第四章 ゴールデンウィークのぼくたち 3.後半戦~優樹の場合~
本作に登場する地名・人名・歴史・道徳・法律・価値観・慣習・伝承などは架空のものであり、現実のそれとは無関係である事を、予めお断りしておきます。現実で作中人物と同じような行動をとった場合、何らかの法規に抵触するかもしれませんのでご注意下さい。
~Side 優樹~
ゴールデンウィークの後半戦は、お父さんの田舎に遊びに来てる。今度はお父さんお母さんもいっしょにね。こっちでは従兄弟たちといっしょに遊べるから、それはそれで楽しみなんだよね。屋代木――お母さんの田舎――だと、今のところ孫はぼく一人だから、従兄弟っていうのがいないし。
あ、ちなみに、ぼくが今来てるお父さんの田舎は日野原っていうんだ。〝原〟を〝はる〟って読むのは珍しいんだとかで、よく〝ひのはら〟って間違って読まれてるけど。
到着した初日は、時間が遅かったからどこにも行けなかったけど、二日目の昨日は川に行って遊んだ。まだ泳ぐには少し早いけど、魚釣りとか虫とりとか、やれる事はいっぱいあったしね。風船虫とか採れたし。
あ、風船虫っていうのはコミズムシの事で、小さく切った色紙を沈めたコップに入れてやると、底に潜ったコミズムシが紙切れにつかまろうとして……そのまま浮いちゃうんだよね。あわてて紙切れから手を放してまた潜って……と、これをくり返すから、「風船虫」なんて呼ばれてるらしい。見ていて面白いけど、コミズムシにしてみれば大変なんだろうな。
で……従兄弟たちがこっちを見てないすきに、河原の石に【鑑定】をかけてみたら……予想どおり素材になるみたいだった。〝案の定〟――って言うんだっけ。
素材としては大きい方が良いんだけど、あまり大きな石とか岩を取り込んだらバレちゃうしね。バレない程度の大きさの石を、いくつか取り込むだけに終わった。……取り込めただけもうけものだよね。ぜいたくを言ったらバチが当たるかな?
――で、昨日はそんな感じに一日を過ごして、三日目の今日は、
「……わぁ……ここが廃校なんだ?」
「あぁ、ここらの子供が減ったから、今の小学校に統合されたんだ。そんで、この学校は閉校になったんだ」
廃校になったという小学校に案内してもらってるんだよね。
「……ねぇ……ここってさぁ、中に入れるの?」
一応校門は閉まってるけど、柵のすき間から入っていけそう……って言うか、道みたいなのができてるよね。みんな結構ひんぱんに入ってるんじゃないの?
「先生たちは入るなって言ってっけどな」
「ただ、床とか腐ってるところもあるし、割れたガラスが落ちてたりするから、そこらは注意してな」
「ふーん……」
「入るか? 優樹」
「うん!」
ここで〝ノー〟と答えるのはないよね。マヨヒガの素材だってとれるかもしれないし。
・・・・・・・・
柵のすき間から校庭に入ったぼくは、校舎を見て少し立ち尽くしていた。
「……どした? 優樹」
「う、うん。ちょっと……何というか、ふんいきがあるなって……」
「あぁ、夏には肝試しとかにも使うかんな」
「先生たち、ノリノリでお化け役をやるんだぜ?」
「ふだんは入るなって言ってるくせにね」
「ふーん」
ぼくがちょっとだけ固まってたのは、別にふんいきに飲まれたからじゃない。目のいきなり前に出てきたメッセージウィンドウのせいなんだよね。
《対象物の品質は以下の通りです。
【廃校舎】 品質:中 貢献度:大
マヨヒガの素材として取り込みますか? はい/いいえ》
……こんな表示が出てきたら、驚くのも当たり前じゃない?
いくら木造だからって、廃校舎全体が取り込みの対象になるなんて……さすがに予想できなかったよ。
……てか、取り込めるんだ……校舎丸ごと……やんないけどさ。……いや……取り込めたら、マヨヒガの建築が一気に進みそうな気はするんだけど……うん、やっぱりダメだよね。
その後は、おとなしく従兄弟たちに廃校舎の中を案内してもらった。
従兄弟たちの目があるからジチョウしたけど、床に落ちてる窓ガラスの破片とかは、片っぱしから回収したよ。放っておくのも危ないしね。……昨日のうちに【取り込み】がレベルアップしたみたいで、近い距離なら手を触れなくても取り込めるようになったから、怪しまれる心配もなかったしね。
木製の机とか椅子がまとめて置いてある部屋があったけど、さすがにまだ使えるのを取り込むのは気がひけたから、壊れてて使えないようなのだけをいくつか、コッソリ回収させてもらった。
あちこち回収してても気付かれないみたいだったから、しまいには壊れたブランコとかも対象にした。支柱部分は木製で腐ってて、危ないから撤去されたみたいだった。鎖の部分は錆びてはいるけど鉄製で、素材に使えるみたいだったから、一本だけ回収させてもらった。
……うん、正直な話、調子に乗ってた気はする。……まぁ、ぼくがやったなんて思われないだろうけどね。