第八章 ぼくらと白骨死体とその顛末 3.ばんば山での訓練自粛を考えた事
~Side 優樹~
警察に報せた次の日、つまり昨日の夕方には、ローカルニュースでばんば山の白骨死体の事が流れた。下校中に真凜とその事を話してるんだけど、真凜の魔法は上手くいったみたいで、ぼくらのところへ訊き込みに来る刑事とかはいなかった。……十中八九、通報者が女子だとは思わなかったんじゃないかな? ぼくが聞いても、くたびれた小父さんの声にしか思えなかったし。凄いな、風魔法。
【変声】の術って言うみたいだけど。……本当に風魔法でいいのかな? 音は空気の振動だっていうし、空気の動きを取り扱う魔法が風魔法っていうのなら、別におかしくはないのかな?
まぁ、その辺は真凜に任せよう。それより問題なのは、
「しばらくの間は近寄らない方が良いだろうね、ばんば山」
「……やっぱりそう思う?」
「事件性があるんなら、警察が網を張ってるかもしれないしね。堂々とニュースで流れてたのを見ると、犯罪性はないと思うけど……野次馬が来てるかもしれないし。……ぼくたちも野次馬のふりをして、様子見に行くっていう手もあるけどね」
「う~ん……」
真凜と話し合った結果、何週間かは近寄らない方が無難だろうという事になった。
そうなると問題は……
「ばんば山以外の訓練場……っていう事になるよね」
「もしくは、トレーニングの内容や方法を変えるかよね」
「真凜ちゃんはそれでいいの?」
「短期間とは言え、属性魔法はそれなりに育ったから。そこまで切羽詰まってはいないわよ」
「う~ん……木魔法なら、他の山とかでも訓練できるかな。万十山とか」
「今のレベルならね。育ったところでたかが知れてると思うけど……」
「レベルが上がるとわかんないかぁ……」
木だとわかりにくいけど、草だとはっきり育ち方が違ったもんね。木魔法をかけた方。
「あと、手を着けていないのは……」
「治癒魔法――だよね」
けど……治癒魔法って、相手ありきの魔法だからなぁ。うかつに他人にかけるわけにはいかないし、かと言って、ぼくたち子供の身体に治癒魔法をかけるのは、どんな影響があるかわかんないし……動物実験とか、やった方がいいのかな?
「ケガしてる動物がいたならともかく、実験のために傷付けたりするのは嫌よ?」
「そんな事したら、動物だって怒りそうだしね。……もう少し考えてみないとダメか」
あ……待てよ……?
「真凜ちゃん、属性魔法の訓練は一通り終わったみたいな事を言ってたけど……実際にやってたのって、攻撃魔法だけ――だよね?」
「えぇ。そっちが優先だと思ったから。……何かまずかった?」
「そうじゃなくて……攻撃魔法以外の属性魔法はどうなの? ついこないだ、風魔法で声を変えたよね?」
「あぁ、【変声】ね。……そう言えば、攻撃系の魔法以外は手を着けてなかったわね……」
やっぱり真凜は隠れ脳筋枠……
「――何?」
「(……じゃなくて……)ううん、例えばだけど、身を守るためには攻撃もだけど、索敵とか隠蔽も重要だよね」
「そっちかぁ……」
「うん。治癒魔法もだけど、探知系とか隠蔽系の魔法はないのかって思って」
遠足の時に風魔法で子供の声を聴き取ったのって、聴音機……パッシブソナーそのものだよね。真凜は【順風耳】って言ってたけど。
「声を聴くのは風魔法だとしても、他にも何かできないかな? 火魔法で熱を感知するとか、土魔法で地中にあるものを探るとか」
「赤外線スコープと鉱石探査ね? ……できるかどうかはわからないけど……試してみる価値はありそうね」
「あとは……攻撃魔法の訓練をおろそかにもできないから、ばんば山以外の訓練地を探す必要もあるんだけどね」
結局、ばんば山でやる以外の訓練法を考えるという事になったんだけど……




