第十一章 ぼくたちのキャンプリゾート 5.共犯者たちの秘密
~Side 優樹~
食堂で昼食をとった後、ぼくと真凜は連れ立って出かけた。親たちには〝その辺を歩いてくる〟――って言ったんだけど……何だかニコニコして送り出された。
多分、ぼくたちの世話から解放されてゆっくりできるのが嬉しいんだろう。まぁ、ぼくたちはぼくたちで、こっそり相談しなきゃいけない事があるからね。アサガオとか。
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あまり人目に付かない適当な場所で、アサガオの件を真凜に確認したところ、
「ふぅん……【手当】はアサガオの成長には影響しないんだ……」
真凜の治癒魔法がどういう仕組みで効果を発揮するのかわからないだけに、ぼくらとしては慎重にならざるを得ないんだよね。
仮に――多分ないとは思うけど――時間を巻き戻すような感じで傷とかを元に戻しているのなら、芽生えの正常な成長までもが「治癒魔法」によって妨げられる可能性があったんだ。これって、ぼくらに使った場合、下手をすると筋肉の超回復や免疫記憶まで妨げられる可能性があったんだよね。
今回の実験結果はその可能性を――動物と植物の違いがあるから完全にとは言えないけど――否定する事になったわけで、ぼくらとしては安心材料が増えた事になる。
あとは細胞分裂を促進させて傷を治している可能性だけど……この場合問題になるのは、組織の老化を促進させる結果になるんじゃないか――って事だよね。治癒魔法で治した部分だけ老化が進んで、歳をとったら染みになったりして。
こっちはもっと長い期間観察して、寿命に影響するかどうかを確かめないと、何とも言えないかな。
「今のところはね。まぁ、もっと長期間の観察をしないと、安心はできないけど」
……真凜ってば、細胞分裂の促進という可能性、別の言い方をすると、老化が促進される可能性を気にしてたからなぁ……染みとかできるのは願い下げ――って感じで。
ま、ぼくにとっても他人事じゃないんだけど。
「でも真凜ちゃん、今は家を留守にしてるんだよね? 枯れたりしないかな、アサガオ」
「大丈夫。お隣に頼んでるから、水やりくらいはやってくれるって」
「あ、そうなんだ」
さすがにちゃんと考えてるんだね。
――そんな他愛もない事を話していると……
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「ねぇ優樹……あれって、いわゆる野犬ってやつ?」
「みたいだね」
ある意味でラノベ的なお約束に従ったのか、ぼくらの目の前に現れたのは、嫌な感じにうなっている野犬だった。……異世界もののラノベだと、ゴブリンとか出てくる場面なんだろうなぁ。
熊用の催涙スプレーとかは持ってないけど、一応虫除けスプレーと殺虫剤のスプレーは持って来ているから、それなりの効果はあるはずだ。その後は……隙をついて逃げるか反撃するか。ぼくはともかく、真凜なら一撃を入れる事ぐらいできるかもしれない。それでひるんでくれたら万々歳……って、思ってたんだけど……
ギャイン!――っていうような悲鳴を上げて、ぼくらに襲いかかろうとした野犬はもんどり打った――で、いいんだよね? こういう時?――後で動かなくなった。思わず真凜を振り返って見ると、気取った様子で指をピストルの形にして、伸ばした人差し指にフッと息を吹きかけて見せた。銃口の硝煙を吹き飛ばすような仕草なのかな? 何だか昭和っぽいね。
「……魔法?」
「えぇ。風魔法のウィンドカッター……【風刃】よ。土魔法の【飛礫】にしようかとも思ったんだけど、こっちの方が使い慣れてるから」
あぁ……ゴキブリ相手に特訓したんだっけ……
死体をそのままにしておくのもまずいような気がしたんで、ぼくがマヨヒガの素材として取り込んだ。品質は最低だったけど。
「優樹のスキルって、証拠隠滅には最適よね」
「……証拠も残さず敵を倒せる、真凜ちゃんのスキルだって大概じゃないかな」
〝五十歩百歩〟――ってことわざが頭に浮かんだけど、真凜の感想は少し違ってた。
「あたしたちは相棒ってわけね!」
……こういうのは「共犯者」っていうんだよ、真凜ちゃん。
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その後で真凜から聞いたところでは、野犬を倒した事によってなのか、ステータスの値が大きく上がったそうだ。
これに味を占めて、野犬狩りなんて言い出さなきゃいいけど……
今回の更新はこれにて終幕となります。
[あらすじ]で言及している〝怪異調べ〟は、次回以降の話になります。
乞うご期待?




