第十二章 ぼくらが怪異を調べ始めた日 1.展示会~一つ目小僧と天狗の事~
お久しぶりの「マヨヒガ」です。今回から妖怪ネタがチラリホラリと出てきます。今回は全五話を、一日一話投稿する予定です。
~Side 優樹~
ぼくらが怪異について調べ始めたきっかけは、お母さんからもらったチケットだった。市民ホールの催しで、〝夏の納涼企画〟とか銘打って、「日本の怪異・妖怪展」というのがあるらしい。新聞屋さんからもらったチケットが二枚あるから、真凛を誘って行ってこいとのお達しだった。……どうせ本音は、子供の世話を放り出してノンビリしたい――とかなんだろうけど。
ダメ元で真凛に電話したら、行くって言うんでびっくりしたけど……よく考えたら真凛って、歴史とか時代劇とかのファンだったよね。なら、食いついてきたのも道理かぁ。
ま、そんなわけで、ぼくと真凛は市民ホールにやって来たわけだけど……
「意外にアカデミックな展示よね」
「うん。最悪、お化けの人形とかが置いてあるだけの、子供だましかと思ってた」
日本の代表的な妖怪や怪異について、写真や図を使ったパネルで説明してあるだけじゃなくて、いくつかの妖怪については「現物」を展示してあった。
いや――妖怪のはく製とか干物が置いてあるんじゃなくって、妖怪の死体やその一部だとされた、石とか骨とかなんだけど。
「ゾウの頭の骨かぁ……確かに、一つ目の怪物に見えるわよね」
「うん、真ん中にあるでっかい穴が鼻の穴だなんて、これは知らないと間違えそうだよね」
「これが一つ目小僧の正体っていうわけ?」
「どうだろう……そもそもゾウの骨なんて見る機会があったのかな? ゾウがいるのって熱帯だよね?」
「化石かもしれないわよ? 野尻湖で発掘されるような」
「あぁ……ナウマン象かぁ……」
確かにそれなら目にする事もあったかもだけど……
「だったら一つ目小僧の分布って、ゾウの化石の出土地と重なるのかな? パネルで見ると、一つ目小僧って日本各地に分布してるんだけど」
ぼくがそう言ったら、パネルの説明文を読んでいた真凛が、
「ゾウの化石も全国各地で見つかってるみたいよ? ここに書いてあるけど」
そうなんだ……
「……でも、ゾウの骨が一つ目小僧の正体で、こんなにあちこちでゾウの骨が見つかってるんだとしたら、一つぐらいは証拠として残っててもいいんじゃない? 例えばどっかのお寺とかに、一つ目小僧の頭の骨――とかいって」
――けど、そんな話は聞いた事がないよね?
「そもそも一つ目小僧には、鍛冶師のイメージも重なってるそうだから、ゾウだけに原因を求めるのは無理みたいね」
「鍛冶師?」
「うん、ほら、ここに書いてある」
真凜が示すところを読んでみると、確かに製鉄との関連性が書いてあって、日本だけでなくギリシャ神話のキュクロプスもそれに当たるらしい事が書いてあった。長たらしくて面倒そうだから適当に読み飛ばしてたんだけど……これは、他もちゃんと読まないと真凜がうるさそうだな……
「あ、天狗の骨っていうのもあるわよ? へぇ……イルカの頭の骨なんだ」
「へ?」
天狗って、山にいるアレだよね? 鼻が長くて山伏の格好した? ……何でイルカと関連するんだよ?
「……蘇我入鹿ってオチじゃないよね?」
「違うわ。やっぱり化石の骨みたいよ?」
……蘇我入鹿の化石……じゃなくて、イルカの化石だよね?
「……百歩譲って化石だとしても、イルカと天狗のどこが似てるのさ?」
「ん~……天狗には二種類あって、鼻高天狗と烏天狗がいるっていうから、後の方じゃないかな?」
「あ……烏天狗かぁ……」
イルカの頭の骨が展示してあるんだけど……言われてみれば、烏天狗のくちばしに見えない事もないかも……
「へぇ……天狗の爪の他に、天狗のくちばしっていうのもあるんだ……」
「……爪とくちばし?」
「うん、天狗の爪はサメの歯の化石で、くちばしは……何だか色んな動物の歯の化石みたい」
「……天狗とか妖怪とかって、全部化石で説明できるのかな?」
「……得体の知れない骨とか歯とかが見つかると、全部妖怪のものにして、収まりをつけたんじゃないかな。けど、妖怪のすべてが化石とは限らないみたいよ?」
明日も概ねこの時間に投稿する予定です。