第二十六章 ぼくたちの報告会@マヨヒガ 5.検討会~繰越村由来~(その1)
~Side 真凛~
さすがに生物好きでミステリ読者を自認しているだけあって、優樹はあたしには思い付かないような方向からアプローチを進めて、ワームの正体だけじゃなく、転移して来た時期についても絞り込んで見せた。単に屁理屈をこね回してるだけじゃなかったのね。見直したわ。
……なのに優樹ってば、感心しているあたしを尻目に、
「それで一つ考えた事があるんだけど……」
――なんて言い出してくれちゃって。言いたい事は二つじゃなかったの!?
「誰もそんな事言ってないよ? 〝一つ二つ〟っていうのは言葉の綾だし」
――あぁ、そうですか。だったらさっさと白状しなさい。言いたい事って、何なのよ?
「うん。ワームが……ワームと異世界人がこっちに迷い込んだのが十三世紀以前だとして……その時迷い込んだのは、ワームと異世界人だけなのかな?」
……ほら……案の定、とんでもない事を言い出したわね……
「……他にも迷い込んだモノがいるかもしれない……って事?」
「て言うか……もしもそういう事があったとしたら、〝十三世紀〟っていうのは何かの手がかりにならないか――って事」
優樹は簡単に〝十三世紀〟って言うけど……解ってるの? 十三世紀っていったら、鎌倉時代の始め頃よ? 千年近く前なのよ?
「……無理……かな……?」
「無理とは言わないけど、そこまで古いと難しいでしょうね」
よっぽど有名な事件ならともかく、小さな出来事の記憶なんて風化しちゃってるわよ。
「あ~あ……大蛇も異人もめぼしい伝承がなかったから、てっきりよそから流れて来たんだって思ってたけど……十三世紀なんて大昔じゃあ、単純に忘れられたって可能性の方が強そうね」
思わずそうぼやいたら、
「……なかったの? 伝承?」
優樹がそう訊ねてきた。……自分は成果があったからって……本人にその気はないんだろうけど、何か負けたようでスカッとしないわね。
それはともかく、あたしはブツが埋められていた繰越村について調べてみたんだけど、
「もう全っ然、影も形もなかったわね」
とにかく調査の取っかかりを探そうという事で、図書館の郷土史コーナーに行ってみたんだけど、参考になったのは「生月市史」くらい。
ただ、そこに引用されていた「久利古志聞書」っていうのがデジタルライブラリー化されていたから、そっちにも目を通してみたんだけど……ワームも異世界人も、それっぽい記録が何一つなかったのよね。
「……何も? ……って事は……広く知られた出来事ではなかったって事?」
「そうなるでしょう? さっき優樹が言ったように、隠そうとしたって可能性はあるけど……それだと誰が、何のためにっていうのがはっきりしないように思ったのよね。だから単純に、ワームはどこか他の場所に現れて、繰越にはその後で、異世界人か素材だけが渡って来た――って考えてたんだけど……十三世紀と言えば鎌倉時代よね? そんなに大昔の事だったら忘れられてる可能性も高いし……それ以前に、その頃に繰越村があったのかどうかって話になるわよね?」
「う~ん……」
あたしが調べた「久利古志聞書」っていうのは、太閤検地を機に、それより前の記録をまとめたものらしいんだけど、
「さすがに鎌倉時代の事まではのってなかったのよね。けど、もしもあの辺りに異世界人とワーム――こっちは大蛇と思われたかもしれないわね――がそろって出てきたとしたら、記録の一つぐらい残ってると思うのよ。だからてっきり、素材を抱えた異世界人だけが、よそから流れて来たんだと思ったんだけど……」
「古過ぎて忘れられた可能性かぁ……あるのかな?」
「怪物退治の現場を目撃されたのならまだしも、怪物っぽい死体が見つかっただけっていうのが優樹の推理なんでしょう? それも、めぼしい素材は採られた後で。だったら、言い伝えが消えたって可能性も、無視できないと思うのよね」
それに、どっちかって言うと――
「むしろあたしが注意したのは、異世界人の方なのよ。一度見つかっただけのワームの死体と違って、異世界人の方はこっちの世界で生活していた可能性が高いじゃない? だったら、こっちの方が記憶に残りやすいんじゃないかって思ったのよね」
そう言ったら優樹はう~んと考え込んでいた。
「……けど、そういう記録はなかったんだよね?」
「まったくね」
一応だけど他の方向からも、アプローチはしてみたのよね。
「他の方向?」
「えぇ。民俗学ブームの頃に、あの辺りの伝承とかをまとめた調査結果があったのよ。大学の紀要なんだけど」
「……キヨーって……何?」
「えぇと……大学が出してる研究報告書よ。一年ごとに出してる……クラスの文集みたいな感じかしらね。内容はもっとアカデミックだけど」
「……真凛ちゃん……そんなのも読んでるんだ……」
仮にも歴女をなのるからには、これくらいの事は当然よ。……なのに、優樹の視線に残念なものを見るような気配が混じりだしたから、優樹の持ってる図鑑と同じようなものだと言い返してやった。そうしたら優樹も納得したみたいだったけど。
「……それはともかく、なかったんだ?」
「えぇ。大蛇とかそれっぽい伝説と言えば、蛇の迫の話がのってたくらいね」
「……そう言えば、あれも大蛇の話だっけ」
「それとなく棗さんにも訊いてみたんだけど、やっぱり残ってないみたい。大蛇の話も、異人の話もね」
「そうなんだ……」
けどまぁ……一つ気になる事があるのよね。




