第五章 ぼくたちの遠足 1.日曜日にぼくたちが打ち合わせた事
~Side 真凛~
ゴールデンウィークが終わった後の日曜日、今や恒例となった「ばんば山」での特訓を終えて、あたしと優樹は将来の事を相談していた。
「……って言うか、次の金曜日の事だよね? 真凛ちゃん」
「あら、たとえ五日先の事でも、将来の事には違いないでしょ?」
優樹ってば、こういう遊び心がわからないのよね。まぁいいけど。
「……で、真凛ちゃんが言いたいのは、遠足の事だよね?」
「そう。学校行事とはいえ、遠くに出かけるわけだし、相談しておいた方が良いんじゃないかって思ったのよ。優樹とあたしは別の班だし」
せめて同じ班だったら、向こうで相談したりする機会もあったのに。そうぼやいたら、優樹ってば……
「う~ん……けどさ真凛ちゃん、同じ班になったって、どっちみち人目のあるところで相談できる話じゃないよね? だったら同じじゃないかな?」
「それはそうだけど……万一の場合だってあるじゃない?」
「そこは万一の事態にならない事を祈ろうよ。それに……仮にそういう事態になっても、まず事態の収拾は先生たちに任せるべきだと思うよ?」
「それはそうかもしれないけど……」
優樹ってば、デリカシーに欠けるわよね。こういう時はチームの団結とか一体感を高めるべきじゃないの?
「う~ん……ぼく、そういう体育会的なところが、よくわかんないんだよね」
あぁ……優樹ってボッチっぽいもんね。
「(他人事じゃ……)えぇと……それはともかくとしてさ……真凛ちゃんはどういう事態を心配してるわけ? 〝不測の事態〟――って言うんだっけ?」
「優樹、あなたねぇ……不測の事態が予測できるわけ、ないでしょう? けど……そうね、ラノベだと不審者が乱入して、生徒が人質に取られるとか……」
「……それって、もう立派な『事件』だよね?」
「こういうのは、最悪の事態を想定して動くものでしょう?」
「そこまでいくと、〝想定〟じゃなくて〝想像〟か〝妄想〟だよね?」
……まぁ……あたしもこれはないかな――って思ったけども……
「ありそうなのだと……だれかが迷子になるとかじゃない? 集合時間が過ぎても帰って来ないとか」
そう言ったら、なぜか優樹が目をそらした。……あぁ……この子がその最右翼って事ね。
「……相談しておいてよかったわ。だれを警戒すべきかわかったし」
「いや待って! いくらぼくでも、学校行事で勝手なまねをするとか、やらないから」
「学校行事でなければ――やったんだ?」
そう言うと、優樹はまたしても目をそらした。
「……まぁ、優樹以外のだれかが迷子になった時の事を考えましょう」
「……先生にまかせて終わりじゃないの?」
「迷子になったのが、あたしたちの班のだれかだった場合、どうするのよ?」
「……あぁ……ぼくはともかく、真凛ちゃんは魔法が使えるんだっけ。……要は、魔法を使って探すかどうか――って事?」
「うん、優樹はどう思う?」
そう言うと優樹は考え込んだ。こういう時にはしっかり考えてくれるから助かるのよね。……自分の時には面白第一で決めるけど。
「う~ん……やっぱり、ただの迷子ならそこまでする必要はないと思う。問題は……」
「ただの迷子じゃない場合――よね?」
「うん。事件性がある場合は……真凛ちゃん、探知系の魔法って、何が使えるの?」
「風魔法で物音や声を聴くくらいかしら。今のところは」
「う~ん……今のレベルだと、多分そこまで遠くの事はわかんないよね?」
「ま、ね」
「だったら、何かを見たような事を言って先生たちを誘導するぐらいは、してもいいんじゃないかな」
……それくらいが落としどころかしらね。
「じゃあ次。だれかがケガとかした場合」
「……治癒魔法の事を考えてるんだろうけど……これは却下だよね――待ってよ真凛ちゃん、今説明するから」
問答無用って感じでダメ出しをした優樹に反論しようとしたら、向こうに機先を制された。……まぁいいわ。理由というのを聞きましょうか。
「第一に、真凛ちゃん、治癒魔法の訓練とかやってないよね? その状態で魔法が使えるなんて、楽観的過ぎるんじゃない?」
「う……そう言われると……」
「第二に、前にも話したと思うけど、治癒魔法がどういうものかはっきりしない段階では、不用意に使うのは良くないと思う。けが人に悪い影響が出る可能性だって、ないとは言えないわけだし」
「……子供に対しては悪影響が出るかもしれない……って、前に言ってたわよね」
「そう。そして第三に、治癒魔法の事がバレたら、ぼくも真凛ちゃんも政府に捕まっちゃうよ? そうまでして助けたい子がいるの?」
う~ん……うすうすそういう気はしてたけど、やっぱりダメかぁ……
「しいて言うなら……目的地の近くの病院の場所とか電話番号を、あらかじめ調べておく――くらいじゃないかな。不自然じゃないのは」
なるほど……それくらいなら自然で、しかも効果的な対策よね。やっぱり優樹に相談してよかったわ。