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勇者などいない世界にて  作者: 一二三
第二章 宿命の動乱
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第二章19 第一予選①


 司会者による開催宣言がされて後、開会式はレーベン王国の国歌斉唱や王城バルコニーから現王フラート七世の祝辞が述べられたり、形式的なものが消化されていった。

 だが、国も国民がこんな時間を長々使われて退屈というのを理解しているからか、グランが予想したより随分と早急に式自体は終わった。


『ではこれより、第一予選の説明に入りたいと思います!』


 そう司会が口にした瞬間、観客はどっと沸いた。これだけでどれだけ皆が開会式を退屈に思っていたか判るのがまた面白い。


『さて、今年も例年通り沢山の猛者が集まってくれました。ですのでやはり! まずは数を一気に減らすサバイバルイベントから始めましょう!』


「な、なにぃ!?」


 皆が騒ぎ散らかすなかで一人、グランだけが動揺を隠さずにいた。


「イッポスめ、俺には一対一のトーナメント戦としか教えてくれなかったじゃないかよぅ……!」


 グランの心の叫びもオーディエンスの大歓声の中では容易にかき消され、慰めてくれる人間なんていやしない。

 司会も流れるように説明進行していく。


『第一予選の流れはこう! まず出場者の皆さんには城下町に出てもらいます。そこで行うのはサバイバル! 誰と戦ってもよし、誰かと手を組んでもよし。とにかくライバル達をリタイアさせまくり、残存人数32人の時点での猛者を第二予選出場決定とします!』


 各出場者の腕には参加申請時に渡された番号が巻かれており、グランは67番。横をチラッと見ると、グランの突出した視力でおおよそ200番辺りまではあると検討がつく。


( つまり、少なくとも百人以上はここで敗退か )


『もちろん、一般住民の方々には避難していただいた上で、上級術師の方々による結界も張られております! 出場者の皆さんは建物に登っても問題ありませんが、中に入ることは禁止です。ついでに武器の持ち込みもご遠慮下さい! ただし、魔法で武器を生成することはOKとします!』


 創造魔法は個々人の実力のひとつとして認められているらしく、あくまでも自身の力が由来であれば基本的に戦い方は自由とのこと。

 返せば、普段から武器を頼りに鍛えてきた者にとっては苦しい戦いとなるはずだ。


『そして今回、新たな試みとして新ルールを追加する試みとなりました。えーっと、当然私も初めてのことですが、内容自体は難しいことではありません!』


「新ルールだぁ? フリースタイルを謳う第一予選で、これ以上付け足せるルールなんかあるってのかよ?」


「これはまた、面白くなりそうな予感がしますね!」


 疑問や不安、そして期待の声など、周囲からは様々な感情の乗った反応が飛び交った。少なくとも無反応の人は居なさそうだ。


『皆さん気になっているでしょうから、早速お教えしましょう! ささ、皆さんそれぞれ前方の大モニターをご覧ください』


 言われて東西南北にそれぞれ一つずつ設置された魔道モニターに目を向けると、五人の選手の顔が映し出される。なんとその中にはグランとドルネの姿もあった。

 グランはちょっとばかし面倒な予感を感じとる。


( 俺に優勝しろと圧かけてきやがったからな……俺の為にわざわざ新システム入れて来たんじゃなかろうな )


 この疑惑は次の説明で確信に変わる。


『たった今映し出されたこの五人! 彼らは前回大会で本戦まで勝ち抜いた者や、申し込みの時点で優勝のみを狙う新進気鋭な新規参加者の中から無作為に抽選された五人! 第一予選では、この五人を負かした参加者を即刻、第二予選出場決定と認めることとなります!』


「「「「なんだってえええええええ!!」」」」


 ほぼ全ての人が沸くと同時に、その中で選ばれた参加者だけが口をガン開きで唖然としていた。


「ほら見たことか!」


 王城の回廊の方を見ると、ドンケルがニッコリしながら拍手していた。これはもう、グランだけは作為的と捉えて正解だ。

 ドンケルは会場からは王城にいる自分を見つけられまいと考えているのかも知れないが、グランの視力の良さを舐められては困る。バッチリ見えている。


「おい! これは幾らなんでも不平等なんじゃないのか!? これじゃあ一方的に狙われるじゃないか!」


 と、グランがよそ見をしていると、先ほどの五人に選ばれた内の一人が吠える。確かにグランは仕方ないとしても可哀想に思える。


「けど、選ばれたのは実力があると見込まれた選手だからな」


『やはり一部からは不満の色が伺えます! しかーし! 上位、ひいては優勝を目指すのなら、逆境を乗り越えてこそ光るのだと私を含め運営は考えての試み! 今からこれを変更する気はさらさらありません!』


 この施策は、逆に言えば多くの人にチャンスが生まれる。今まで予選敗退で終わっていた人でも進出の希望があると言うこと。

 ただし、出場者の平均レベルがほぼ同一であること前提の話だが。そういう意味では今年はつくづく可哀想だ。


『それと出場者には先ほど配られた魔石を腕に付けてもらいます! 敗退者は運営側で逐次確認しますが、情報をより素早く得るために、敗退となった場合の合図としてこれを引きちぎってください! なお、気絶等による戦闘不能の場合は放置してもらって構いません!』


 言われて出場者たちは懐から赤い魔石の付けられたブレスレットを取り出す。中には既に腕につけている人もいるようだ。


「魔石の部分だけが切りやすい素材になってる。司会は説明する気なさそうだが、これを切るってことは敗退の合図。つまり、切られても負けってことだよな」


 おそらく、多少知恵のある者の何人かはそれに気付いて狙ってくるはず。まともに戦うより切るだけならリスクは低いのに、そこをつかない手は無い。

 兎にも角にも、


『では皆さん、ルールはこれで以上となります! さて、出場者の皆さんには早速、会場の方まで移動してもらいましょう! 皆さんの初期位置は運営が事前に定めております。素早い進行にご協力くださいね〜』


 新たなルール追加で動揺と作戦練り直しを余儀なくされた状態のまま、出場者たちは運営に促されるまま王城を抜け、再び街へと足を運ぶこととなった。



============



 第一予選の会場は城下町であるため、結界で範囲が定められていると言っても広い。更にどこを見ても建物に囲まれている状況では視界も悪く、二百人がどこから襲ってくるか、予測と注意が必要となってくる。


 そしてどうやら、隠されたルールとして一つ、先刻選ばれた五名の猛者は必ず建物の屋上部に配置されるらしい。目を凝らせば、モニターに映っていたグラン以外の四人の姿も見て取れる。


「狙われやすい代わりに見晴らしの良い配置ってか……壁を登って来られたら結局視界の外から襲われるんだし、実質意味ないんだけど」


 こうも悠長に分析しているが、グランには特に作戦なんてなかった。強いて挙げるとすれば、大抵の相手は落とすと言ったくらいだ。

 ただこうして無作為という名の作為で五人の内に選ばれていなかったなら、大きく二通りの方針は立てられたろう。


「隠れつつ無難に近くの人を倒しながら数が減るのを待つか、或いは一気に進出を確定させる為に俺らを叩くか。後者を選ぶなら激しい競争になるだろうな。何せ二百に対して五人だ」


 競争になる以上、勝手に向こうで対立することも大いにあり得る。そうなってくれれば非常にありがたいのだが、


『さぁて皆さん! 準備が整ったようですので、本日最初の予選第一試合、私のこの角笛を合図に始めようと思います!』


 グランは深く息を吸って、構える。


『では、よぅい……始め!』


 拡声器を通じて城下全体に重い音色が奏でられ、その瞬間から試合は激化した。猛く吠えて、まず近場の者同士で戦力を削り合う。否が応でも、道すがら他者と鉢合わせをしてしまうもの。


( どんな策を巡らせていようが、開始地点での抗争は避けては通れない。俺ら屋上組は幸い、敵さんが登ってくるまで余裕があるらしいが )


 最初の激突で、二百の参加者が一様に一対一の初戦を乗り越えたなら、それだけでもう残り百人。そしてまた戦えば五十、次は更に半分と順当に減っていけば、それだけで第一予選は終わる。そう考えると決着はすぐに着く。


 けど、そうはならないから新制度がある。


「来る……声が、俺を狩らんとする猛者一同が、互いに戦う暇も捨てて俺のもとへやって来る」


 仮に、既に残りが百になっていたとして、その中で屋上組五人が未だ残っているなら、その百は均等に二十ずつに分かれるだろうか。

 否、とグランは断言する。


「無作為で選ばれた奴の中には以前に本戦まで勝ち抜いた人間もいる。ドルネなんかがその例だ。なんなら俺以外が全員そうなのかも分からない」


 気配を四方八方から汲み取りながら、新制度がとことんグランを追い詰めようとしていることに関心を覚える。

 なぜならそれは、


「余程の自信がある奴以外、本戦出場者なんかじゃなく、力量の知れない、しかし若くて自分より弱い可能性のある初参戦の人を狙うだろうよ。つまり」


「さあ小僧! 進出のチケットは俺が戴く!」

「いいやオラのもんだ! 村をもっと裕福にするっぺ!」

「何おう、ワタシの魔法で注目は掻っ攫ってやるよ!」


 次から次へと、数えるのも面倒な大量の人の波が、グラン目指して殺到する。腕二本で登ってくる者、魔法で飛び越えてくる者、跳躍で屋上まで来る者、遠距離から狙う者、数々の言葉が飛び交って止まない。


「若い芽は摘んでおけって、例年第一予選でよく言われてるのよね! そーゆー訳で、『瓦解』!」


 女性の参加者が、着地と同時に屋上床に手を付いて詠唱した。


「へへッ、悠長に魔法なんか使ってる暇なんか無ェだろうがよッ!」


 次の瞬間、彼女の背後から刺繍の男が追い抜き、拳を思いっきり突き出して、視界から消えた。いや、正しく言うなら下に消えた、だろうか。


「馬鹿ね、私の『瓦解』は床を文字通り瓦解させる! その範囲は広がって、若い芽と周囲の有象無象ごと巻き込むのよ!」


「こいつ……瓦解の範囲拡散が速い! だがなんてったって俺でなく床を崩すんだ」


「あら、忘れた? 住居に登るは良し、でも入るは駄目」


「そうか、そんな手も……!」


 直後グランの足元も崩れ、重力に脚を掴まれる。たかだか一階分の高さなど一瞬で落下できてしまう、まさに虚を突いた一手。


「そうはさせまい、とぅ!」


 魔法を使えば重力から逃げられたかとも思うが、意外にも状況を脱出できたのは見知らぬ男の登場によるものだった。作務衣(さむえ)に身を包んだ彼は、横から飛び出しグランをがっちり抱え込むと瓦解の範囲から抜け出す。


「なんだかよく分からんが、助かった」


「助かっただぁ? 馬鹿言うんじゃねえ、おみゃあが敗退したら進出確約の座はあの女に渡る。それじゃあ困る!」


「つまり、なるほど。ここから叩き落とせば、確約の座は移ると」


 男はへっ、と笑う。

 瓦解から抜け出てすぐ、二人は屋上からも飛び出て既に空中、落ちれば大怪我で戦闘不能も有り得るところまで出ていた。


「でもやっぱり俺は助けてくれてありがとうと、感謝の言葉を贈らせてもらうよ」


「なぁに言ってる? わっちは上でおみゃあは下、有利なのはわっちに決まって」


「魔法って知ってるか?」


 空中だと自由は効かないが、相手の腕を引っ張るくらいならできる。そうやって男を引き寄せた時、彼の背中に魔法攻撃が炸裂した。


「最初からずっと、遠くから魔法を撃ち込む機会を狙う術師が数人いたんでね。盾にさせてもらったよ」


 先に撃墜されたのは作務衣の男となった。それでも術師の攻撃の全てを退けたことにはならない。

 だから次の一手を繰り出す必要がある。


「『オリノナン』噴射」


 お馴染み『オリオクタ』が一年の修行を経て強化、出力される光球の数が九つに増えたもの。今はバーナーのように噴射させて機動力としているせいでその違いは明瞭としないが、確実に成長しているという証はあった。


 そんな話はともかく、グランは魔法の噴出力で迫る魔法弾を潜り抜け、一目散に魔法使いの集う屋根上まで詰め寄って接近戦へと持ち込む。基本的に術師というのは近接に弱いと、相場が決まっているのだ。


「残念! 俺はそう簡単に撃墜できないんだぜ!」


「ぐはぁッ」「きゃぁあ!」「ごぁ……まだ、負けら」


 気絶するかしないか程度の力で隙をつくり、腕に巻かれたバンドを引きちぎる。予想が正しければ、これで数人敗退して数を減らせたことになる。

 幸い、グランが魔法で離れた建物に移ったことで、わざわざ先ほどの場所まで登っていた大勢も唖然としていて、次の波が来るまで時間がありそうだ。


「うがぁ……」


 不意に、足下から呻き声が鳴り、敵意がグランを射抜く。


「僕は、まだ、はぁはぁ、負げられない、だ」


「お前……何言ってる?」


 一瞬どこかから這い出てきたかと警戒はしたが、グランが疑問を呈するのも無理はなかった。

 なぜなら呻いてるのはたった今気絶させた魔法使いの一人だったから。他の気絶を免れた魔法使いは諦めたように脱力している。だから腕の魔石をちぎれば敗退確定というのは当たりらしい。


「なら、もう負けているんだ……これ以上何をしても、無駄だ。『負けられない』は通用しない」


「ふぅ、はぁ、ひぃ、黙、れよ。お前さえ去ねば、僕の勝ち。そうに決まってるし、はぁ、そうならないなら、僕がどうなるか」


 血走った目をしていた。言葉の途中途中で呼吸を挟まないと息がもたないらしい。先程簡単に気絶させられたことからも、相手が格下であることは確かだ。

 でもそうじゃない。強弱の問題とはまた別の強さを、グランの直感が捉える。


( なんだ、これ……もいっかい戦闘不能にすることは簡単でも、絶対に再び立ち上がってくると思わせる異質な空気は )


「『プロミム』」


 とうとう詠唱も始まった。魔法名がグランの住む世界と同じなら、せいぜい火属性の中級レベルであるが、


「こりゃあ威力でみれば特級レベルだぞ。どこにそんな力隠して……違う、こら本来のキャパを超えた魔力量なんじゃ」


 正面から受けたところで致命的では無いだろう。逆に致命的なのは目の前の術師の方だと判断する。彼は今、一体どうしてか許容範囲を超えた魔力量を有していて、分かりやすく言えば空気を入れすぎて割れる寸前の風船、これが術師の状況だから。


「すまんが撃たれるより先に沈める!」


 力加減をしている暇なしと、上から踵を落とす。加えて目覚めを少しでも遅らせる為に『オリノナン』で追撃をかけておく。

 屋根から数階分の穴を開けながら暗がりに落下していき、それで少なくとも第一予選の間は寝たままだろう。


「あっちゃ、やりすぎたかな〜。でも、敗退を認めずに命を削ってまで抗うなんて普通じゃない。一応怪しい人ってことで『銀字軍』に一報入れるか」


 言って、耳に嵌めた通信機に手をやって報告を入れる。応答したのは【衛星】クォ・スィール、通称クシーで、隙を見て回収に行くとのこと。


 ならば今一度目を向けるべきは周囲の状況だ。

 登り降りに時間を要したり、近場同士で軽く争ったりで接近は許していない。ひとまず安全と評価すると、グランは屋根の端に腰掛ける。


( この中に、お国に叛旗を翻さんとする輩がいる……果たして隅で隠れて着々と進出するつもりなのか、或いは今も堂々と姿を晒し続けているのか )


 実は一人、既にグランは注視している出場者がひとりいた。ほんの些細なことだが、第一予選のルール説明の途中、特段強い気風を漂わせていた若者が近くにいたのだ。

 更にその若者は「屋上組」の一人、つまりグランと同じく第一予選では追われる身。


( もしそいつが反徒だとしたら、隠れて進出する策は既に挫けたことになるが…… )


 色々やるべきことを考えていると、気配が身体を撫でた。

 蛇行するように、おそらく壁を蹴りながら、背後から強者が接近してくる。すぐに真後ろで足音が鳴った。


「……なんで、敵がいるのに警戒しない」


 声はとても若々しかった。おそらくグランと同年代かそこらの、意気揚々とした青年なのだろう。と言っても、グランは既に相手の顔を知っているから確認するまでもないのだが。


「噂をすればってことかな……なんて、独り言を噂と言い換えても良いものか定かじゃないけど」


 振り返って顔を見ることもせず、ただ言葉を紡ぐグラン。その発言が意味するところは、つまり、この青年こそが注目の選ばれし者の一人。


「問いの答えは、ただ敵意を感じないからだ。逆に、なぜ俺の所に足を運んだのかを教えてくれるかな、85番」


 質問と同時、首だけ一顧して見上げる。


 紅く長い髪に、動きやすく所々はだけた衣装から覗かせる肉体美。青年は執拗に狙われる側でありながらまだ一切の呼吸の乱れを見せず、値踏みするよう威丈高に見下ろしていた。

 そしてこれこそが、


「質問に答える前にまず、俺のことは85番ではなくフェルナンドと、そう呼んでくれ」


 青年__フェルナンド・オールとグランの邂逅であった。




お疲れ様です!

フェルナンドも気付いていませんが、今回で彼はメイアとグランの兄妹二人に会ったことになりますね

ん? ところで、肝心のメイアはどこにいるんだ?

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