第一章 ぼくたちが迷い家に出会った日 4.迷い家(その2)
~Side 優樹~
真凜はすごい食いつきっぷりだけど、普通に考えたら家宅侵入の上に泥棒だよね。そもそも、この世界での法律とかしきたりとか知らないのに、ぼくらの勝手な思い込みで泥棒とかしていいのかな? 某ゲームでも、主人公が人の家のタンスを漁ったりしてたけど……あれって普通に犯罪だよね?
某・名作アニメにもあったように――
「勝手に持って帰ったら、豚になったりしない?」
「……あたしの名前、千尋じゃないし……」
うん、少しクールダウンしたみたいだ。さすがに同級生を犯罪者にはしたくないからね。
「まぁ、手を触れずに見てまわるくらいなら、大丈夫じゃないかな。家の人が来たら、ごめんなさいって謝ればいいんだし」
「……うん、そうする……」
とは言え、色んなものが置いてあるなぁ。絵皿とか壺とか……あれは香炉かな? 何で土間なんかに置いてあるんだろうね? 瓢箪と竹筒は水筒代わりかな? 鎌や鉈とかは、あったら便利な気もするけど……草鞋とかは微妙だなぁ。
……もう一つ、ひそかに気になってる事があるんだよね。真凜はハイになってて気がついてないみたいだけど……湯飲みのお茶、かれこれ三十分近く経ってるはずなのに、まだ湯気が出てるんだ……
「優樹! ほら見て! スキルスクロールがある!」
「……スクロールってか、巻物じゃない? 虎の巻――とかみたいな」
「細かいわね……英語か日本語かの違いだけでしょう?」
「いやいや、スキルスクロールとは限らないから。『鳥羽僧正絵巻』みたいな絵巻物かもしれないじゃない?」
「……それはそれですごそうな気がするけど……」
手に取るかどうか思い悩んでるみたいだから、ここは一つ忠告しておこう。
「開いてみたら春画かもしれないよ? しかも、それが更にスキルスクロールになってたりして」
「サイテーッ!」
真凜はプリプリしてるけど、やっぱり不用意に触らない方がいいと思うんだ。ウィルス感染とかも怖いしね。天然痘とか炭疽菌とか出血熱とか。
――うん? 土間をこっちに進むと……あぁ、台所になってるのか。流しとカマドっぽいのがある。
食材とか色々置いてあるなぁ。……野菜や果物があるけど……見た事があるのとないのが半々ぐらいだ。……あのトゲトゲのって、ドリアンだよね? 和風民家の板の間に置いてあると、ミスマッチ感がすごいなぁ……
あ、こっちの板の間には囲炉裏が切ってある。真凜が見たら喜びそうだな。
「優樹っ! ちょっと来てっ!」
……真凜、何をあわててるんだろ? 囲炉裏も目に入ってなさそうだな。
「ほらっ! ほらほらっ! 魔法のスキルスクロールよ!」
あぁ……注意したのに三本も抱え込んじゃって……
「あのね真凜ちゃん、巻物だからって魔法のスクロールとは……」
「見てこれっ! ほらっ!」
「押しつけなくても見えるってば。……何? 『魔道秘伝書』……?」
……うん、ビックリだね。
「……それはわかったけどさ、真凜ちゃん。そんなにすごそうなものなら、なおさら持ってっちゃ駄目じゃないかな? 仮にここが『迷い家』だとしても、うかつに手に取ったら、もうクーリングオフとかできないかもしれないんだよ?」
契約条項はキッチリ読まないと。ぼくの叔父さんなんか、毎回それでひどい目にあってるんだから。
「大丈夫だって! ちゃんとメッセージで訊いてくるんだから!」
「……メッセージ?」
「そうよ! 何か品物を手に取ると、目の前にウィンドウがポップアップするの。そこで持ち帰るかどうかを訊かれるのよ」
「うわぁ……」
「迷い家」も現代風にバージョンアップしてるのかぁ……
「ともかく、これでここが『迷い家』だってはっきりしたんだから、優樹もさっさと選んじゃいなさい」
「急にそんな事言われても……」
これだけの中から一つ選べだなんて……簡単に決められるわけないじゃないか。ここだけじゃなくて、奥の部屋にも何かありそうだし、納屋とかにも何かありそうだよね。
「ほらほら早く」
「そんな事言ったって……あ~あ、『迷い家』を持ち帰れるんなら、迷わずそれにするんだけどなぁ」
「……『迷い家』丸ごと? ……欲深いわね」
「違うよ。中身は外して『迷い家』だけ」
「……空箱だけもらってどうするのよ?」
……真凜……〝空箱〟よばわりはひどくない?
「だって便利じゃん? 要するに隠れ処って事でしょ? それも秘密の」
「……いいわね……それ」
「ね?」
……そんな事を言ってると、ぼくの目の前に半透明なウィンドウがポップアップした。
作者の他作品「従魔のためのダンジョン、コアのためのダンジョン」、「スキルリッチ・ワールド・オンライン」、「転生者は世間知らず」、「なりゆき乱世 1・2」 および「とある死霊術師の回顧録」シリーズも宜しければご覧下さい。