第七章 ぼくたちの報告会~証人喚問とかじゃなくて~ 1.校外学習で取り込んだもの
~Side 優樹~
色々あった校外学習から帰って来た次の日は学校が休みだったので、ぼくたちは久しぶりに万十山で会う事にした。真凛が何だか訊きたそうにしていたしね。
「当たり前よ。色々怪しい素振りを見せてたくせに、訊き出す機会もなかったんだから。ちゃっちゃと吐いてもらうわよ!」
……〝さっさと泥を吐け〟――だなんて、女の子の口ぶりじゃない……
「いいからとっととしゃべりなさい!」
……はーい……
「じゃあ……何から話そうか?」
「そうね……順番にいきましょう。まず、農園で小屋の中を見て、固まってたのはどうしてなのよ?」
あ……気付いてたんだ。目ざといなぁ。
「うん。納屋に置いてあった肥料の袋を眺めてたらね……『外部素材』って表示されて、取り込み可能になってた」
「……はぁ? 一体どういう……待って……肥料が取り込み対象って事は……何かを植えられる……って事なの?」
真凛は信じられないような顔をしてるけど、無理もないよね。ぼくだって、その意味に気付いた時にはびっくりしたもん。土――つまり庭も含めて「マヨヒガ」の対象だっていう事は、ひょっとすると……
「……待って……ひょっとしてあたしたちが迷い込んだ方の『迷い家』は……」
「うん。霧に囲まれた田園地帯全部が、あの『迷い家』の敷地だった……って事も考えられるよね。そうでなくても庭とか家の周りは、ぼくたちの『マヨヒガ』の範囲にも含まれるって事だろうし」
これって、今後の計画とか立てる時に、大幅な見直しが必要になるかもしれないよね。
「〝かもしれない〟――じゃなくて、確定よ。……いえ待って……先走るのはやめましょう。……土が対象って事は……木とか草とかも取り込めそうなの? 工事現場でも何かやってたわよね?」
……本当に目ざといなぁ。……まぁ、ぼくもちょいちょい真凛の方は見てたけど。万一魔法を暴発させたりしたら、大変だからね。
「さすが真凛ちゃん。察しがいいね」
「おだてないの。――で? どうだったの?」
「うん。工事現場で倒された木、根っこが付いてて葉が枯れてないのを対象に鑑定してみたんだけど、普通に素材としか表示されなかったよ。肥料の時みたいに『外部素材』って示されるんじゃないかと期待してたんだけどね」
「……生きた木は取り込めないって事なのかしら……?」
「家に帰ってからも少し試してみたんだけど、草とか木とかをそのまま取り込むのは無理みたいなんだ。少なくとも、今のぼくにはね」
「……優樹のレベルが上がれば可能かもしれないって事ね? ……待って、それだと種とかはどうなるの?」
「それも確かめたよ。……種なら、今のぼくにも取り込み可能だった。もちろん、『外部素材』としてね」
「――すごいじゃない!」
真凛は楽しそうにはしゃいでるけど……そうムセッソウに草花とか植えないよ? マヨヒガの外見とミスマッチになるかもしれないんだし。……西洋風のバラ園の中に藁葺き屋根の小屋が建ってたりしたら、やっぱりおかしいよね?
「それはそうなんだけど……でも、梅とか桜とか……リンゴとかナシとかブドウとかスイカとか……イチゴとかメロンくらいなら……」
……後半のラインナップ、明らかに果物が狙いだよね? ……まぁ、ぼくもクリとかクヌギとかミカンとかは植えようかと思ってるけど。……別にカブトムシとかクワガタとかアゲハチョウとかを狙ってるわけじゃないよ? シロスジカミキリとかも。……そう言えば……マヨヒガの世界にも、クビアカツヤカミキリっているんだろうか……?
「……まぁ、それはおいといて……工事現場で不審な素振りを見せたのはなぜ? 木が取り込めなかっただけじゃないわよね?」
「本当によく見てるね……うん、木じゃなくて〝石〟かな。……実は、お地蔵様を取り込めちゃったんだよね」
「……はぁ!?」
あぁ……真凛も意味がわからないって顔だけど……
「どうもさぁ……工事に伴って、そこにあった古いお地蔵様を、新品に替えたみたいなんだよね。で、古いお地蔵様の方は……」
「……そのまま捨てられてた――って事なの? 罰当たりじゃない?」
「その辺は何か手違いとかあったのかもね。ともあれ捨てられてたんだから、ぼくの方でマヨヒガにお招きしたんだよ」
「……待って優樹。そのお地蔵様だけど……『素材』じゃないのよね?」
「うん。ただ〝取り込みますか〟――って訊かれただけ。素材とは書いてなかったから、石材扱いじゃないと思う」
「……御霊抜きとかされてなかったのかしら? そのお地蔵様」
……温玉? 温泉玉子の事?
「――じゃないわよ。閉眼供養とも言って、お坊さんにお経を上げてもらって、仏像をただの『もの』にしてしまう儀式の事」
へぇ……そういうのがあるんだ……
「ご供養されてなかったか、お坊さんのお経が効果なかったんじゃない?」
「……よくわからないけど……でもまぁ、そのまま捨てられるよりは良いわよね、きっと……」
「うん、きっと」