第三章 現実という名の落とし穴 3.日曜日の訓練地(その2)
~Side 真凛~
「……はぁ……」
思う存分【火炎弾】を打ち込んでやったら、少しは気分がスッとした。……何か、遠くから優樹が残念そうな目で見てるけど。
「う~ん……今のあたしの最大火力をぶつけてみたんだけど……崖を崩す事もできないわけか……」
まぁ、本当に壊れたら困るわけだけど。
「落ち着いた? 真凛ちゃん」
優樹が近寄って声をかけてきたけど……キッチリ射程外にいるのがムカつくわね……
「撃ったりしないから、こっちへ来なさいってば」
……まったく……そんなにあたしが信用できないのかしら。
「そういうわけじゃないけど……見るからにストレスがたまってたみたいだし……」
「……今は大丈夫だから、安心なさい」
「うん。……で、どんな感じ?」
そうね……
「最大火力は見てのとおり。まだまだ充分とは言えないわね。ラノベだと、連発してどうにかオークに通用する――って感じ?」
「わかるような、わかんないような……威力以外の部分は?」
「射程距離は優樹もわかったでしょう? ピストルの有効射程と同じくらいじゃないかしら。命中精度は……【火炎弾】だと風の影響も受けるみたいで、そこそこって感じかしら。連発はできるけど、その分だけ狙いが甘くなるわね」
「火魔法以外はこれから?」
「そうね。とは言っても、火魔法と木魔法以外は、ちょくちょく人目を避けて試してたんだけど」
「あ、そうなんだ」
「えぇ。風魔法は目に見えないし、土魔法の【飛礫】は石を投げてるようにしか見えないし。……水魔法は少し注意する必要があるけど、後に残るのは水だけだしね」
「ふーん。……それはいいとして、スキルの名前は日本語なんだ?」
「えぇ。……英語でファイアーボールとかウィンドカッターとかストーンバレットとか言っても、どういうわけか発動しないのよ」
「……そう言えば、ステータスも【閲覧】って言わなきゃダメだったっけ」
マヨヒガって日本の怪異だし、そういう仕様なのかもしれないわね。
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~Side 優樹~
真凛の試し撃ちがひととおり終わったところで、いくつかわかった事があった。
「やっぱり、威力と射程、速度はトレードオフの関係にあるみたいね。【火炎弾】の威力を上げると、遠くに飛ばなかったり、遅くなったりするみたい」
「石を投げるのと同じように考えたら、わかりやすいかもね。大きな石を投げようとしても、遠くには飛ばないし」
「あぁ……そう考えるとわかりやすいわね、確かに」
そうすると……
「威力を上げる訓練は必要だとして……実戦ではどれを重視するかだよね。ケース・バイ・ケースだとは思うけど」
「まず射程、次に速さよね。あたしたちの安全を考えると」
うん……〝戦闘は火力!〟なんて言い出さなくて安心したよ。
「……何か言った? 優樹」
「何も? ところで真凛ちゃん、ここでの試し撃ちって、訓練になりそうかな?」
「……何かごまかされたような気がするけど……訓練にはなりそうね。良い感じに負荷がかかってるみたいだし。それに何より、実際に狙い撃ちできるっていうのは大きいわ」
「ふ~ん……じゃあ、これからも時々ここで特訓する?」
「ぜひ!」
――というわけで、週末ごとにここへ来て射撃練習をする事になった。真凛のスキルアップは、ぼくらの安全確保のためにも重要だからね。
「そう言えば……優樹の方はどうなのよ?」
「ぼく?」
「マヨヒガの力で【鑑定】とか【取り込み】ができるんでしょう? やっぱり訓練とか、やってるの?」
あぁ、そっちか。
「う~ん……見た感じ、貢献度が低い素材しかないみたいだから、実際の取り込みはやってない。【鑑定】の方は、くり返し使ってはいるんだけど、レベルアップする気配はしないんだよね。やっぱり独立したスキルじゃないみたい」
「そうなんだ……」
「ま、放っておくのも何だから、これからも【鑑定】は使ってみるつもりだけど」
「取り込みの方は? ここの石とか岩とか、取り込んだりしないの?」
「あ~……一応考えたんだけど……採石場って言うくらいだから、ここの石をとるのは問題かなって思って。泥棒になるかもしれないし」
「あ……犯罪になるのかぁ……」
ハデにやって気付かれても面倒だしね。
まぁ、来週はゴールデンウィークになるから、ぼくも真凛もここに来るのは無理っぽいけど。