第九章 ぼくらが河原に通うわけ 1.ロケハンに行って魔法の仕上がり具合を聞いた時の事
~Side 優樹~
下校中に真凜と相談してから四日後の土曜日、ぼくたちは予定通りに自転車で川ぞいの道をさかのぼっていた。真凜が水魔法の訓練をするのに適切な河原を探すためだ。〝物色する〟――って言うんだっけ。
ばんば山へ立ち入れない間は訓練を休むっていう一番簡単な対策は、意気込む真凜によって即行で却下された。〝秘密の特訓はロマン!〟――なんだそうだ。わかるけど。
そうやって走っていると好さそうな場所があったので、ぼくたちは自転車を停めて河原へ降りて行った。
好い機会だから、この際真凜の魔法の仕上がり具合を聴いておこうかな。……今更っていう気もするけどね。
「あたしの魔法? そうねぇ……木魔法の【育成】を使うと、草木の成長が促進されるっていうのは知ってるわよね?」
「うん。ばんば山でも見たからね。木より草の方が育ちが速かったよね」
「ええ。あの後も色々試してみたんだけど、どうも一度に育てられる大きさには限度があるみたいなのよね」
何となくわかるな。その〝限度〟が、真凜の魔力量に由来するのか、植物側の理由によるのかはわからないけど。
「それで、土魔法を使って調べてみたら、あれって土の中の養分を使い尽くすみたいなのよね」
あぁ……そっちの可能性もあったっけ。
「その土魔法だけど、どこまでできるようになった?」
「【飛礫】……わかりやすく言うとストーンバレットだけど、今のところはピストルと同じ程度じゃないかしら」
「……真凜ちゃん……ピストル撃った事、あるんだ?」
「ないわよ! あくまで感覚的にって事よ!」
そうなんだ……ちょっと驚いたよ。……いや……真凜なら海外かどこかの訓練所で経験がある――って言われても、納得しそうだけど。
「ないない、勘違いしないでよね。……話を戻すわよ? それで、手元から撃つんならそこそこ使えるんだけど、離れた位置から発射しようとすると、まだ狙いが甘くなるのよね。このあたりが課題かしら」
「あぁ……魔法を使える事を隠すには、遠隔発射の技術は必要だよね」
「他は……土を動かして穴を作るのは大分できるようになったけど、まだ落とし穴っていうほど大きなものを作るには時間がかかるわね。ラノベとかでよくあるように、敵の足もとに素早く穴ぼこを作るのも、今のところまだ無理ね。それと……鉱石探査系の魔法は、どうやればいいのかが感覚的にわからないから、まだ手を着けてない」
「う~ん……現状の土魔法は、第一選択肢にはできないって事かぁ……他の魔法は?」
真凜は少しの間、考えをまとめるように上を向いていたけど、
「火魔法だけど、【火炎弾】は今のところ威力重視で育ててるわ。速さと精度を追求すると、土魔法の【飛礫】と被っちゃうから」
「あぁ、なるほどね。いいんじゃないかな」
「探知系の魔法については、熱のある方向が漠然とわかるくらいね。それも、今のところは熱量が大きいものしか判別できないし、赤外線も見えたりしない。スキルが解放された感じもないから、実用化はまだ先の事になりそうね」
「う~ん……マムシとかピット器官を持つヘビは、〇.二度の温度差を感じ取れるっていうくらいだから、これが使えたらすごく役に立つと思うんだけど……」
「……がんばってはみるけど……そこまでの感度は期待しないでちょうだい……」
ピット器官とか、それに代わるものが必要なのかもしれないな……魔道具とか。
「風魔法だけど……【風刃】はほぼ実用レベルに育ってると思う。今やゴキブリ退治には不可欠ね。……問題は、対人戦に使った場合の威力がわからない事だけど……」
「これはねぇ……いきなり実戦投入っていうのも怖いし、最初は奇襲的に使うしかないんじゃないかな。……そんな日が来れば――だけど」
「そうね……。【順風耳】と【変声】もいい感じに育ってるわね」
「風魔法は期待できそうだなぁ……。【順風耳】って、パッシブソナーみたいなやつだよね? 前に迷子の泣き声を聴き取った?」
「えぇ、そうよ」
「……フクロウは音を聴き取りやすいように、左右で耳の位置を変えたり、顔面をパラボラ状にしてるっていうけど……」
ただ思い付いた事を口に出しただけなんだけど、真凜の反応は激烈だった。
「嫌よ! 怪人になんかなるつもりはないわ!」
「嫌だなぁ真凜ちゃん、ぼくもそこまで要求したりしないよ。……あ、でも、アクティブソナーの能力は欲しいかも」
「アクティブソナー?」
「うん。エコロケーション……反響定位ってやつ。コウモリやイルカが超音波を出して、その跳ね返りから対象との距離を測ったりする」
「あぁ……聞いた事あるわ」
「コウモリだと鼻から超音波を出して、大きな耳で反響を受信するらしいけど……」
「嫌だってば! 鼻を鳴らすのも、耳をダ○ボにするのも御免よ!」
そこまで言ってないんだけどなぁ……
すっかりお冠の真凜が落ち着くのを待って、話を続ける。
「……最後は水魔法ね。【水弾】はウォーターボールってやつね。今のところは、小さな水滴を飛ばして目潰し狙いかな? 大きさと威力より、速さと精度を重視する感じ」
「土魔法の【飛礫】と同じなんだね?」
「えぇ。けど、どちらかと言えば、【水弾】は軽い分だけ速度を重視、【飛礫】は威力を重視って感じかな」
「なるほど……色々工夫してるんだね」
「あとは……水を顔に貼り付けるように動かす訓練かな。水球を木の枝先とかに貼り付けて、動かないよう魔力操作で固定するんだけど、まだスキルとして解放はされてない。手応えはあるんだけどね。【水絡み】っていうらしいわ」
……真凜の成長は喜ばしいんだけど……これって……
「思ってたより殺伐としてるんだね……」
「優樹が戦えないって言うから、仕方ないじゃない。女の子にこういう殺伐とした訓練をさせてるんだから、少しは反省しなさい」
「うん……何だかごめん……」
「まぁいいわ。優樹には別方面で活躍してもらう予定だから」
はい……がんばらせていただきます……
明日もこの時刻に更新の予定です。




