辺りに押し寄せて来た事があったが、ある原っぱを越える事ができなかったため、村への被害は出なかった。この原っぱが塞の原と呼ばれている場所である。この原っぱに悪さする者は祟られるというので、今も原っぱのまま残されている。亡者が原っぱを越えられなかった理由は判らない。
・満月の夜、入道池に映った月の影が、いつの間にかお坊さんの顔になっている。出会った者が礼儀正しく挨拶すると、ちゃんと挨拶を返してくれて、将来の事などをアドバイスしてくれる。
・今は廃寺になっている称明寺の跡にある鳥居が時々散歩する。お寺があった頃はそんな事は無かったから、お寺が無くなって鳥居様も退屈なんだろう。
「お寺に鳥居があったんですか?」
……うっかり聞き流しそうになったけど、優樹の言うとおり、お寺に鳥居っていうのもおかしな話よね。けど、お祖父ちゃんが言うには、
「神仏習合というやつでな。明治時代に神仏分離令とかいうのはあったそうなんじゃが、実際問題として神主さんがおらんかったとかでな。和尚さんが袈裟着て、払子の代わりに御幣持って、祝詞を上げておったんだと。今はそれぞれ別のところに祀ってあって、寺は廃寺になったわけじゃが。……続けるぞ?」