第八章 ぼくらと白骨死体とその顛末 2.ぼくら的に正しい通報の仕方
~Side 真凜~
聞いた時には〝何を言い出すんだろう〟って思ったけど……上手くできるんなら、それが一番良さそうな気もしてきた。
「遠足の時は風魔法で下級生の泣き声を聴いてたよね? あれって音波に干渉して、特定の声を選別して強調したって事じゃない? だったらその逆で、自分の声に干渉して、周波数とかを変えられないかな?」
「……考えた事もないから、何とも言えないけど……やってみる!」
風魔法をあれこれ工夫してみた結果、何とかできそうな気がしてきたのは、三十分ほど経ってからだった。
「……優樹に魔法をかければいいの?」
「もし偽装がバレて男の声だってわかった時、声変わり前だって事も自動的にわかるわけだから、真凜ちゃんにお願いしたいかな。真凜ちゃんも、慣れない魔法を他人にかけるより、自分にかけた方がやりやすいんじゃない?」
「う……それはそうだけど……」
結局は優樹に言いくるめられて、警察にはあたしが通報する事になった。しぶしぶスマホを取り出したら、
「あ、スマホはダメだよ。考え過ぎかもしれないけど、発信者が特定される危険があるから」
「ダメって……だったらどうするのよ?」
「下に降りてけば公衆電話があるから、そこから電話して」
「公衆電話……」
まだ生き残ってたんだ……公衆電話。
「あそこは人通りも少ないから、目撃される心配も少ないと思う。それと、電話をかける時は、これを使って」
「……何? これ。……ビニールの手袋?」
優樹が持ち出したのは、使い捨ての薄いビニール手袋だった。
犯罪者みたいな用意周到さに少し引いたけど、優樹が言うには、そういう目的で準備していたものではないらしい。万一の時のために用意していたとか言ってるけど……あたしには何となく見当が付いた。……家庭科でヨモギつみに出た時にもやらかしてたし……多分、動物のウンコをほぐして、糞虫っていうのを捕まえる時のためよね……
たとえ新品だとしても、そんなモノを着けるというのは、正直言って気が進まないんだけど……
「……着けなきゃダメ?」
仮に指紋を残しても、それがあたしのだってわからなければいいんじゃないの?
「指紋の鑑定はともかく、指の大きさで子供だってバレるかもしれないからね」
……その可能性があったかぁ……
「あと、警官っていう訊問のプロを相手に、まじめに受け答えなんかしちゃダメだよ? 言いたい事だけパーッと言って、すぐに切る事。いい?」
「いいけど……何で優樹がそんな事を知ってんのよ……?」
この子……本当に何かやってるんじゃないでしょうね? 変にくわし過ぎるんだけど?
「これくらいの知識、小説を読めば出てるよ?」
「……あたしが読んでるラノベには、そんなシーン出てこないわよ」
「分野が違うのかな? ミステリとかだと時々出てくるよ。特にハードボイルド」
……これからはそっち系も読むべきかしら……
それにしても……
「優樹、本当に小説の知識だけ? 何だか妙に具体的なんだけど?」
そう思って優樹を問いつめたら、実は前にも死体を発見した事があると白状した。
「家族でドングリ拾いに行った時にね。見つけたのはぼくだけど、警察の事情聴取は親が対応したんだよ」
その時の手続きが、色々と面倒だったのをおぼえているそうだ。そのせいで、面倒を避ける手段を考えているうちに、こういう知識も身についたらしい。……シミュレーションってやつかしら?
「後になって、警察から感謝状と粗品が届いたけどね」
……それはちょっとだけあこがれる。