第二十六章 ぼくたちの報告会@マヨヒガ 3.検討会~野槌異聞~(その2)【表あり】
~Side 優樹~
「ワームのドロップ品を直に調べてわかったのはそれくらい……今のところはね」
「……【鑑定】がレベルアップしたら、もう少しわかる事が増えるって事ね」
「うん、多分。けど、それを待つより前に、別のアプローチを試してみようと思ったんだ」
「別のアプローチ?」
「うん。『ワーム』じゃなくって、鑑定文にあった『野槌』からのアプローチ」
あ、真凜ってば、ビックリしてるみたいだね。……そういう顔してると、あまり賢そうには見えない……
「……優樹?」
「ん~ん? 何でもないよ?」
……けど、それを補って余りあるほどに勘が良いんだよね。
「最初に確認しておくけど、ぼくらが知りたいのはあくまで『ワーム』の事。これはいいよね?」
「う、うん……」
「だけど『ワーム』の手がかりは、ドロップ品らしい歯と魔石だけで、そっちからのアプローチは現在手詰まりになってる。けどぼくたちには、もう一つの手がかりがあるよね? 『鑑定文』っていう」
鑑定文に〝野槌わぁむ〟ってはっきり書いてあるんだもん。「ワーム=野槌」っていうのは決定だよね。
「……わかったような、わからないような……それって『ワーム』を『野槌』って言い換えただけじゃないの?」
「違うよ真凛ちゃん。『ワーム』の手がかりが残っているかどうかはわからないけど、『野槌』の手がかりは伝説の中に残ってるんだよ」
「あ……いえ待って……それはそうかもしれないけど……」
「実際に何か『転移者』の手がかりになるのかって事だよね? 真凛ちゃんが言いたいのは?」
「そう! それよ!」
うん。ぼくも半信半疑って言うか、何かわかればもうけもの――ぐらいに思ってたんだけど……意外と面白い事がわかったんだよね。
「図書館とかインターネットとかで『野槌』について調べて、その結果をまとめたのがこれなんだけどね」
うん、ちょっと自信作だよ?
「……思ったより色んなところに出てるのね……」
うん、そうなんだよね。
「『古事記』とか『日本書紀』に出てくる〝のづち〟っていうのは、野原とか草とかの精霊みたいな扱いなんだよね。その百年とか二百年くらい後になると、今度はヘビとかサソリとかの意味になってる」
「……サソリって、日本にいたのかしら?」
「外国の文書をそのまま訳しただけかもしれないね。とにかく、この頃の〝のづち〟っていうのは、野外で実際に出くわす有害動物みたいな扱いだった。……だよね?」
「そう……ね」
「ところが十三世紀になると、〝のづち〟は〝目も鼻も手足もない口だけの怪物〟になってる。体長について何も書いてないのが不安だけど、それを除けば……これって、ぼくらがイメージする〝ワーム〟に似てるよね?」
「……待って優樹。……鑑定文にある〝ワーム〟が、あたしたちがイメージする〝ワーム〟と同じものかどうかは……わからないんじゃないの?」
――うん、ぼくも最初はそれを考えたよ。
「真凛ちゃん、問題の文章が他人によって書かれたものなら、その疑いももっともだと思うけど……今回は違うと思うんだ」
「……違う?」
「うん。鑑定文を書いたのが誰かは知らないけど、その〝誰か〟は〝ぼく〟に正しく情報が伝わるような書き方をしてると考えていいんじゃないかな? だったら……」
「……鑑定文にある〝ワーム〟は、少なくとも優樹がイメージする〝ワーム〟と同じなはず……そうね、アカシックレコード参照してるとしても、それを〝翻訳〟してるのは優樹のスキルのはずだものね……」
うん、納得してもらえたみたいだね。




