第四章 ゴールデンウィークのぼくたち 4.後半戦~真凛の場合~
~Side 真凛~
ゴールデンウィークの後半、あたしは親といっしょに旅行に出かける。目的地はなんと忍者屋敷! 去年からずっとお願いしてたんだもん!
「お母ーさーん、早く早く!」
「はいはい。慌てなくても、忍者屋敷は逃げたりしませんよ」
「やれやれ……うちのお姫様は、ドレスよりもアクセサリーよりも、時代劇の方がお好みのようだね」
「デ○ズニーランドよりは安くあがりそうだけど……」
……一応、アトラクションはあるのよ? 忍者アクターの人たちによるのが。
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初めて見た忍者屋敷は感動ものだった!
屋敷のあちこちに隠し部屋や隠し通路があって……壁がどんでん返しになってるとか、掛け軸の後に抜け穴があるとか、井戸の中に横穴があって、それが抜け道になってるとか……
うぐいす張りの廊下っていうのも面白いわよね。だれかが通ると床が鳴ってしらせてくれるなんて……廊下のはめ板がボロくなってるんじゃなかったのね。
……これは、優樹に言って、マヨヒガにも採用させるべきよね、絶対。
自分の部屋を改造するなんてできないけど、マヨヒガだったらやれるわ、きっと。忍者屋敷なんだから、優樹だって賛成するはずよ。
……〝マヨヒガに攻め込まれるようじゃ、お終いじゃないかな?〟――とか言いそうな気もするけど……説得はするべきよね。
「……随分と楽しかったみたいだね?」
「うん! 楽しかった」
手裏剣教室なんか最高よね! 筋が良いってほめられたし。
「……この歳になって、忍者のコスプレをしようとは思わなかったけどね……」
「あら? あたしは結構楽しかったわよ?」
「まぁ……君は結構、忍者の格好も様になってたけどね……」
忍者のコスプレができるって言うから申し込んだら、お父さんとお母さんも勧められてやる事になったのよね。お母さんは中々似合ってて、「くノ一」っぽくなってたと思う。お父さんは……中間管理職だし……上忍とか中忍とか?
「真凜が楽しそうだったし、似合ってもいたから、いいじゃありませんの」
「まぁ……それはそうなんだけどね……コスプレでの写真は、親戚とかに見せないでくれよ?」
……お母さんはウフフと笑うだけで、〝はい〟とも〝いいえ〟とも返事しなかった。……何かの取引材料にするのかな?
それはともかく、忍者の手裏剣の使い方はとても参考になった。
戦闘中のけん制とか、どのタイミングでどう投げるのか――とか。やっぱり、実戦を経て編み出された技術というのは、信頼性が高いわよね。
手裏剣を買ってもらえなかったのは残念だけど……
「当たり前です。あんな危ないもの、子供が持つもんじゃありません」
不審者に狙われやすい子供だからこそ、逃げるための道具は必要なんだって力説したんだけど、
「それはわかるけど……やっぱり『撒き菱』はねぇ……放置した撒き菱を踏んで怪我した人とか出ると、訴訟問題になったりするから……」
プラスチックの手裏剣は売ってたけど……重さとか、投げる時の感覚が違い過ぎるのよね。あれは使えないわ。
「そりゃ、実際に使う事を想定してはいないだろうからねぇ。飽くまで玩具という扱いで」
「鎖鎌は買ってあげたんだから、それで我慢しなさい」
鎖も鎌も鉄製じゃないけど、鎖鎌のレプリカは買ってもらえた。レプリカ――オモチャじゃないわよ?――だけど、よそでは買えないものだし、アレはアレで悪くないと思う。
……今度道場に持って行って、師範に手ほどきしてもらおう。使い方もだけど、鎖鎌を相手にした時にどう対処すればいいのか――とか。師範も師範代もノリが良いから、多分教えてくれると思うのよね。
実演を見せてもらった火遁の術も、すごく参考になった。火遁の術とか土遁の術なら、火魔法と土魔法で再現できるわよね。威力に頼らない戦い方をモサクしろ――って、優樹も言ってたし。
……水遁の術はどうなんだろう。水魔法で水中呼吸とかできるのかな?