無双系女子高生勇者の手綱を握って世界を救う簡単なお仕事【短編版】
「……どういうことだ」
むせかえる血の匂いと赤く染まった大地に呆然とする。
サンドワーム。地中から現れる大飯食らいの巨大ミミズだ。
性格は獰猛、食欲は旺盛。小さな村を地図から消すのに数時間とかからない。
そして我々騎士団が報せを受け、王都を発ってから丸一日。
たどり着いたのはすべてが終わった後だった。
湖と見紛うような血だまり。その中心にあるのは、かつてサンドワームだった巨大な肉塊。
「良かったじゃないですか隊長。まさか被害ゼロで帰れるとは……痛っ」
「帰れるわけないだろ」
呑気なことを言う部下の頭を叩く。
サンドワームとの戦闘は命がけだ。隊が全滅することだって珍しくはない。
たとえ勝ったとしても、その戦場は目を覆いたくなるような凄惨なものになる。
戦いが終わった後にはサンドワームの死体と同じ重量、あるいはもっと多くの人間の屍が出るのが普通だ。
しかしここはどうだ?
見回せど、人の死体は見当たらない。
しかもサンドワームの死骸には傷がほとんどなかった。あるのは巨大な体を断つように穿たれた大穴だけ。何の犠牲もなく、一撃であの巨体を屠ったのだ。普通の人間にできるような芸当ではない。
俺は部下たちを睥睨した。
つまりこういうことになる。
「気を引き締めろ。サンドワームよりも危険なバケモノが近くにいる」
結果的に俺の予想は正しかった。
サンドワーム討伐要請を出した村にそれはいた。
幸いにもサンドワームの被害は免れたらしい。草を食む家畜、遊びまわる子供たち。のどかな村の日常がそこにはあった。
しかし大人たちは違う。
村の中心にある集会所。神妙な顔をした村の面々がそれを囲んでいた。
予想と違っていたのは、それが人の形をしていたこと。
もっと言えば少女の姿をしていたことだ。
見たことのない変わった服を纏っている。白いシャツ、紺の上着、柄の入ったスカートはギョッとするほど短い。
よく手入れされた黒髪は長く艷やか。手は水仕事などしたことがないかのように滑らか。日に焼けた様子もない。畑仕事などとも無縁なのだろう。
かといって貴族や良家のお嬢様といった感じでもない。
彼女は子供のように屈託なく笑い、俺たちを見てこう言い放った。
「うわっ、騎士じゃん。ウケる」
「なんだお前、失礼だぞ。この人は王立騎士団の――うわ!」
目の眩むような閃光。「ピピッ」という聞きなれない音。
それは彼女が手に持った黒い板から発生していた。
「すごーい! これネットに上げたら絶対バズるでしょ。って圏外かぁ~」
「……この方は、まさか」
そこまで口にして、息を吞む。
彼女の正体については思い当たるところがあった。口に出すのも憚られる荒唐無稽なもの。
しかし目にするなにもかもがそれを肯定していく。
そしてとうとう村人までもが。
村の長だろうか。しわしわの老人が少女に跪き、涙を流しながら手を組む。まるで神が目の前に降臨したかのよう。
だがそれも無理からぬことだろう。
「このお方こそ勇者様です」
前回その現象が起きたのは二百年前。
魔王やその眷属の魔物に対抗すべく、神が異世界から遣わせた戦士たち。それが“勇者”だ。
跪き、こうべを垂れる。
俺がそうすると、部下たちは困惑しながらもそれに倣った。
「これ“異世界転移”ってヤツでしょ? ヤバ!」
勇者様は椅子の上に登り、また板を掲げる。
これはこちらの世界に来たばかりの勇者様たちが度々行う儀式のようなものであるらしい。
以前召喚された勇者にも同様の行為をした者が複数人いたとの記録がある。
「勇者様の召喚を祝わせてください。おい、甘い蜂蜜ジュースを用意しろ」
その夜、村では盛大な宴が催された。
村中綺麗に飾り付けられ、まるで祭りのような騒ぎだ。
そして長机いっぱいに並べられた料理。こんな辺境の村でこれだけのものを用意するのは苦労したに違いない。
それだけ村人たちは村を救った彼女に感謝をしているのだろう。
勇者様も村人たちの気持ちに感銘を受けているようだ。
「すごーい! 中世風ファンタジーじゃん」
さっきからしきりに例の板を村のあちこちに向けている。
俺は彼女に杯を差し出した。
「さぁこちらへ。村人たちが勇者様の言葉を待っていますよ」
「あ……うん」
杯を受け取りながら、勇者様がジッとこちらを見上げる。
「どうしました?」
「んー……いや、なんでもない。です」
短く答えて、勇者様は俺に背を向ける。
嫌われてしまったのだろうか。
しかし杯は素直に受け取ってくれた。それだけの信頼があれば十分だ。
村人たちの前に立った勇者様は、見れば見るほど普通の少女だった。緊張しているのか。声が上ずる。
「えっと、今日は私のためにありがとうございます。その……えっと、か、乾杯!」
杯を掲げて、中の甘いジュースを飲み干す。
村人たちの歓声。視線。拍手。それらが惜しみなく彼女に浴びせられる。
音楽が鳴り響き、二百年ぶりの勇者の召喚が祝福される。
宴の幕開けだ。
そして俺たちにとっては宴の終わりでもある。
惜しみない祝福と歓声の中、勇者様は受け身も取らず倒れ伏した。
「……え? ゆ、勇者様!?」
駆け寄ろうとする村人を押しのけ、勇者を抱え上げる。
それを合図に部下たちが動き出す。なにもかも予定通り。
「村のみなさんはどうぞ宴を続けてください。大丈夫、勇者様の杯にしか入れていませんから」
“蜂蜜ジュース”というのは我々の隊の隠語だ。
キラーホーネットという魔物から抽出した毒は蜂蜜に似た香りがする。
一滴でヒグマも動けなくなる強力な麻痺毒だ。
「神の遣わせた勇者様になんてことを! 人類の宝だぞ。分かっているのか悪魔め!」
「悪魔? そりゃあ誰の話だ?」
村人が怯むのが分かった。
当然だろう。俺と彼の戦力差は歴然。しかしそれは同じ人間という種族の中の強い・弱いの差だ。
勇者と他の人間の戦力差はそうではない。あまりにもかけ離れていて、比べるのもおこがましい。
それほどの力を持ちながら見た目は普通の子供と大差ない。そして文化の違う異世界人。トラブルが起きないはずがないのだ。
「二百年前、勇者共がどうなったか知らないだろうな。ヤツらはやりたい放題に暴れまわって、最期は仲間内での殺し合いで死んだ。その戦いのせいで世界は滅ぶ寸前だった」
また悲劇が繰り返されようとしている。
しかし幸いにも一人拘束することができた。
「その方をどうするんだ」
村人の言葉を背中に受けながら、俺は馬車へと歩を進める。
「……さぁ。俺の決めることじゃない」
とは言ったが、予想ができないわけではない。
二百年前の惨劇は世間には秘匿されているが、上層部の連中の間では常識だ。
一生地下牢に幽閉というのが有力か。
しかしサンドワームを屠ったあの力をみすみす逃すのは惜しい。もしも進言を許可されたなら、ぜひ自我を破壊し完全なコントロール下に置いた状態で兵器としての運用を――
彷徨わせていた思考が引き戻される。
腕の中の少女が動いたからだ。
「……んん……あれ?」
息が止まった。
そんなはずはない。麻痺毒を小瓶一本まるまる入れたのだ。普通の人間の致死量をはるかに超えている。
しかし勇者は目覚めた。
そのせいで反応が遅れた。
轟音と共に地面を破り、夜空を突き上げるぞれを見た。
暗闇の中だとしてもその正体を見誤ることはありえない。
サンドワーム。
コイツと対峙するのはもう何度目か。だが一日に二度見るのは初めてだった。
何度見ても見慣れるということはない。むしろ恐怖は増していく。死んでいった仲間の顔を思い出すからだ。
「ど、どうしてあの魔物が。勇者様が倒したはず」
「別個体だ。昼間のヤツの親かもな」
怯えを悟られぬよう無理に笑ってみせる。
今度の個体は昼間みた死骸よりもデカい。頭から尾まで、村を横断するような長さだ。
それも村の中心に出るなんて。絶望的以外に言葉が浮かばない。
しかし村人たちは目を輝かせてすらいる。
「大丈夫だ。俺たちには勇者様がいる!」
「勇者様。この悪魔たちにそのお力を見せつけてください!」
「勇者様」
「勇者様! さぁ!」
群がる村人たちに、しかし少女は怯えた視線を向ける。
ゆっくり首を横に振った。
「あ、あんなの無理」
「どうしてですか! 昼間はあんなに簡単に」
「あれはここに飛ばされた時、たまたま足元にいたから蹴飛ばしただけ。あんなキモイのと戦えるわけないじゃん。私、普通の女子高生だよ!?」
そうだ。そうなのだ。
勇者として召喚されるのはいつだって思春期の少年少女だ。
なんの戦闘訓練も受けていない子供がいきなり強大な力を手にしたらどうなるか。
ほとんどの者は力を使うことを恐れる。そして慣れてくると力に溺れ、それを誇示するようになる。
まるで爆弾だ。それが世界中に散らばっている。
そんな不確定なものに頼ろうだなんて、笑わせる。
「それで良い。君は下がっていろ」
俺は弓を構えた。
部下たちも次々得物を手に取る。
色々とイレギュラーがあったが、最初からそのつもりだ。
我々騎士団はバケモノ退治に来た。
まずはサンドワームを。次に「勇者」を。
「行くぞ」
それを合図に駆け出した。
サンドワームを包囲。矢の雨が降り注ぐ。
ヤツとの戦いは、つまるところ削り合いだ。
俺たちがサンドワームの肉を削りきるのが先か、あるいはサンドワームが俺たち全員をひき肉にするのが先か。
「そ、そんな」
変わり果てた村を前に、老人が力なく膝をついた。
昼間、勇者に跪いていた村長だ。
戦いが進むにつれ、戦場はどんどん凄惨さを増していく。
まだ死者は出ていないが時間の問題だろう。
村の建物はサンドワームの巨体に押し潰され、おもちゃのように壊されていく。
勝敗にかかわらず、この村は地図から消えるかもしれない。
「村人は避難しろって言っただろ!」
「私はこの村と生き、この村と死ぬ。全力を尽くしてダメだったのなら、そこが私の寿命だったのです。でも……でも……!」
村長が地面を蹴る。
ヨタヨタした動きで勇者に縋りついた。
「勇者様! どうして戦ってくださらないのですか。これでは死んでも死にきれない」
「そんなの知らないよ! 急にこんなとこに呼び出されて、戦えとか意味分かんないし」
「神から与えられた力を持ちながら……そんなのは怠慢だ。この役立たず!」
老人の目に神を見るような眼差しはもうない。
あるのは村を救わない勇者への憤りと憎悪。
勇者は村長の想いを受け止めきれないのだろう。
うつむき、そして口を真一文字に結んだまま震えている。
こうしてみるとやっぱり普通の少女のようだ。
だからだろうか。口を出してしまったのは。
「そのへんにしとけよ」
村長の肩に手を置き、勇者から引き剥がす。
「あんなバケモノと理由もなく戦えるわけない。頼るなら俺たちにしろ。こっちにだって奥の手がないわけじゃない」
「隊長、あれはダメです! 危険すぎます」
「その通りだ。隊長が錯乱したとみんなに伝えろ。指揮はお前に任す」
このサイズのサンドワームに対抗できるだけの戦力を我々は持ち合わせていない。
今、危険を覚悟で動かなければ全滅は免れない。
部下の制止を振り払い、俺はそれを取り出した。
反応したのは意外にも勇者だった。
「それ……ダイナマイト?」
「良く知っているな」
そう口に出してからこの兵器の出自を思い出した。
これは二百年前に召喚された勇者が製法をもたらしたものだ。
結局俺たちは異世界の人間や技術に依存している。
でもこの世界は俺たちの世界だ。
異世界から来た者に、ただ強いというだけの理由でこの世界を背負わせるなんて間違っている。
だから二百年前の惨劇は起こったんだ。俺はそう思う。
「まさか、それ持って突っ込むってこと? この矢の中を走って? 死ぬかもしれないのに?」
「ああ」
勇者が息を呑んだのが分かった。
しばしの沈黙。
勇者が口を開いたのは、俺が準備をすっかり終えた後だった。
「あなたたちが戦う理由って、なに?」
「決まってるだろ」
俺は異世界生まれの兵器を背負い込む。
「俺たちの世界を守りたい」
地面を思い切り蹴り、駆け出す。
団員の配置は頭に入っている。矢の軌道を計算し、流れ弾に当たらないよう走る。
とはいえ安全な場所などここにはない。
矢が何度も体を掠めた。
サンドワームの尾が目の前に叩きつけられた時はさすがに死んだかと思った。
しかし生きてる。
そしてたどり着いた。
生きたサンドワームをこの近さで見るのは初めてだ。
村の集会所に頭を突っ込んでいる。宴のために用意した食料品を食っているのだろう。
この隙に頭を吹っ飛ばしてやる。
ダイナマイトに素早く火を付ける。
あとは爆発に巻き込まれないよう、さっさとこの場を離れるだけだ。
顔を上げ、固まった。
生きたサンドワームの顔をこの近さで見るのは初めてだった。
巨大な口にはカミソリのような歯がビッシリと並んでいる。どんどんと近付いてくる。反応ができない。
あぁ、異世界人が召喚される理由が分かる。
普通に考えて、こんなバケモノに勝てるはずない。
だからつい、この絶望的な戦況をひっくり返す英雄が降って湧くことを期待してしまうんだ。
彼らをこの世界に引き込んだのは神様などではなく、俺たちの祈りそのものなのではないか。
悔しい。やはりその力に俺たちは引き込まれる。
それがただの子供だと分かっていても、神々しさを感じずにいられない。
「あぁ~! キモイキモイキモイ!」
勇者が甲高い叫び声を上げている。
目前に迫ったサンドワームの口をその細い手足で押し退けている。
「はっ、早く! 逃げてぇ!」
「な……なぜ君が」
勇者はこちらを見下ろし、屈託なく笑う。
「私も見つけた。戦う理由!」
勇者の正体は、凄まじい破壊力を持った子供だ。
そのコントロールは非常に難しく、下手をすれば世界が滅ぶ。
しかしきちんとコントロールができれば。
それはまさに世界を救う英雄にもなり得る。
俺は立ち上がった。
でもきっと放っておいても英雄には育たない。
普通の子供を教育するのと同じ。近くで支え、導く大人が必要だったんだ。
俺はサンドワームの口の中にダイナマイトを投げ入れる。
そして怒鳴った。
「閉じて押さえろ。巻き込まれるぞ」
「え!? は、はい!」
勇者が動く。
サンドワームの顎を蹴り上げ、腕で頭を押さえつける。
ぼんっ、というくぐもった爆発音が響いたのはその直後だった。
この巨大なバケモノも体内での爆発には耐えられない。
暴れまわっていた尾が地面に落ちる。砂煙が立ち上る。
サンドワームはそれっきりピクリとも動かなくなった。
全身から力が抜けていく。
戦いは終わった。
村人と騎士団員たちの歓声に包まれながら。
*****
もうすぐ夜が明ける。長い一日だった。
日が出たら王都へ出発だ。
泥のように眠りたいところだが、色々とやっておかなければならない事もある。
俺は勇者の隣へ腰を下ろした。
「ありかとう。さっきは助かった」
差し出した杯を手に取り、勇者が小さく頭を下げる。
俺も城に戻ったら報告書やらなんやらで大忙しになるだろうが、彼女ほどではないだろう。
王国はこの少女の姿と感情を持った生物兵器をどう運用するのだろう。
まぁ俺が決めることではないが……
本人が後悔しない力の使い方ができるよう切に願う。
「あ、あのー……いや、や、やっぱ良いです」
不思議な少女だ。
騎士団の人間に不遜なことを言ったかと思えば、俺とはなかなか目を合わせない。
ああ、そういえば顔が怖いとよく言われる。
やはり怯えられているのだろうか。
少しでも場を和まそうと、俺は笑顔を浮かべて言った。
「君が戦う理由って?」
「えっ!?」
「言ってただろう。助けに来てくれたとき。この世界の人間じゃない君が戦う理由、聞かせてもらっても良いかな?」
少女の目が泳ぐ。口をパクパクと開いているが言葉にはならない。
口が乾いているのだろうか。
手に持った杯を一気に呷り、その勢いのまま言った。
「めっちゃタイプです! 付き合ってください!」
「……は?」
子供は苦手だ。
未成熟の精神は不安定、感情の起伏が激しく、こちらの都合などお構いなし。
そしてすぐ大人への憧れを恋だと勘違いする。
まぁ結果的にその気持ちを利用してしまったのは申し訳なく思うが。
俺は空になり、地面に落ちたコップを拾い上げる。
ぐったり動かなくなった少女を縛り上げている部下に指示を飛ばす。
「昨日の十倍量を入れたが、毒の効果がいつまで持つか分からん。さっさと馬車へ運べ」
もしも大人としてアドバイスをするならば。
彼女がまず覚えるべきは恋心ではなく警戒心だ。
まぁ、俺が彼女にアドバイスをする機会などないだろうけど。
が、事態はそう簡単には終わらなかった。
俺たちの技術では彼女を拘束することなどできなかったのだ。
少女は縛った縄を軽々引きちぎった。
しかし逃げ出しもせずおとなしく馬車での旅を楽しみ王都に到着。
そしてぶち込まれた王国地下牢の鉄格子を飴のようにへし折って脱獄。
武器を持った屈強な衛兵十人を伸したところで王は白旗を上げた。
ここにまできてようやく勇者の要求を聞いてみようということになったらしい。
バケモノを退治したにもかかわらずこの仕打ち。
恨みを抱かれても仕方がないような状況だったが、彼女はとことん能天気な子供だった。
やはり子供は苦手だ。
こちらの都合や空気を無視し、とんでもないことを平気な顔で言い出す。
「では勇者よ。魔王を倒し、世界を救うのだ。さすれば異世界への道も開かれん」
「はーい」
「もしも神に選ばれし勇者にあるまじき行為を行えば――」
王様が壇上から指を差す。
それは勇者の横にいる俺に向けられた。
「その男を処刑する」
最悪だ。
この国の大人たちは少女の恋心を全力で利用しやがった。
こうして俺は少女の形をしたバケモノと旅に出る羽目になった。
「そんな顔しないで! あなたのことは殺させないし、二人一緒なら魔王だって倒せるよ」
そう言って少女が俺の腕に飛びついてくる。
骨が軋む。凄まじい力。
恋心でもなんでも利用して、この力を近くでコントロールするのがこれからの俺の仕事だ。
失敗すれば責任をとって死。
この少女が癇癪をおこして暴れれば死。
魔物の戦いの巻き添えになれば死。
死が身近にありすぎる。なんてハードな仕事だ。
正直うんざりしてくる。
でもこれは紛れもなくこの手で世界を救う仕事だから。
「行くぞ。まずは東に進む。ユニコーンの討伐要請が――」
「ユニコーン!? やったぁ、一緒に乗って写真とろ! 王様からお金も貰ったし」
こうして120Gのはした金で城から厄介払いされた俺たちは、長く険しい旅へと足を踏み出したのだった。