幕 間 家庭科で野草摘みをした時の話
「い~ですか、皆さ~ん。ツクシはできるだけ根元から、ヨモギの方は先っぽの柔らかいところだけ摘むんですよ~。ヨモギは葉っぱの裏側が白いから、間違えないようにね~」
「「「「「は~い」」」」」
先生の注意が終わると、あたしたちは班ごとに分かれて、ヨモギとツクシの採集を始めた。
楽しかったゴールデンウィークも終わって、今日は家庭科の授業で野草摘みに来ている。学校のそばの土手で、そこに生えているツクシとヨモギを摘んで、下ごしらえまで済ませる――っていうのが今日の授業なんだけど……
「そこ、男子! ヨモギは先っぽの方だけ摘むって、先生、言ってたでしょ!?」
男の子たちは遊び気分で、授業そっちのけでほかの事をやってるし。ヨモギを根っ子ごと引き抜いてるうちの男子なんて、まだまともな方だ。あっちではオオバコのすもうなんかやってるし……あれって中々切れないから、結構力がいるのよね。力み過ぎて、切れた時にひっくり返る事とかあるし……あぁ、ちょうど今、男子がひっくり返ったわね。女の子がやるならスミレの花がちょうどいいんだけど……ダメダメ、まじめにヨモギを集めなくっちゃ。
「わぁっ! 先生! ヘビや! ヘビが出た!」
「慌てんで離れなさい! マムシかもしれんから注意して!」
あぁ……男の子ってば……何やってんだろ。そんな下まで行かなくても、ヨモギもツクシも道のそばでとれるわよ。板をひっくり返す必要なんかなかったじゃない。
……優樹の声がしないわね? この手の話なら、先陣切って騒ぎそうなものなのに。
……あぁ、いた。ヨモギにいるテントウムシを集めてる。……そう言えば、テントウムシって色んな模様がいるけど、全部同じ種類なんだって、言ってたっけ。……フルコンプでも目指してるのかしら?
「きゃあっ!」
「ちょっと、やめてよ!」
あ、あっちでは男の子がヨモギを持って……違うわ。ヨモギについてるイモ虫だ。それを持って、女の子たちをおどしてる。……あ、先生に叱られてる。
女の子たちも、あんな小さな虫でそこまで騒がなくていいのに。カイコなんて、大人の指くらいあるんだから。
「きゃあっ! ちょっと!」
「うわっ! きったねぇ!」
「やめなさいよ! 鳥遊君!」
――優樹? 一体何してるのよ?
「あ……また鳥遊君だ」
「……木津川さん、何か知ってるの?」
「去年も鳥遊君と同じクラスだったの。生き物の事とかくわしいんだけど……たまにああやって暴走するのよね」
「暴走……」
何をやっているのかと近寄ると……優樹が先生に怒られているところだった。どうもイヌか何かのフンに付いていた虫――確か、糞虫っていうんだったかしら――を見つけて、捕まえようとしてたみたい。
「食べるものを採ってる時に、イヌの糞なんか触るんじゃありません!」
……うん、先生の言うとおりよね。
いくら〝生き物との出会いは一期一会〟だなんて主張しても、今は一応家庭科の授業中なんだし、採集許可は下りないと思うわよ?
「ぱっと見王子」の外見にだまされてた子も、一気に熱が冷めたでしょうね。
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少し騒ぎにはなったけど、それなりの量のツクシとヨモギをとって、学校の家庭科室に戻った。
ツクシもヨモギもよく洗って、ツクシはハカマっていう部分をとって、
「ツクシはこの後は茹でてアク抜きしたら食べられま~す。時間が無いので、授業ではそこまでやりませんけど、欲しい人は持って帰って、おうちで作ってもらいなさ~い」
あたしたちの班では、一応全員に均等に分けた。一人当たりの量は思ったより少なくなったけど、旬の野草と思えば、食べておくべきよね。
「ヨモギの方は、重曹を入れた水で二分から五分くらい茹でま~す。その後で水にさらしてアクを抜いてから、細かく刻みま~す。包丁でやってもいいけど、時間も無いし危ないから、今回はフードプロセッサーを使いま~す」
刻んだヨモギは冷凍しておけば、いつでも利用できるらしい。次の授業では、解凍したヨモギを使って草もちを作るんだって。今から楽しみよね。