第十章 ぼくたちの自由研究計画 1.真凜の悩み
お久しぶりのマヨヒガです。今月は二話ほど更新します。
~Side 真凛~
あと十日もすれば夏休みが始まる。その事自体は大歓迎なんだけど……
「……毎年夏休みが近付くと、ユーウツになる事があるのよね……」
学校からの帰り道、方向が同じだから途中までいっしょしてる優樹にそうぼやいたんだけど……
「……真凛ちゃん、夏休みがユーウツなの?」
信じられないものを見るような目付きで、優樹が問いかけてきた。
「違うわよ。夏休み自体は嬉しいの。ユーウツなのは自由研究よ」
決まった課題をこなすだけなら何でもないんだけど……あんまり得意じゃないのよね、生徒の自主性とか創意工夫とか――って。毎年、お父さんお母さんと知恵を絞って考えるんだけど……
「最近は『夏休みの自由研究キット』なんてのも売ってるじゃない?」
「嫌いなのよ、そういうの。何かズルしてる気になるし」
「わかる。ぼくらの苦境を商売にしてる連中にもうけさせる……なんて、気分悪いよね」
「そういうのとも少し違うんだけど……」
……優樹はそういう悩みはなさそうよね? 少しアドバイスとか、もらえないかしら?
「優樹はどうしてるの? 自由研究」
「ぼく? ……特に決めてないかな。その年その年に見聞きした事を、適当にまとめるって感じで。……あ、採集とかする時に色んなデータをいっしょに記録しておくのが、コツと言えばコツかな?」
あぁ……優樹ってば、虫とりとか得意そうだもんね……
けど、あたしはそっち方面は得意じゃないし、参考にはならないかと思っていたら……優樹がおかしな事を言い出した。
「……考えたんだけどさ……アサガオの観察日記なら、真凛ちゃんの希望にも合うんじゃないかな」
「はぁ? アサガオ?」
五年生にもなって今更アサガオの観察日記だなんて――と思ってむくれていたら、優樹の提案はもう一つ奥があった。
「……治癒魔法の実験……ですって?」
「うん。動物と植物の違いはあるけど、堂々と実験できるチャンスじゃないかな。まだ手を着けてなかったよね? 【手当】の検証」
「……くわしく聞かせてもらおうかしら?」
懸案だった治癒魔法の検証と夏休みの自由研究が一気に片付くんなら……これは見過ごせない話よね。そう思って優樹を問い詰めたんだけど……
「……アサガオに【手当】をかける? それだけ?」
「うん。やる事は単純だけど、得られる情報は無視できないと思うんだ」
優樹の提案は、アサガオの芽生えに対して継続的に【手当】をかけるというものだった。
「治癒魔法の問題点はいくつかあるけど……とりあえず、負傷から回復するための成長と、通常の成長を区別するかどうかが問題だと思うんだ」
「そうねぇ……傷が治るのも体組織の成長には違いないけど……そうでない普通の成長にまで、治癒魔法が効果を及ぼすかどうか。それを確かめようっていうの?」
「うん。アサガオなら成長は早いし。【手当】をかけた芽生えとかけない芽生えを較べて、成長に差が出るかどうかを見ればどうかなって」
優樹が言うには、〝もしも【手当】の効果が原状復帰というものなら、細胞の分裂まで元に戻される可能性がある〟――って事なんだけど……確かに、傷を治すつもりでかけた治癒魔法のせいで、成長が遅れるようじゃ問題よね。……だけど、
「……木魔法では実際に成長を促進できたわけだし、魔法にそういう効果があるのは確実じゃないの?」
「そうだとは思うけど、この際だからちゃんと確かめておいた方がよくない?」
まぁ……それはそうよね。
「――で、もしも治癒魔法でも成長促進の効果が見られたら?」
問題ないのかと思ってたら、優樹の意見は少し違ってた。
「単なる治癒以外の成長にも効果もあるって事になると、うかつに使わない方が良いと思う」
「……けど、動物と植物では違うわよね?」
「仮にも『治癒』って銘打っている以上は人間への使用を想定してるんだろうし、それにもかかわらず植物にまで効果が及ぶようだと、成長促進の効果はかなり強いんじゃないかと思うんだ」
「……不用意に使えないほど――って事ね?」
「うん。……ただぼくとしては、そこまで無節操な効果はないとおもう。けど、確認は必要だと思うから。それに……」
「……それに?」
「少なくとも治癒魔法の訓練にはなると思うから」
……悪い話じゃなさそうね。
明日もこの時刻に更新の予定です。