第二十五章 初めてのマヨヒガ 7.マヨヒガとQOL(その2)
~Side 真凜~
離れにあったのはトイレだと思うけど、お風呂らしいのが見当たらない。そう思って訊いたら優樹ってば、
「え? ないよ、そんなもん」
――文明人として信じられない答えを返してきた。
「別にここに住むわけじゃないんだから、お風呂までは要らなくない?」
「……甘いわよ優樹。清潔と衛生は健康と美容には欠かせないものなの! QOLの追求は譲れないわ!」
「えぇ~?」
優樹は〝信じられない〟――って顔をしてるけど、信じられないのはこっちよ!
何をどうしたら、お風呂のない生活なんてものを受けいれられるのよ!
「いや……だって、ここにずっと住むわけじゃないし……」
「そ・れ・で・も――なの! ここに畑を作るって事は、ここで農作業する可能性だってあるわけじゃない。なのにお風呂がないなんて……あり得ないわ!」
正当な論理で優樹を追及してたら……
「じゃあ、マヨヒガがレベルアップしたら、お風呂も造築できるのね?」
「えぇと……お風呂はどうだか知らないけど、増築そのものはできると思う。けど……何が増築されるのかまでは判らなくて……」
頼りない家主ねぇ……。けど、
「これで決まったわね。QOLの追求のためにも、マヨヒガのレベルアップは不可欠にして至急の課題よ。何としても、めぼしい収蔵品をかき集めるわよ!」
ノンビリだなんて、やってられますか!
「えぇ~?」
・・・・・・・・
本当は今日のうちに野槌とかの調査結果を話し合う予定だったんだけど……それは無理って事になった。せめて一晩くらい頭を冷やさないと、冷静に相談なんてできないわよね。
幸い、打ち合わせの場所は確保できたんだし、それはもう少し後にしようという事になった。収蔵品を集めるのが最優先になった以上、あの繰越村の事ははっきりさせておきたいんだけど……仕方がないわよね。
で、とりあえずマヨヒガから出ようという時になって……
「……どうしたのよ? 優樹」
「うん……ほら、こういうのって、出た先で誰かに目撃されるっていうのがお約束じゃない? 外の様子を確認できないかなって思って」
……そう言えば……ラノベとかだとお約束の展開よね……
「……できそうなの?」
「う~ん……のぞき穴とかモニターとかあれば良いんだけど、それは今後のバージョンアップに期待かな。セキュリティはQOLに優先すると思うし」
「う……反論できない……」
「とりあえず、ゲートを細めに開けるのはできそうだから、そうしてみるよ。今日は万十山にゲートを開いたし、目撃者はいないと思うけど……毎回万十山にゲートを開くっていうのも何だしね。ゲートを開いても大丈夫そうな場所を探すのも課題だね」
「そうね……」
こういう時は優樹がいてくれて助かるわね。あたし一人だと、すぐにバレちゃいそうだもん。
とにかくこの時は、優樹が細めに開けたゲートの隙間から、あたしの魔法で周囲の様子を探って、大丈夫そうだから出てきたわけだけど……
「……今度は何してるのよ?」
優樹ったら、出た早々にスマホを取り出して、何か調べてるんだけど……
「ネットに接続して、日付と時刻を確かめてるんだよ。マヨヒガの中と外とで時間のズレがあったりしたら、大変じゃない?」
「あぁ……それもあったわね……」
マヨヒガなんてのが現実に現れたら、色々と大変なのねぇ……
「で? どうなのよ?」
「うん、一応は大丈夫みたい。ただ……もしぼくらがマヨヒガに入ってる時にスマホに着信があった場合、つながらない可能性は残ってるんだけど……今回は着信とかなかったみたいだね。ぼくの方は」
――そう言われて、あたしもあわてて自分のスマホを確認したんだけど……大丈夫だったみたい。
「着信があった時に備えて、何か口実を考えておいた方が良さそうね……」
「だね」
これにて今回の更新は終幕です。




