第六章 ぼくたちの校外学習 1.観光農園にて~リンゴの摘花実習~
お久しぶりのマヨヒガです。今月は二章ほどまとめて連日投稿します。今回も優樹と真凜の二人にお付き合い下さい。
~Side 真凜~
あたしたちの通う現川小学校では、五年生になると泊まりがけでの校外学習がある。昔は色んな事を試してたみたいだけど、ここしばらくは観光農園で農作業のお手伝いをさせてもらうようになっている。毎年のようにお邪魔してるせいか、先生方も慣れた感じで指導してくれてる。
具体的にはリンゴのお花摘みをさせてもらう。リンゴって東北のイメージが強いんだけど、ここらでも観光農園としてなら充分やっていけるらしい。
で、お花摘みなんだけど……リンゴの花っていくつかまとまって咲くんだけど、それを……中心の花だけ残して、残りは摘み取っちゃうのよね。摘花っていうそうなんだけど。大きくて美味しい実をならせるには必要な作業だっていうんだけど……せっかく咲いたのに、ちょっとかわいそうよね。ポプリにするには匂いが弱いそうだし、そのまま捨てられてる。
「や~ん、縁遠先生、ハチが~」
「落ち着きなさい。そのハチは刺さないから大丈夫って言ったでしょ。……それと、私の名前は遠藤です! おかしな発音をしないように!」
他の班の女子がハチに大騒ぎしてるけど……このハチはリンゴの受粉のために、農園の人がわざわざ育ててるハチだ。マメコバチっていうらしいんだけど。
ミツバチと違って蜜は採れないけど、針で刺す事もないから安心なんだって。農園の人はこのハチが巣を作りやすいようにと、わざわざヨシっていう草の茎をたくさん用意している。
「鳥遊君……いい加減にハチの巣箱から離れなさい! ちゃんと摘花作業をしないと、農園の皆さんだってお暇じゃないんですよ!」
あぁ……優樹ってば、やっぱり巣箱に張り付いてたみたいね。先生に見つかって引き剥がされたけど。気持ちはわかるけど優樹、これも一応は授業なんだから、きちんとやっておかないと先生のご機嫌をそこねるわよ? 家庭科の草摘みでも、糞虫なんか捕まえようとして叱られてたし。
……に、しても……縁遠……じゃなくて遠藤先生。美人なのに、何で男の人と縁がないんだろ? 七不思議の一つだって、富田君とかは言ってるけど。
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曲がりなりにも実習を済ませて、これからあたしたちは泊まる旅館へ移動するんだけど……優樹ってば……今度はどうしたのかしら? 農機具とかをしまう小屋の入り口で固まっちゃってるし。……あ、富田君に声をかけられて正気に戻ったみたい。
……怪しいわね。マヨヒガがらみで何かに気付いたんじゃないかしら。後できっちり問いつめないと。
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~Side 優樹~
リンゴの摘花の実習はとどこおりなく終わって。ぼくらは農園の人たちにお礼とお別れのあいさつを済ませた。……まぁ、ぼくはちょっとよそ見をしてて、先生に叱られたけど……あれは無理のない事だと思うんだ。新任の理科の先生も、興味深そうにして写真なんか撮ってたし。……生徒の学問的好奇心を邪魔するような事をするのは、学校としてどうなんだろう。納得いかない。
少し不本意な気分のまま、引き上げてくる途中にあった納屋に何の気なしに目をやったんだけど……
《対象物の品質は以下の通りです。
【有機肥料】 品質:中 貢献度:小
マヨヒガの外部素材として取り込みますか? はい/いいえ》
こんな表示を目にしたら、少しの間フリーズしててもおかしくないよね?
まぁ、この時は茂ちんが怪しんで、何かあったのかと訊いてきたから、色んな肥料があって驚いたんだって誤魔化しておいたけど。
……気になる点は二つある。
一つは、肥料が〝肥料として〟素材と認められたって事。……これって要するに、庭木とか草花とか畑作物とかを、マヨヒガの敷地に植えられるって事だよね? 肥料の使いみちなんて、他に思い当たらないもん。……爆弾の原料じゃないよね?
そして第二は、これとも関係するんだけど、説明文にはっきりと「外部素材」って書いてある事だ。
マヨヒガの〝素材〟っていうから、てっきり建築材料の事だとばかり思ってたけど、これって……建物以外の部分も〝マヨヒガ〟に含まれる……って意味なのかな?
どっちにしても、これって真凛との相談案件だよね。