第四章 ゴールデンウィークのぼくたち 2.登校日の放課後
本作に登場する地名・人名・歴史・道徳・法律・価値観・慣習・伝承などは架空のものであり、現実のそれとは無関係である事を、予めお断りしておきます。現実で作中人物と同じような行動をとった場合、何らかの法規に抵触するかもしれませんのでご注意下さい。
~Side 真凛~
「……それで、取り込んだの?」
「うん。見逃す手はないじゃない?」
四月三十日、連休の前半と後半の間に立ちふさがる憎き登校日。あたしと優樹は下校中に、連休中の事とかを相談していた。あたしと優樹は、途中までは帰る方向が同じだから、いっしょに帰ってもそんなに不自然ではないのよね。
「真凛ちゃん、一人で帰ってる事、多いよね」
「……仲の良い子とは、帰る方向が違うし……平日は道場とかもあるし……」
べ、別にボッチとかじゃないんだからね、そんな事より――
「それより優樹、話の続きはどうなったのよ?」
「うん。〝はい〟を押したら……」
「押したら?」
「フワッとした感じで消えちゃった」
「フワッとした感じ……」
「ほかに言いようがないんだよ。特に音もしなければ、動きもなかったし。まるで、最初からそんなものはなかった――って感じだったんだよね」
「……ちょっと怖いわね」
「神隠し」――ってやつなのかしら。
「ただ、ね」
「――ただ?」
「全部が全部、消えちゃったんじゃないんだよね。上を草とかが覆ってるから確実とは言えないんだけど……コンクリのブロックとか、プラスチックとかは残ってるみたいなんだよね」
「……確実に取り込まれたのは?」
「木材、瓦、土壁、ガラス……あとは石かな」
「……石はいいのに、コンクリートはダメなわけ?」
「うん。マヨヒガなりの基準があるみたい」
……人工物はダメって事なのかしら。……でも、それを言ったら、瓦だって土壁だって人工物よね?
「それでね」
「――それで?」
まだ続きがあるのかしら?
「いったん帰ってお昼を食べた後で、また別の場所に行ったんだよね。……そこって、ずっと前から自動車が捨てられててさぁ……」
「……ちょっと待ちなさい」
この子ってば、廃車を取り込んだって言うの?
「だって、試したくなるじゃない? 廃屋がいいなら、廃車はどうなのかって」
「……まぁ、同意はするわ。……それで?」
「うん、大丈夫だったけど……取り込めずに残った部分もあったんだよね。タイヤとかシートとか……プラスチック製の部品なんかは、やっぱり残ってた」
「……廃車が解体されて、金属部分だけが持っていかれたように見えるわけね」
うかつな場所でやったら、騒ぎになりそうね。……うぅん、そもそも……
「……軽犯罪とかにならないのかしら」
「やだなぁ真凛ちゃん、エコだよエコ♪」
のんきな顔で笑ってるけど……内心で〝立件されなければ犯罪ではない〟――ぐらい思ってそうよね。……ダメだわこの子。あたしがしっかり見張ってないと……
「それでね」
ちょっと! まだ続きがあるの!?
「少し先に、ゴミが不法投棄されてる場所があったんだよね」
「……まさか……ゴミを取り込んだんじゃないでしょうね?」
「さすがにそれはやんないよ。せっかくのマヨヒガがゴミ屋敷になったりしたら、嫌じゃない?」
「……安心したわ。それで……?」
「うん。取り込みはしなかったけど、【鑑定】はしてみたんだよね。やっぱり、金属は素材として取り込めるけど、ゴムとかプラスチックはダメみたい。古雑誌とかの紙くずも取り込めるみたいだけど、貢献度は極微小になってた」
「ふぅん……」
「でさ……廃屋も廃車も、素材の品質は低いのに、貢献度はそこそこになってたんだよね。これってやっぱり、素材の量とかが関係してるのかな?」
「……ありそうな話ね」
今後のマヨヒガ建築において、役立ちそうな情報じゃない。
「――で、ぼくの方はそんな感じだったけどさぁ、真凛ちゃんの方はどうだったの? 何か進歩があった?」
「全然。叔母さんたちが従妹を連れて遊びに来ちゃって。そのお相手で手一杯だったわよ」
「わぁ……お疲れ様」
「ま、こうやって愛想を振りまいておかないと、お年玉とかお小遣いの額にも影響するしね。浮世のシガラミってやつよ」
「……真凛ちゃんって、時々苦労人みたいなセリフを言うよね……」