第三章 現実という名の落とし穴 2.日曜日の訓練地(その1)
~Side 優樹~
「へぇ……そんな服装をすると、ちょっと真凛ちゃんには見えないね」
「ふ、ふ~ん♪ そう?」
「うん。りっぱな不審者に見える」
「大きなお世話よ!」
だってさぁ……大きめのキャスケットに長い髪を隠して、男の子みたいなズボンにジャケット。おまけにサングラスとマスクだよ? 不審者ぶりに拍車がかかってるよ。……サングラスは駄菓子屋のおもちゃっぽいけど。
学校ではいつもスカートだから、その分だけ落差が大きいよね。まぁ、ぼくと会う時は、たいていジョギングスタイルなんだけど。
「家の人も、よくそんなかっこうで出してくれたね?」
「男装の理由なら、変質者に目を付けられないように――って言ったの。あっさり納得してくれたわよ?」
「……まぁ、動きやすいのは動きやすそうだから、大丈夫かな。……こっちだよ」
ともあれ、ぼくは真凛を「ばんば山」へと案内した。
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「優樹……よくこんな抜け道を知ってるわね?」
「何度か虫とりに来てるからね。あ、そっちに行ったらグルッとまわって、元来た道に戻っちゃうよ」
「え? ……あ、そっちなのね」
「まぁ、道って言うより、登りやすいところを登ってるだけだからね。……こっち」
どうにか歩きやすい道筋をたどって、山の反対側に出ると、
「ほら、採石場」
「うわぁ……」
真凛は声を上げたけど……その声には感心のほかに、少し呆れたような成分が混じっているような気がした。……素直にほめてくれていいんだよ?
「……ねぇ優樹、この場所って、ほかに知ってる子はいないの?」
「いないんじゃないかな? ぼくは二年前から時々来てるけど、だれも見かけた事はないよ?」
表から来る道は下で封鎖されてるし、途中の道もヤブみたいになってるしね。囲いは高いし、ここをのぞけるような高台もまわりにはないし、穴場だと思うんだよね。……まぁ、逆に言えば、ここで何かあった時には、助けが期待できないって事なんだけど。道からも離れてるから、声を上げても聞こえないだろうしね。
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~Side 真凛~
優樹が案内してくれた場所は、確かに訓練には最適だった。人目がなくて声を上げても聞こえない……って、犯行現場にもってこいじゃないのよ。あの子ったら、どうしてこんな場所を知ってるんだか。
でもまぁ、今のあたしにとって大事なのは、思いっきり魔法を撃っても大丈夫かどうか、それだけよね。
「大きな音を出しても、本当に大丈夫なのね?」
「大丈夫。前に爆ち……操業してた時にも、道から騒音は聞こえなかったから」
……今、〝爆竹〟って言いかけたわよね……こんな場所で何をやってるのかと思ったら……
「……まぁいいわ。それじゃ、ちょっと試し撃ちしてみるから、離れてて」
「うん。一応まわりの警戒をしておくけど……崖崩れなんか起こさないでよね?」
「そこまで威力のある魔法は撃てないわよ」
……今のところはね。
採石場の崖は確かにしっかりしていて、多少魔法を当てたくらいじゃビクともしなさそうだった。試しに、思いっきり石を投げ付けてみたけど、崩れる様子もない。
あたしは適当な距離をとって崖の前に立った。型稽古の時と同じように、まずは軽くウォーミングアップを済ませ、最初は弱い魔法から始める。狙いがそれていないのを確かめながら、だんだんと威力を高めて……なんて、やってられるかぁっ!
今までしみったれた魔法しか出せずに、ずっと我慢してきたんだから!
思いっきりぶっ放してやんなきゃ、このストレスは消えないわよ!!




