第一章 ぼくたちが迷い家に出会った日 1.霧の迷い
~Side 優樹~
四月の最初の土曜日――かっこよく言うとぼくたちの運命を決めたその日、ぼくは家の裏手にある小山にブラブラと散歩に出かけた。万十山っていうんだけど、元々は山の形から饅頭山って呼ばれてたらしい。そんなに高い山じゃないけど、割と高い木が生えてて虫とかもいるし、てっぺんのお社まで登ると見晴らしがよくって気持ちいいんだ。……夏になるとヤブ蚊がすごいけど。
途中まで登ったところで、ものすごい霧が出てきた。……〝立ちこめた〟――って言うんだっけ、こういう時。
とにかく前も後もまっ白で何も見えないし、足もともはっきり見えなくて危ないから、しばらくその場で立ち止まって霧が晴れるのを待ってたら……タッタッタッて足音が聞こえてきた。
こんな霧の中を走るなんてもの好きだなって思ってると、霧の中からヌッと顔を出したのは、ぼくと同じ五年二組の女の子だった。
「わ! ……おどかさないでよ。ビックリするじゃない」
「そっちこそ。……えと……確か同じクラスだよね? 来住さんだっけ?」
「来住野。来住野真凜。間違えないでよね」
あぁそうだ、自己紹介の時に〝キス・ミー、マリン〟ってからかってたやつがいたから、そっちでおぼえちゃった。その後の光景も衝撃的だったしね。……取り出したリンゴをにっこり笑って握りつぶすなんて、普通の女の子にはできないよね。わざわざそのためだけにリンゴを用意するところもふくめて。
〝そういう冗談キライなの、間違えないで下さいね?〟――なんて言ってたけど……アレにはクラス中が凍りついたよね、うん。
「えぇと……鳥遊君……よね?」
「うん。鳥遊優樹。散歩中。来住野さんはジョギング?」
「えぇ。体力づくりのためにね」
「空手やってるんだっけ?」
「うん、空手と合気道」
脳筋っぽいけど、これで成績も良いらしいからなあ。
「……今、何か悪口が聞こえたような気がするわ……」
「気のせいだよ。来住野さんちも二丁目なんだ?」
……思ってたより勘も良さそうだし、危なそうな話題を避けて、当たり障りのない会話に持っていこうとしたんだけど、
「……二丁目?」
来住野さんは変な顔で聞き返してきた。
「うん。移川二丁目。違ってた?」
「……移川? 現川じゃなくて?」
「やだなぁ来住野さん。現川は川向こうじゃないか」
名前が似てるから勘違いしたのかな?
「するわけないでしょ! あたし、もう十年もここに住んでるのよ!?」
「あぁ、だったら道に迷ったんだ。すごい霧だったしね」
「そんな馬鹿な。転座橋越えてなんかいないのに……」
「道、間違えたんだよ。きっと」
「そんなはずは……」
うん、方向音痴なんだね、この子。
「……あたしじゃなくて、あなたが間違えたのかもしれないじゃない」
「ぼくは家を出て裏の山に来ただけだもん。迷う余地なんかないよ。ジョギングしてる来住野さんが道を間違えたって考えるのが自然だろ?」
「……やっぱりおかしいわよ。あたし、中央公園に向かって走ってたんだもの。移川とは反対方向じゃない」
「霧で方角を間違えたんじゃない?」
「家を出る時は霧なんて出てなかったの!」
納得できないって顔の来住野さんだったけど、その時風が吹くと霧がさぁっと晴れて……そして……ぼくらが二人とも間違ってた事を明らかにした。
「「……ここ……どこ……?」」
・暫くの間は連日投稿とします。明日もこの時間帯に投稿の予定です。
・作者の他作品「従魔のためのダンジョン、コアのためのダンジョン」、「スキルリッチ・ワールド・オンライン」、「転生者は世間知らず」および「とある死霊術師の回顧録」シリーズ、「なりゆき乱世 1・2」も、宜しければご覧下さい。