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ぼくたちのマヨヒガ  作者: 唖鳴蝉
第一部 五年生 一学期
3/118

第一章 ぼくたちが迷い家に出会った日 3.迷い家(その1)【間取り図あり】

 ~Side 優樹~ 


 山すそに沿ってゆるくカーブした道を歩いて行くと、山の斜面に一軒家が見えた。


()(りん)ちゃん! ほら、あれ!」

「――家ね! ……魔女が住んでたりするのかしら?」

「和風の家みたいだし、どっちかって言ったら山姥(やまんば)じゃないかな?」

「……鬼女とかじゃない事を期待しましょう……」


 そんな事を話しながら、ぼくたちはこっそりとその家に近寄って行った。誰が住んでるのかわからないんだし、やっぱり用心は必要だからね。

 そうやって、近くから見たその家は……


「どう見ても、昔の民家って感じよね」


 (わら)(かや)かは判らないけど(くさ)()きの、破風(はふ)って言うのかな? あれが付いてる大きな屋根の民家だった。(まが)()って言うのかな? あんな感じ。

 一軒だけじゃなくて、周りにいくつか小屋みたいなのが建ってるけど。あの白塗りのは()(ぞう)かな? その反対側には屋根付きの井戸もあるし。(つる)()が見えてる。



・・・・・・・・



「山姥の家なら人間の骨とか捨ててありそうだけど、裏手にもそんなのなかったよね」

「……(ゆう)()ったら……そんなものを探してたの?」

「用心は必要じゃない? それより、この展開だと……」

「えぇ。異世界転移じゃなくってタイムスリップとか……単純に田舎(いなか)へ飛ばされただけって可能性もあるわよね?」

「でも、田舎(いなか)にしては電線とかなかったよ? 道にもタイヤの跡みたいなのはなかったし」

(ゆう)()……あなた結構目ざといのね」

「こういう場合だと、情報はぼくらの生命線だから」


 これくらいの用心は当たり前だよね。……()(りん)はやっぱり脳筋枠……


「何か言った?」

「……ううん、何も」


 ……勘が良いのは武道をやってるからかな、それとも女の子だからかな。……どっちにしても頼もしいけど。


「で、どうする?」

「どうしよっか?」


 相談の結果、少し離れたところから呼びかけてみようという事になった。〝案内を請う〟って言うんだっけ?


「たのもーっ!」

「違うわよ! 何言ってるのよ(ゆう)()!」

「あれ……? 〝お控えなすって〟――だった?」

「違うってば! あぁもぅ……すみませーん! どなたかいらっしゃいませんかーっ!」


 あぁ、そっちか。やっぱり()(りん)は頼りになるなぁ。



・・・・・・・・



 しばらくの間呼びかけながら待ってたんだけど、誰も出て来る様子はなかった。表の道を通る人も――人以外も――いないしで、


「……ごめんくださーい……」

「……おじゃましまーす……」


 ぼくらは用心しぃしぃ家の中に入る事にした。縁側から上がり込むのも何だし、突き出てる部分の戸が開いてたので、そこから入ったんだけどね。


「……変な感じね。地面?」

「あ、三和土(たたき)って言うんだよ。いわゆる土間(どま)だね」

「随分広いのね……土間」

「昔の農家とかじゃ普通だよ。()(りん)ちゃんは初めて?」

「うん……。うちはどっちのお爺ちゃんお婆ちゃんも市内だから」

「へぇ。うちの田舎(いなか)はどっちも山の中だし、やっぱりこんな感じだよ」

「ふ~ん……だったら、お茶とかおむすびとかが二人分、それもいつの間にか置いてあるのも普通なの?」

「……それはないかな……」


 家のつくりは確かに田舎(いなか)()なんだけど、置いてあるものは何かおかしいんだよね。土間の脇から上がりがまち、そこから続いてる板の間にもやたら棚とか置いてあって、そこに色んなものが置かれてるし。

 部屋のふすまも開け放ってあって、奥の和室の様子も……そこにも色んなものが置かれてるのが丸見えだし。……〝これ見よがし〟って言うんだっけ。


挿絵(By みてみん)


 そして、あいかわらず……


「すみませーん……って、やっぱり誰も出て来ないね」

「……間違いないわ。きっとこれは『(まよ)()』よ!」

「『(まよ)()』?」



 ――(まよ)()、或いはマヨヒガとは、東北から関東地方に伝わる伝承である。民俗学の泰斗・柳田國男が、現在の岩手県土淵村(現・遠野市)出身の佐々木喜善から聴き取った話を「遠野物語」として(まと)めた事で広く知られるようになった。

 それによると、山中で(まよ)()に遭遇した者は、そこから何かを持ち出す事が許される……と言うか、持ち出さねばならない。それというのも、(まよ)()はそのために姿を現したのだからという。



「――だから、ここにあるものは何でも一つだけ持ち帰っていいのよ!」


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