第二章 少しだけ変わったぼくたちの日常 6.マヨヒガの秘密(その2)
三話ほど間が空きましたが、「マヨヒガの秘密(その2)」をお届けします。
~Side 優樹~
「あたしの事はそれくらいにして、優樹の方はどうなのよ?」
真凛の特訓計画が一段落ついたところで、今度はぼくにお鉢がまわってきた。……と言うか、最初に話そうとしてたんだけど、何となく真凛の特訓の話になっちゃって、言いそびれてたんだよね。……この話をしたら、真凛てばまたフンガイしそうな気がする。〝理不尽〟――って言うんだっけ。
「え~と……よくわからないんだけど……何だか【鑑定】っぽいのが使えるみたい」
「……はぁっ!? どういう事よ!?」
あぁ……やっぱり怒られた……
「落ち着いてよ真凛ちゃん、あのね――」
「これが落ち着いていられますか! 何で優樹ばっかりチートなのよ!?」
だから……チートなんかじゃないんだってば……
プンプン女王の真凛を何とかなだめて、ぼくの事情を説明する。
「だから……【鑑定】っぽい何かであって、【鑑定】じゃないんだってば」
「……どういう事よ?」
「どうもこれ、【マヨヒガ】の能力の一部らしいんだよね。マヨヒガを建てるための材料とか限定で使えるみたい。わかるのも材料としての品質だけ」
「……はぁ? ……【素材鑑定】みたいなもの?」
「多分。だけど、薬草とか武器の材料とかはまるでわかんないんだ。建材だけ」
独立したスキルではないみたいだし、この先レベルアップがあるのかどうかも怪しいんだよね。
「……微妙に使いにくそうな……待って! なぜ鑑定する必要があるの?」
あ、気付いたかぁ……やっぱり鋭いな、真凛。
「うん。材料と判断されたものは、マヨヒガに取り込めるみたいなんだよね」
「……それって、【収納】とか【ストレージ】ができるって事?」
「違うよ。取り込めるのは建材だけで、それもマヨヒガを建てるのに使われちゃうんだから、【収納】の代わりにはなんないよ」
ぼくがこの力に気付いたのはついさっき、今朝の事だ。朝食に出てきたフライドチキン――夕べの残り――を食べた後、ボンヤリと残った骨を見てたら……発動したんだよね。
《対象物の品質は以下の通りです。
【鶏の骨】 品質:下 貢献度:極微小
マヨヒガの素材として取り込みますか? はい/いいえ》
思わず飲みかけてたお茶を吹き出して叱られたけど……気が付いたらウィンドウは消えてたんだ。もう一度骨を見たら、再びウィンドウが現れた。それで、このスキルはマヨヒガの建材になりそうなものを見た時だけ発動する――ってわかったんだ。
結局、その時はお父さんとお母さんの目があったから取り込まず、食べた後の食器を片付ける時に、こっそり取り込みを試してみたら……消えちゃったんだよね。……こういう時、〝かき消すように〟――って言うんだっけ。
ここへ来る途中も適当に石とか土とか草とか見てみたんだけど、ラノベとかで素材っぽくあつかわれているものは、一応取り込みの対象にできるみたいだ。ただし、草花は園芸種も雑草も同じ《品質:下》扱いだったから、薬草とかは区別していないんじゃないかと思う。あと、骨は対象になるのに、生きた犬――ペットを散歩させてる人がいた――は対象にならなかった。
「……まだ謎な部分が結構あるのね……」
「うん。ぼくにわかんなかったのは、骨なんかどこにつかうのかってとこだけど」
「あ! それ、あたしも気になってなのよ。骨なんかどこに使うの?」
「用途までは表示されないんだけど……ここへ来るまで考えてて、可能性としてありそうなのは漆喰じゃないかなって」
「漆喰? ……あれって、石灰か何かじゃなかった?」
「そうなんだけど……石灰の主成分ってカルシウムだし……魔法っぽいんだから、そういうのもありなのかなって……」
「カルシウム……だったら、卵の殻とか貝殻とかもありなのかしら?」
「わかんないけど、今度試してみるよ」
何が材料に使えるのかとか、調べておいた方がいいからね。
「……ねぇ優樹、そういうスキルがあるって事は、家一軒分の材料を集めないと、マヨヒガは建てられないって事?」
「う~ん……ぼくもそれは気になったんだけど……多分、違うんじゃないかって思ってる。最初の説明文の時にも、〝魔力を用いて建てる〟ってあったし、材料の事は何も書いてなかったし……素材を提供すると、出来上がったマヨヒガの品質が上がるとか、完成が早まるとかじゃないかな?」
「それは重要ね!」
うんうんと力強くうなずいてる真凛だけど、何かに気が付いたようにこっちを向いた。
「そう言えば……肝心のマヨヒガだけど、どこに建てるの?」
あ~……その問題もあったんだよね。だけど、結論から言えば――
「わかんない」
「はぁっ!?」
「いや、だって……建てる場所については、何も聞かれなかったんだもん」
何だかぼくの知らないうちに、なしくずしに建築が始まったみたいだし。
「……どういう事なのかしら?」
「多分、場所は後になって決めるのか……ひょっとしたら、ラノベによくあるような『どこでもホーム』になるのかもね」
そっちの方がずっといいけどね。