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勇者などいない世界にて  作者: 一二三
第二章 宿命の動乱
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第二章11 銀字は集う、人民のよすが


 レーベン王国全ての権威が集中するは、王の座するこのデモクレイ城以外に何があろう。

 先に述べた通り、高台の滝に囲まれるような立地をしており、加えて城自体も白を基調としつつ、色鮮やかなガラスや尖った屋根などが美しく映えている。


「待て、貴様は何者だ」


 と、王城をじっくり眺める時間は無かった。

 町から伸びる一本橋を渡りきったところで、グランは厳めしい城門の兵士に呼び止められる。


「え、あーそっか。今来たところでただの一般人なのか俺って。門番さん、大会出場者って言っても入れません、よね?」


「入れる訳が無かろう。現在、闘技大会開催にあたり警備を強化中だ。貴様が入城を望む理由が余程正当なものであるか、それとも『銀字軍』などの正当な組織から許可証を得ているかすれば入れてやるがな」


「うわでた『銀字軍』。さっきのなんたら会の奴らも言ってたっけな。それにしても困った……」


 無計画すぎたとグランは内省するも、だからと言って解決されるわけがなく、行き詰まった。イッポス達がミスティカランドを待ち合わせ場所に指摘したのは、彼らの許可をダイレクトに得る為でもあったのだろう。


「なら、『傾聴者(スラオシャ)』のイッポスとバーティはいるか? ほら、大会出場者の中から国家転覆を仄めかす招待状が届いたとか何とかってさ」


「何だと? 貴様、何故それを知っている! 機密情報のはずだぞ!」


「いやだから、イッポス達に言われて、その転覆を阻止しようって事で来たんだって」


「イッポスにバーティ、なるほど臨時で任命された輩か。だが、貴様がその犯人である可能性も捨てきれん。ここは確証が得られるまで、お前を確保させてもらう」


「え、はあぁぁぁぁ!? マジ、あり得ねぇ……ッ」


 ここで暴れてはますます不利益被るだけだと、反抗したい気持ちを抑えてお縄に掛けられる。


( これで俺が国に仇なす存在だったらさっさと反抗して侵入してるぞ? 大人しく従う敵がいるかってんだよったく )


 脳内で文句垂れながらも、城門は僅かに開かれ、兵士に引っ張り連行される形で入城することになった。全く望んでない方法ではあるが、潔白はすぐに証明されるはずだ。


( けど、やっぱすんげ〜な )


 喜べない状況は状況でも、やはり城内は凄かった。

 等間隔で吊るされたシャンデリアの光が煌びやかに周囲を照らし、エントランスの開けた間の中だけでも多くの大臣や貴族、兵士達が忙しそうに動き回っている。


 それっぽい石像やアート作品らしきものなども、場を高貴な気風漂うものにしている。完全に、腕を縛りあげられたグランは冷たい視線の的だろう。

 そのまま広間を前進するかと思われたが、入ってすぐ狭い地下へ続く階段の方へ引っ張られ、すぐに鑑賞タイムは終わりを告げてしまう。このままでは牢屋へまっしぐら。


「兵士さん、ひとつ聞きたいことがあるんだけど」


「私語は慎め。喋りたいなら、貴様を斬り捨てて、その死後の世界で好きなだけ語らせてやっても良いが?」


「おっと、ダジャレかよ」


「________死にたいか?」


「うわぁそれだけは勘弁。でも、頼む。どうしても聞いておきたいことなんだ」


 手は縛られていて合わせられないので、会釈するように頭をゆるりと下げて懇願する。これで拒否られるもんなら諦めるしか他にないが、


「仕方あるまい。聞くだけ聞こう」


「やるね〜あんた良い人だ。失敬な俺に死刑が待ってるかとヒヤヒヤしたよ」


「ささやかながら、私は鞘から剣を抜かせていただこう」


「はいごめんなさい即座に本題に入ります」


 くだらないダジャレを言っている暇では無かった。

 グランが聞きたいことと。つい観光のことで路線が切り替わっていたが、厄介なお国の事情についてだ。


「ついさっき『縛蛇会』の敷地に入ってしまったんだが、あいつらって本当にどうにかならないのか? その……得意のお縄で」


「縛蛇か。無念だが、私どもでは何も出来まい。後で再び入らぬよう胸に刻んでおけ」


 やはりエメルドという男の言った通りの対応だ。普通に訴えたところで排斥されるだけ。法の効力は彼らには及ばないことの確証が取れた。


「しかし、貴様は特に外見に()()()()()跡は見えぬ……はたまた、有り金を叩いたか」


「ん〜や、俺は無一文だ。ただ奴らに見逃してもらっただけだよ」


「見逃して……? 面白いことを言うんだな貴様。彼らに貴賤で分別などあるものか。まして金銭の持たぬものを無償でとは」


 グランも強引な手法の詳細までは語るつもりもなく、兵士の反応はごもっとも。この様子では、あの会が国の暗部であることは歴然とみて問題もない。


( すると必然、『縛蛇会』の対処法は三つ。現王が策を講じるか、現王を退け新王に任せるか、或いは )


「もしかして、いやもしかしなくてもグラナードかい?」


 不意に、横から声が掛けられた。顰めっ面の兵士と共に、顔が声のした方に向けられる。

 視界に映ったのは、腕に包帯を巻いた不思議な子供だった。その姿はすでに見知っている。


「まさか驚いたよ、一人でここまで来ちゃうなんて。それも連行されてる最中だとは」


「嗚呼、イッポス! 丁度いいところに!」


「これはこれはイッポス殿。この怪しい青年を牢屋にぶち込もうと思ってたが、本当に貴方のお連れだったとは」


「疑うのも無理はないね。『傾聴者(スラオシャ)』二代臨時のイッポスがここからは引き取ろう。貴方は警備に戻るといい」


「はッ。では、失礼する」


 縄を解いてグランに一瞥くれると、その顰めっ面のまま兵士は来た道を戻って行く。その足取りは不服さが浮き出ているよるで、反面どこか喜びが含まれているようでもあった。


「はは、やっぱこんな子供のなりした人間から命令されると、癪に触るようだ。それによく分からない臨時の役職と来たら、そりゃ不服な顔をするよ」


「肩身が狭いのか、苦労が絶えないな」


「それはお互いにね」


「それはそうとあいつ、お前が来るまでダジャレばっか使ってたな。生真面目を装って本当は違うのか、よう分からん」


「あの人の父親は二年前まで『銀字軍』の兵隊だったそうだ。強者たりながら磊落とした人で、不幸にもある軍事作戦の最中に命を落とした。そんな人の息子だから、ユーモアある言い回しが移ったんじゃないかって噂だね」


 一般門番兵が噂の的に、それも来たばかりのイッポスの耳にまで届くのは珍しいことと思える。

 親が有名で、しかも亡くなった後にその息子が一般兵止まりというのも、もしかしたら肩身が狭いのかも分からない。そこらへんの苦労は彼にしか分からないのだろう。


「で、早速だけどグラナードは何故こんな早くに来ることになって、妹君の姿が見えないのか。教えてもらえるかな」


 二人は回廊を進み二階の騎士団本部へ向かうことにし、その道すがらでイッポスの疑問について答えた。ユニベルグズでの出来事から、ミスティカランドでの伝言のことまでについてをだ。

 異世界の話をする手前、あまり人前でこう言った趣旨の会話を控えるべきとも思ったが、逆に静かでない場の方が声も紛れて好都合だとイッポスは語る。


「なるほど、僕らの与り知らぬ何者かの干渉でメイア君はこの世界のどこかに……膾を吹くくらいの心構えはしておいて損は無いだろう。なに、念には念をで用心しておこうって意味だよ」


「さては俺の言動を先読みしたな」


「ご明察」


 忘れていたが、イッポスは相手の行動の一手先が読める、一種の未来予知が可能なのだった。見ての通り、彼との会話は時々混乱しやすい。


「最初から相棒のバーティがいないことを気にしてるようだけど、彼女は今他の魔術師達と王城を囲む巨大な結界の展開を着手しているよ」


「次から次へと先読みして答えんなよもう! それで、結界って何のためにだ。転覆予告者を弾くためものとか?」


「いーや、違う。そうするには人間全体を弾く結界を張らないと駄目だが、それじゃ本末転倒。大会観戦客も含め誰も出入りできなくなる」


「でも結界を張るからには、何かから城を護りたいんだろ?」


「そう。けど詳しい話はほら、着いたよ。騎士団本部で()()()()について話したい。本来なら君たち兄弟なしで進むはずだった作戦だけど、偶然グラナードが来てくれた。だから済まないけど、大会の前にこちらも手を借りたい」


 その言葉にグランは分かったと頷く。

 感謝を告げるとイッポスはノックの後に二枚扉を開け、グランを先導して入室する。


「失礼するよ。本作戦の件で手を貸してくれる者がいるのでね、彼を紹介させてもらいたい」


 イッポスの手招きを受け、グランも続いて入室する。

 騎士団本部と言うだけあって、壁にはレーベン王国の地図がずらりと張られ、中央の大卓上にも同様の地図や勢力図的なものが敷かれている。


「彼はグラナード・スマクラフティー。一年前に知り合ったばかりだけど、実力は保証しよう。加えて彼に大闘技大会の出場者として例の暗躍者を抑えてもらう算段も立てている」


「突然の来訪ですまない、グラナードだ。よろしく頼む」


 イッポスがかなり重要な役割を担う者としてグランを紹介したせいか、室内にいた者らの視線が鋭く刺さる。

 広い部屋には当然一般兵やその隊長も見られるが、特に目を引いたのは奥に座する十人ばかりの近衛兵。他とは違う、唯ならぬ空気が彼らの周囲で唸っている。


「そいつの実力を保証するって言われてもよぉー、まず俺らは餓鬼の方の実力すら知らねーってんだわ。素性の知らん餓鬼の保証なんか役に立たねーとは思わないか?」


 唯ならぬ者達の一人、随分若そうな兵が異議を唱える。

 それを制するようにしてもう一人、大槌を携えた老人が手を挙げる。


「これ、小僧は小僧でも『傾聴者(スラオシャ)』だ。少なからず何事かに備えた戦闘技術を培っておるはず。それに彼と同時期に任命された魔法使いの方はかなりの手練れときた。であれば、小僧も同様にな」


「うっせぇぞ〜ジジイ。俺ぁ自分で信頼できなきゃ受け入れねぇ。俺はこいつが()()()奴だと知らなきゃならねぇ」


「ならば、今からここで試せばいい。そうでしょう、『銀字軍』の【閃耀】ナヴィル・ブリッツ殿」


「________なにぃ?」


 イッポスがはっきりとそう言った。これは己の実力をここで証明してやる、という挑戦状を叩きつけたと同義である。

 そして流れるように、部屋奥の唯ならぬ者達がここまでで度々耳にした『銀字軍』であることが明らかに。


「ブリッツ殿は普段から鉤爪(クロー)を武器としており武闘に優れているはず。ならば手脚を使って僕に攻撃を行なって欲しい。大部分の猛撃に僕が対応しきれたら、その時は認めてもらう。それでいいかな」


「随分と舐められたもんだな。俺を【閃耀】と呼んだってこたぁ、俺の速さに着いてくぜと煽ってやがる。だがその誘い、ノッたぜ」


 グランの実力がどうとかいう話からの急展開に、グランはもう口を出すことすら躊躇われていた。イッポスがその気でいるならもう静観してれば大丈夫な気もしてくる。

 とかなんとか考えてる内に、ナヴィル・ブリッツはイッポスを見下した目で眼前までやってくる。既に本部内の皆の注目が二人に向いていた。


「対応できたらなんて言いはしたけど、どのくらい耐えられれば認めてくれるかな?」


「俺ぁ餓鬼なんざ五秒でも無理と見てるが……おいジジイ! 何秒イケると予想する?」


 ジジイと呼ばれたのは先の大槌の老人。呼ばれ方にはもう何も思うところは無いらしく簡単に答える。


「十は余裕だな」


「はあぁぁぁぁァッ? 十秒も? なら将軍! それに皆の意見も聞かせろや」


 次いで聞かれて、黒衣の男が面倒そうに呟く。


「クラーが十と言うなら十でいいだろ」


 うんうん、と他の『銀字軍』全員が男の意見に同意する。


「どうやら決まったらしいね。僕が十秒持ち堪えたなら、僕と彼をまずは認めてくれ。完全に認めるのは実際の働きを見てからで構わない」


「ちッ、分ぁったよ十秒だ。準備は」


「いいよ」


 イッポスは言葉を先読みして答える。

 須臾の間を置き、何者かの杯の氷がカランと鳴るを合図にそれは始まった。


「だらああああああああああああああああああッ!!!!」


 迫真の咆哮を轟かし、ナヴィル・ブリッツは両腕を閃光の如きスピードで動かし、子供目掛けて襲いかかる。普段は鉤爪での戦闘を得意とするらしいから、素手での攻撃にややぎこちなさがある。

 それでも、


「餓鬼んちょテメェ、どんなトリックだこらぁッ!」


「嗚呼嗚呼、一年前の所長さんとの戦いを思い出す!」


 イッポスは相手の拳を一切として直撃させていなかった。

 去なし、躱し、受け止め、弾き、力を逃し、払い除け、流してゆく。


 一般兵達は唖然とその攻防の凄さに集中してしまっているが、グランとナヴィル、そしてその他『銀字軍』の者らは気付いていた。この子供、初めからずっとスマイル顔で続けているのだと。


「流石の僕もここまで速いと厳しいね……!」


「なら笑うなクソ餓鬼ぁ! だああああムカつく!」


( 今更だが、こいつ……本当に相手の次の行動()()を予知してるんだよな。一手先が読めたとして、ここまで俊速に反応できるって、実質先読みも無いようなものだろ )


 これが長年不老の闇の力を与えられて生きてきた者の力であるとはグラン以外知るよしもなく、たった数秒は濃密な数秒となって過ぎていく。


「く………………仕方ねぇ。認めるしか、あるめぇよ」


 十秒が経過した。

 最後の一撃はナヴィルの回し蹴り。最後の最後で初めて脚を使ってきたこともあってイッポスも遅れ、完全に受けきれず数歩よろめいていた。


「ふぅ、本当に厳しいところだったよ。軽い手合わせを有難うナヴィル・ブリッツ殿。これで本気の速度を出されていたら手に負えずあっさり負けていた」


「ケッ、手加減してんのはお見落としかよ」


「でもこれで僕らは認められた。見ててどうだった、グラナード」


「この速攻でさらに威力を増して来たってなれば、かなり捌くのも厳しそうだな。『銀字軍』ってのはとんでもねぇな。これじゃあそう簡単に城も落とされないと思うぜ」


「ふっふっふ、だろう? 願わくば、いつか君とも手合わせしたいものだね」


 何せあの元ラグラスロ軍の精鋭に「厳しい」の一言を貰うくらいの連中だ。あの闇の世界を体験していない頃のグランからすれば、力量の差に心折れかけることだろう。


「けど間違いじゃ無けりゃ…………名前ナヴィルだっけか、お前が軍で一番弱い、よな?」


 ここでグラン、まさかの爆弾を投下。


「な、なななななななななんだって?」


「いやすまない。マジで貶してる訳じゃないんだ。本当に凄いと思ってるし感心してるんだけど、奥の八人はもっとこう、お前よりも強いって感じが伝わるって言うか」


「そそそんなわけッ……おいクシー! お前はどう思う!」


「えっウチ? ウチは別にナヴィちゃんと同じくらいだと思ってるよ〜。でも、他の皆んなよりは弱いかなあ」


「ごぁッ……………………!」


 ケモ耳の仲間に弱いと言われ心に刺さる音がする。

 手前側の一般兵達は何とも反応できず居心地悪そうに顔を引き攣らせている。反対に『銀字軍』には笑いが起きていて、グランに好印象を湧かせる者が多くいた。


「はっは。ここまで『銀字軍』に属する者にきっぱり弱いと告げるとは、どちらの小僧も面白いじゃないか」


「ちょっとクラーさん? 私達の仲間が弱いなんて言われちゃ黙ってられないんじゃないの? ふん、もっとナヴィルを教育して見返させてやらなくちゃ!」


「それも面白そうですね。ですがまず、彼には後に控えたる大規模作戦にて活躍してもらわねば。いや、それとも彼らでどちらが見事な戦いを披露されたるか競うというのもまた一興でしょうかね」


「おい流れに乗って俺を小馬鹿にすんじゃねぇ!」


 最初一目見た段階では威厳ある、それこそ初期のデアヒメル王のような貫禄を催しているようであったが、いかに強くあろうと和やかな雰囲気も実に持っているらしい。

 彼らの会話に耳を傾けていると、中央の黒衣の男が立ち上がりグランに語りかけた。


「グラナード君と言ったね。紹介が遅れたが、私の方から『銀字軍』の紹介をさせてもらおう。まず私が、将軍を務めるドンケル・ナハトアングリフだ。【影胤(えいいん)】の二つ名を授かっている」


 将軍の座に相応しく、軍の中でも謎の威風を感じる人だ。でも何故だか、彼が一番強そうと言える程のものを感じ得なかった。つまり別の何かで突出しているのだろう。


「そして次に、もうご存知だろうが【閃耀】冠するナヴィル・ブリッツ君」


「おうよ、これから嫌と言うほど俺の強さを見せてやるぜ」


 大分根に持たれてしまった。暗殺されないように気を付けようと心に刻む。


「ここからは卿らから向かって左側から紹介しよう。まずは【魔殺(まさつ)】のカタリスト・グレイグ、蜥蜴人(リザードマン)の亜人だ」


「宜しく頼もう若き者よ。見ての通り、蜥蜴人(リザードマン)と言えど基本は人間形をしていてな。しかしこれが我の強さの秘訣と言えようぞ」


 彼の言う通り姿形は人間のそれだ。見える範囲で変わったところと言えば、赤い肌や尻尾などの部分だろう。


「次に【忌避】たるノースポール・リベルテ。一風変わったもので戦うから、その時になったら見てみるといい」


「突如と来たる若人が乾きを潤す雫となるか、流れを塞ぐ流木となるか。前者を願い、是非後に乾杯致しましょう」


 目の細く耳の長いノースポールという男は風流を好むような言い回しが特徴だろうか。将軍の言う一風変わった武器が気になるところだ。


「そして私の隣に座するは【激震】のディブルク・クラー。純粋な人間の中では最年長だが、彼の力は侮れない」


「ようよう若者! 戦神クラーの名に誓って、貴殿の助太刀を心より祝わせて戴こうぞ!」


 紹介の通り彼の手元には巨大な鎚があり、それが振るわれたらどれだけの威力が出るか予想もできない。太ったように見えるが、あれでも四肢の筋肉は恐るべきものだろう。


「私を跨いで隣に座るのが【麗酷】冠するアンジュ・ボーゲンだ。我々の中で唯一のヒーラーで、彼女の活躍ありきの『十字軍』とも言えるだろう」


「紹介預かった、アンジュだ。ナヴィルのように無謀に敵陣へ突っ込む阿呆が今も生きていられるのも、私のお陰ということ」


「く、悔しいがその通りだ感謝するぜコラァ!」


 水色した髪を掻き上げながら挨拶する彼女は凛としていて【麗酷】の二つ名がピタリ合っている。が、そうなると「酷」という一文字がどこに潜んでいるのか、まだまだ隠された一面がありそうだ。


「で、彼が【火瀛(ひのうみ)】のマルモア・ドライシュタイン。厄介な戦い方をするが、だからこそ、味方である以上はとても重要な戦力となる」


「どうぞヨロシク。見たところ、君から強者の香りはしないのだけど……ケケ、せいぜい自分の後ろで引き篭もっているがイイ」


 どこからどう見ても悪役すぎる顔をしている。外見だけで判断するのもどうかと思うが、発言自体も存外悪役って感じを否めないところが大いにある。


「まったくもう、卑屈すぎてほんっと『銀字軍』の人間とは思えないわよね、あんた」


「ふふ、そう言う彼女は【人城(ひとしろ)】アイギス・ヌルシュタイン。姓からも若干予想はできるだろうけど、マルモア君とは分家の関係でね。従姉妹とでも考えてくれればいい」


「済まないね。こいつ悪役っぽいけど職務はしっかりこなすから、安心してくれていいよ。ま、私は見ての通り元気な乙女だがね! 先陣切って皆を鼓舞するよ!」


 青髪の中でティアラが光る。

 活発な乙女と言われればやはり妹メイアと似た部分があるだろうか。彼女がどんな戦い方をするのか、見ものだろう。


「これで最後だね。【衛星】冠するはクォ・スィール。獣人族の彼女は狼を引き継いでいて、主に偵察を得意としている」


「グラナードちゃん宜しく〜。名前呼びにくいと思うから、ウチのことは是非是非クシーって呼んでね!」


 そう明るく振る舞うケモ耳の女性。尻尾も生えていて、先の蜥蜴人(リザードマン)カタリストと同様に亜人だろう。

 グラン達の世界には居ない亜人族の存在に新鮮さを覚える。


「以上、我ら『銀字軍』全九人。卿らの助力に感謝し、歓迎しよう」


「お、おおお」


 一般兵達も含め、皆が拳を胸の前で交錯させる。この国に於ける敬礼のようなものだろうか。思わずグランの口から感嘆の声が出た。


「これで双方紹介は終わったね。どうだいグラナード、とても頼もしく感じるだろう? 彼らに君が加われば、一層として一枚岩な、不動の防衛機関が完成する」


「ああ、なんだか凄くやる気が湧いてくる」


「それは良かった。なら、そろそろ話題を変えたいのだけど、将軍ドンケル・ナハトアングリフ殿、いいかい?」


「そうだな、詳しい作戦内容は引き続き私から説明しよう」


 言ってドンケルは両手で中央の大机に体重を預け、皆々の注目を集める。一気に場が引き締まるのが分かった。

 この指揮室に来る前から少し仄めかされていた軍事作戦とやらのあらましが、将軍の口から明らかになる。


「グラナード君、卿に参加してもらうのは通称・兇廻獣討伐作戦だ」



地味に快挙だと思うんです。

一週間以内に9000字弱の話を投稿できるなんて、最近の私の怠慢からすれば快挙だと思うんです。


今回はたまたま興が乗りましたが、はてさて次回はどうでしょう?

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