第五章 ぼくたちの遠足 2.ぼくたちがゴミ拾いを始めた理由
~Side 優樹~
今日は五月の全校遠足。新一年生を歓迎するのと、生徒が新しいクラスになじむようにとの学校側のハイリョで、毎年この時期に行なわれてる。……とは言っても、全学年の全生徒が同じ場所へ集中すると大変だからか、高学年と低学年で別々の場所へ行くんだけど。
ぼくたち高学年組が行くのは南仏山史跡公園。名前は「南無阿弥陀仏」がなまったんだとか言われてるけど……ここって神社を中心とした公園なんだよね。神社に「南無阿弥陀仏」の六字名号って……おかしくないかな?
ここは昔の武家屋敷だかお城だかの跡地らしい。結構な広さがある上に、周りはちょっとした林に取り囲まれてるから、ぼくも何度も遊びに来てる。てか、このあたりの子供だと、知らない方が少ないんじゃないかな。
勝手知ったる場所とは言え、油断すると何が起こるかわからないから、ぼくもいつもの野外行動キットは持って来てる。……まぁ、カッコつけて言うほど大したもんじゃないんだけどね。ハチとかに刺された時の毒抜きのためのポイズンリムーバーに、トゲ抜き用の毛抜きとピンセット、毛虫の毒針を取り除くためのガムテープ、消毒液に救急用バンソウコウ、傷口を洗うためのペットボトルの水くらいだ。あ、外国製の十徳ナイフは、こっそり持って来てるけど。
学校側も救急箱ぐらいは準備してるだろうけど、一刻を争って手当てする必要があるかもしれないからね。用心は必要だよ、うん。
生活班ごとに分かれてるから真凛とは別行動になるけど、そう毎度々々何かが起きたりはしないだろうし……別に不都合とかはないよね。
神社の敷地に入ると、あちこちに三叉の鉾が打ち捨てられている……と言っても本物じゃなくて、ご神器か何かのレプリカなんだけどね。お守りだか土産ものだかで売ってるんだ。安いのは金色の厚紙で、少し高いのはアルミでできている。小さい子供たちが欲しがるんだけど、飽きたらそこらに捨ててくみたいなんだ。
それでもアルミには違いないんだし、ひょっとして資源になるんじゃないかと思って【鑑定】してみたら……
《対象物の品質は以下の通りです。
【護符】 品質:下 貢献度:微小
マヨヒガの素材として取り込みますか? はい/いいえ》
……え……?
……待って待って……「護符」ってなってるけど……ただの量産品の土産ものだよね? 何で貢献度が「極微小」じゃなくて「微小」なの?
……仮にも神社のお守りだから? 何かの補正が効いてるっていうの?
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~Side 真凛~
全校遠足で南仏山にやって来た。ここは戦国時代の砦の跡に建てられた神社だとかで、あたしも何度か来た事がある。神社と言うよりも史跡公園として整備されていて、来訪者も参拝と言うより遊びに来た人たちの方が多いみたい。遊びのついでにお詣りしていくって感じかしら。
そんな調子だから信心も薄く、一応はお守りのはずの鉾のレプリカがあちこちに捨てられている。嘆かわしい事だと思ってたら……優樹が何を思ったか、すごい勢いでそのゴミ――って言うのもアレなんだけど、要するに捨てられてる鉾のレプリカ――を拾い集め始めた。
一見するとゴミ拾いに思えるんだけど……あの子はそんな殊勝なタマじゃない。大方、マヨヒガの材料に使えるとか気付いたんじゃないかしら。
でも、ま……ぱっと見では神社でゴミを拾ってる感心な子供よね。……あ……黙ってみてるのが決まり悪くなったのか、他の子たちもゴミを拾い出した。
「……ねぇ来住野さん、アレって、あたしたちも拾った方が良いかな?」
同じ班の木津川さんが困ったように訊いてくるんだけど……このまま知らんぷりしてるのも、先生方からのウケが悪くなりそうだしね。
……迷惑のツケは後で払ってもらうわよ、優樹。