第二章08 使命④
「は、ぁ??」
それは、世界が静止したような間だった。
グランから滲む怒を思わせるオーラが、花瓶や灯火を震え上がらせている。その刹那が過ぎると纏わりつく圧のようなそれは消失したが、かと言って残滓は確実にナハトまで届いていた。
( な、なんなんだ今の気迫は…………これが、たった一年で人が到達できる段階なのか?)
ほんの僅かな漏出だったにもかかわらず、ナハトの腕には鳥肌が立っていた。もう長らく忘れられない、それだけの衝撃を孕んでいたのだ。
( だがこいつ、一瞬で冷静に戻った。怒りの類を多少コントロールできる、のか )
最愛の妹がいなくなったと聞いて絶望感に浸っていることは間違いない。それでも正気を保っていられたのは、まだ彼の胸中に希望があったから。
「メイアが消えたってのは、どういう意味で」
「有り体に言えば失踪のようなものだと、私は推察している。ただ、君ら兄妹のよく知るそれとは大きく異なってもいるらしい」
「何を言ってる?」
「メイアの書き置きがあってね。これを見るに、自らの意思で何処かへ消えたようなのだよ」
ナハトが「行った」ではなく「消えた」と表現するからには、何か怪訝な要素が取り残されているということなのだろう。室外の研究員達がメイアが消えたことを知らなかったことから、ふら〜っと歩いて外へ出た訳じゃないことは明らかだ。
「ん、待てよ。ナハトさん、あんた何故、他の研究員達にメイアのことを知らせなかったんだ?」
「逆に聞くが、ここに来てすぐ暗い雰囲気の皆々にこの旨を知らされたかったか? おそらく私の口から粛々と語った方が良かったはずだが」
「______そう、だったか。すまない、配慮に感謝するよ」
ナハトからしてもメイアはとびきり特別な存在といってもいいだろう。消えた時その場にいなかったグランのことまで考慮していた、これが彼女の聡明さを示していた。
「俺は懼れていたんだろうな。近しい人間が手の届かない何処かに行くことを。なかなかどうして、約二年前、メイアはこれより深い悲しみの内に生きていたのか」
「かけがえのない絆だからこそ、失うことが弱点となるか。だが返せば、メイアが生きていると信ずる限り、そして探し続ける限り、それは失われたことにはならない。私に出来ることは些細なことだが、お前になら出来るはずだ」
「…………こりゃ随分と重いな」
かなり強引に言いくるめられた気もするが、間違ってもいないから否定はできない。
彼女の信念的に、不安要素があっても否定できる要素がなければ可能であると考えていることだろう。だからこそ、魔法陣を介した魔法の発現などの偉業も成せているのだ。
( でも、そうだ。メイアも俺も、大元には同じ目的がある。それがある以上は死んでも死ねねぇって奴だよな )
少し違う気もするが、グランは勝手に納得した。
「まあなんだ、こうやって会話を挟んで少しは落ち着いただろ。お前より長く生きてるんで、早くメイアの話をしたい気持ちは分かるんだがな」
「人との会話は薬にもなるんですね。俺もまだまだか」
「何を言ってる。お前も人である以上は心も揺らぐさ」
「こりゃ確かに。俺が不動の心を持ってるなんて考え出しちゃあフィーストに『驕ってる』なんて理由で背後から刺されそうだ」
「ん、フィーストとは誰のことだ?」
「まあ俺の………………ライバル? みたいな奴ですかね」
「後ろから刺してくるって、物騒なライバルだなこりゃあ」
はは、と微笑を溢してグランは話を区切る。
余談はここまででいいだろうと仕草で伝えるつもりだったが、驚いたことに本心からも笑みを浮かべていたらしい。これがナハトのもたらした心の安らぎだったか。
「よぅし、調子付いたところで本題に戻ろうか。 色々と課題は山積みだが、まずは最初に言った書き置きを見て欲しい」
言ってグランに渡されたのは一枚のメモ用紙。
無地の白い紙には何の仕掛けもない。逆に炙り出しのギミックなんかが隠されていても気付くわけないが。
そこには妹の筆跡で短く綴られており、グランはそれを心に刻むように読み上げる。
『ナハトさんへ______突然の事情によりここを離れます』
『お兄ちゃんが戻ったら、私がミスティカランドに向かったのだとお伝えください______メイア』
誕生日で、ずっと兄の帰りを楽しみに待っていた妹がこうも即決したように消えていく、その理由がグランには一つしか思いつかなかった。
「そうか…………人助けをしに行ったんだな」
「人助け、だと?」
グランも丁度イッポス達から依頼を受けたところだったから、偶然が重なりメイアも誰かの頼みを聞いたのだと推測する。
「いや、だとしても安心はできないな。不可解なんだ」
「不可解って?」
「私は手紙を読んでもそこまで慌てなかった。行き先が書いてあったからな。けど、顔を蒼白にしたのはこの後だった」
「地図に地名が載っていなかったからか?」
「そうだ。世界地図を広げてみても、市町村名はおろか国名にもミスティカランドなんて地名の文字列は_______待て、グランお前、今なんと言った?」
「えーっと、地図に地名が載っていなかったからか?」
「ふむ、確かにテーブルに地図は置いてあったが、そこまで予想できるかよ普通。まるで最初からミスティカランドが無いって知っていたかのような………………いや、まさか」
ナハトはたった今考えられる可能性を口に出す。
「お前が以前失踪事件に巻き込まれた際、その地名に出会していたとでも言うのか?」
しかし、グランは首を横に振った。
グラン自身もさっきナハトの口からその地名が出るまで忘れていたが、ついこの前聞いたばかりだったのだ。
「ちょっと話が複雑になるが、言ってしまえばミスティカランドがあるのはまた別の異世界なんだよ、ナハトさん」
「それはまた、厄介な」
「この世界に戻ってくる前、諸事情で俺はまた別の世界に行ってたんだが、そこで訪れたのがこの街だった。なるほど、これが俺たちの運命という訳だ。でも」
兄弟共に与り知らぬところで同じ世界への関わりを持ったことは幸運と言っていいのだろうか。
たまたま行き先を知っていたと見れば幸運だが、結果論と言われればそれまでだ。加えて、もともとメイアと再び異世界向かう予定だったことを考えれば不運とも取れてしまう。
「酷と思うかも知れないが、今はそんなこと考えても無駄だグラン。メイアが紙に『異世界に行く』と書かなかったのなら、行き先が異世界と知らされずに行った可能性が濃厚。何が起きるか分からない以上、今はメイアと再開することが優先だろ」
「尤もだ。なんて言っても、すぐに俺がメイアの向かった先を追えばいいって話だろ? なら今すぐにでも_____ 」
「いや、再開が優先と言ったばかりで申し訳ないけど、今日は休むべきだろう。普通にもう夜だぞ」
「え、でも俺瞬間移動が」
「でももクソも無い。さてはお前、自分が疲れてるって自覚がないのか? それとも敢えて無いものとしてるのか」
「ぁ_________。」
そう指摘されて、グランは自分の手のひらを数回閉じたり開いたりして眺める。これだけで何かが分かることは無いけれど、自己を俯瞰することはできた。
風呂に入っただけで疲れも吹き飛んだと勘違いしていたが、根底にあるそれは根強く潜んでいたのだ。
「普通に自覚なかったよ」
「なら今日は素直に泊まりだな」
「あ、でも泊まる場所どこにあるか俺知らんよ?」
「どうせ宿を教えたところで金がないんだろう。だったら簡単、ウチに来ればいい」
「ウチってつまり、ナハトさんの家?」
ナハトは間髪を入れずに頷いた。
グランももう数日で二十歳だ。この時少し女性の家に邪魔することに躊躇いが無かったと言えば嘘になるが、ナハトの家に上がるやいなや爆睡した為何も起こらずに一日が終わったのであった。
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翌朝、朝ぼらけとも呼ばれる、日が登り始め空が明るくなってくるかといった時間帯。
まだ外から活気ある音は聞こえてこない。人々もまだ目覚めきっていない証拠だ。
そんな早朝ではあるが、グラナード・スマクラフティーとナハト・ブルーメの両名は既に出立の準備を始めていた。朝食を食べ、後はメイアを探しに外に出るだけである。
「こんな早くから……本当に大丈夫なのか?」
「そうだな………ここ一年間はずっと早寝早起きの生活をしていたから問題はない」
細かい指摘ではあるが、グランと答えはナハトの疑問に対してやや曖昧なものであった。この程度の濁しを聡明たるナハトが見逃すはずもなく、
「ほんと、君たち兄妹は強がりだな………」
「そこまで言われたら否定できねぇよ。でも、もはやこれが俺たちの普通なんだ」
まったく呆れるね、と嘆息しつつ、
「そのままじっとしてろ。『リスレッツィ』」
グランの背に手をかざし、特級回復魔法を誦んずる。その優れた効力によって彼の体力は当然のこと、長時間肉体に負荷をかけていた鉛が綺麗に融解していくようだった。
かなりの実力と実績をもつナハトだが、それでも多量の疲弊を取り除くにはしばし時間が必要らしい。
「あのぅナハトさん、何も完全に回復しなくても_____ 」
「じっとしてろと言っただろう?」
優しい声でありつつ、どこかトゲを孕んでいそうな言葉を受けてはじっとせざるを得ない。早る気持ちを鎮め、静寂のダイニングにて行われる回復儀式に集中ことにして、
「お前は、この世界からどのようにして弱体化魔法が失われたのか知っているか?」
突如投げかけられた問いに答えるだけの知識をグランは持ち合わせていない。ただ「いや」と簡潔に返答する。
「ま、だろうな。なんだ、回復が終わるまでの時間潰しとでも思ってくれればいい。かつて失われた魔法の話をしよう」
メイアからナハトは弱体化魔法を魔法陣を使って復活させたんだと聞いていた為、その存在自体は一応認知していた。けれど、よくよく考えれば弱体化を付与できる便利な魔法が一度消えた理由については全く知らずにいた。
「私も、古い文献を読み漁っていて偶然知っただけなんだがな、千年ほど前のことだ。当時はこの都市大陸にも国家というものがあり、その戦争でも弱体化魔法は重宝されたらしい」
戦争。今でこそ争いは見られないが、昔は荒れていた。争いの度々勃発する荒れた世界。
「グランも、弱体化は強い相手にさえ勝ててしまう便利な魔法だと思ったろう? その通りだ。その通りなんだが、ある日事件は起きた。絶え間ない戦争の最中、どの国にも偏らず、無差別に国々を陥落に追い込もうとした大規模集団が現れた。弱体化魔法と戦力のどちらもを兼ね備えた精鋭たちの反乱が始まった」
ナハトの話はなおも続く。
「結果から言えば、無事に反乱因子は殲滅された。だが、あらゆる国家がその打倒に総戦力を費やしたことで政治が行き届かない事案が多発。ついに大陸中の貴族や諸侯達が協定を結び、太古の大都市のひとつであったベネセント・アルを中心として国境は撤廃。そして今に続く独立都市による大陸の基盤が出来上がったのだ」
と、そこまで話したところで回復は完了した。話を聞くのに集中していて気付かなかったが、身体の底から力が巡り廻る感覚を覚える。
「凄い……疲労ってのは、ここまで力を隠してしまうのか」
「そうさ。力ってのは認識されないだけで自然と隠れているんだ。さっきの話に戻るが、国家の雲行きが怪しくなったのもまた、国力が見えなくなってしまったからなんだ」
「えっと………見えなくなった、と言うと?」
「ある文献には、反乱軍との戦で必要戦力が『失われた』と書いてあるが、また別の文献を漁ると『透過した』なんて記されているんだ。別言すれば、兵士が尽く殉職したのではなく、疲弊によって戦えなくなったという事になる」
多分、いま言葉で説明されただけでは理解できなかっただろう。ナハトの回復魔法があったお陰で、グランは自分の身体を通して言わんとしていることを掴んだ。
「結局はどちらであれ滅びる運命にあったろうがな。私が言いたいのは、一つの事実に潜む根底を探ることの必要性」
「なるほど。失ったなら補充しなきゃだし、見えなくなったなら休ませなければいけない。対応も変わってくるのか」
「うむ。その意味で言えば、なぜ反乱因子が立ち上がったのかもまた考える余地ありなのだろうな」
「じゃあ、なんでそんな集団が現れたんだ?」
「………………ふむ」
謎の間と含みのある反応が返ってきた。
一体何を意図してのものなのか想像も付かないが、答えはすぐナハトの口から出された。
「その疑問だが、課題としようか」
「課題だって?」
「なぜ反乱が起きたかという疑問に君なりの解を持ってこい。期限は次にここへ来たとき。お前のこの先体験する多くの事象が鍵となり、見聞が広がることを願っている」
随分と唐突な話だな、とは思う。
その反面、国家転覆とは切っても切り離せない繋がりが既にグランにはある。
イッポスは言っていた。ひと月の後、ある異世界の王国で傾国か否かを賭けた大騒動が勃発すると。
「なんだかヒントは掴めそうな気がするよ」
「そりゃあいい。勉強するでも何でもそうだが、整理されているってのは素晴らしいことだと私は考えている。急いては事をし損じるからな」
斯くして会話しながら準備していたグランは、不要なものをナハト宅に預かる形でこれを完了させた。
家より研究所にいる時間の方が長いというナハトにとって、ここは寝泊まりの場所という認識程度のものらしく、だから荷物が増えることを快く了承してくれた。
「なんだ、私の家で何か気になったことでも?」
辺りをちらほら見回していたのを看破された。
「気になるっちゃ気になるって感じかな。ここが生活の場としての認識が少ないって話だが、それにしては所々に生活感が居座ってる感じがして」
グランが寝室として借りた部屋もそうだったが、箪笥の上に可愛らしいものが飾ってあったり、特に客間には不自然にいろんな物が置いてあった気もする。
「あぁ、あれは大体メイアのものだからな」
「メイアだって? なんだってここに妹の………ぁ」
「合点がいったかな。そう、彼女もここで毎日共に寝泊まりしていたから、昨日の寝室もメイアの部屋だと思っていい」
なるほど、とグランは頷く。
現状のグランと同じく、確かにメイアが長期間の宿泊場所を確保できたとは考えにくい。
「兄妹共々、ほんとありがとうございます」
「気にすることは無い。気にするってなら、もっと力を磨いて施設に貢献してくれてもいいんだがなぁ〜?」
「うわぁ、抜け目ねぇ」
頭を掻いて微笑するグランの腕に、窓から昇る朝日が直射する。その煌めきに当てられた黒い宝石がナハトの目に飛び込んだ。
「なあ、ずっと気になってはいたんだが、その黒魔法具まだ付けてたのかよ」
「ん、これか」
世の中にある魔法具は装着することでバフ効果を得ることができる代物だが、黒魔法具はその真逆。全ステータスを低下させる、捉え方によっては弱体化魔法と類似した能力を持つ無用の長物だ。
しかしナハトはこれが成長に大いに役立つとして目をつけており、その解明の為の被験体としてグランは一年間ずっと黒魔法具を装着していたのである。
「やっぱ出来るとこまで付けておいた方が得だろ? それに、ここぞと言う時に解放すれば相手を仰天・圧倒させられて格好いいじゃん」
「はは、童心が居座ってるな」
( いや、デバフ状態なのにあの力量かよ………)
最初に感じた鳥肌ものの気迫が制限された状態であることに再度畏怖を抱く。彼がどこまでいってしまうのか、ただそれが気になった。
「んーじゃ、おてんば妹を探して来ます」
「あ、ああ。そうだな、アル・ツァーイ村の方には私から連絡を入れておこう」
「そりゃあ助かる。では、行って来ます」
別れの挨拶を済ませ玄関の扉前に立つ。ひと呼吸置いて「よし」と声に出すと、手を伸ばして扉を開け______否。
首に掛けられたロケットペンダントに触れ、忽然とグランの姿は消えた。
デアヒメル王から賜った古代魔法具は三つまで場所を登録可能で、登録場所へ瞬時に移動できる便利を極めすぎたアイテムだ。
ちなみにグランは大都ユニベルグズと『歪み』前を登録している為、当然行き先は『歪み』だった。
「イッポスには二週間後に来いとか言われたのに一週間で戻って来るなんてな」
ぶつぶつ独り言を溢しながら異空間への入り口を潜る。
村の資料には『定期的に出現する』とか書いてあったらしいが、常時『歪み』は姿を見せているので嘘っぱちらしい。
世界と世界の狭間に存在する宇宙的空間を泳ぎ、前回イッポスに連れられてきたのと同じ軌跡を辿って進む。
そして見えきた一つの円盤状に浮いている光。『歪み』はどれもほぼ同じ形を成しているせいで違いはよく分からない。だが記憶からこれが目指す世界だと予想して、
「あだぁっ………! いっててててて、ほんと不親切だなぁ」
普通に飛び込むと地面にダイブすることになるのがこの世界の難点だ。これを考慮して下を土で柔らかくしてある親切設計なのは嬉しい。けど、もうちょっとどうにかならないのか。
「うげぇ、土が口ん中に入っちまったじゃんかよぉ」
ぺっぺと土を吐き出して、まずはミスティカランドに向かわなくてはならない。
この前イッポスに教わったように梯子を降り、道に沿って進むだけで到着できるのでそう迷うことはなかった。あとは目の前の絶壁に掛けられた吊り橋を渡れば当初の目的地である。
「って、この吊り橋揺れすぎだろ! 谷間なんて風が強いのに対策されてないんかこれ!」
グランでさえついつい怒鳴ってしまうリスキーな橋。現地民は慣れたものでも、外から来た人からすれば地獄に相当しそうだ。
( これメイアも渡ったのか? もし渡ったんだとしたら、絶対怯んで相当な時間かけてるぜこりゃ )
正解である。
シーニャという少女に置いていかれそうになったから無理やり渡りきったが、一人だったら多分渡れてない。
なんて吊り橋に文句垂らしつつも、意外とあっさり谷間を超えてミスティカランドへ足を踏み入れていた。
「ここが…………」
既に人がごった返していた。
今まで見たこともないような、いわゆる亜人も見られ、ここが異世界であるという心証を強めさせられる。
「うお、なんだこの荷台! 馬車じゃないぞ、あのデカいの、角とかどっかに突き刺さったらしねぇのか?」
目の前を過ったのはサイのような獣が荷台を引いているところ。どれほどの速さが出せるのか少々疑問ではあるものの、重量制限は圧倒的に馬車より上だろう。
「なるほど、この街は流通が多いのか。商人があちこちにいるから賑わっているんだ。でもそうなると、メイアがここにまだ留まってるから分からない以上、探すのにこりゃ骨が折れるぞぉ〜?」
行き交う人々全員を確認はできない。
桃色した特徴的な髪だからそう簡単に見逃すことはないだろうと控えめな自信を胸に、辺りを見渡していく。
その途中のことだった。
「おう、そこの兄ちゃん! そうキョロキョロして、ここに来るのは初めてと見たぞい。どっから来たんよ?」
新鮮な野菜や果物に囲まれたおじさんがグランを真っ直ぐ捉えて手招きしていた。八百屋の店主なんだろう。元気すぎて話しかけられたら普通にビビる、
「どこから………うーん、だいぶ遠くからとしか。てかおっちゃん、俺いま無一文だぜ。(なぜってこの世界のお金を持ってないからな)」
無一文の理由はおじさんに聞こえないレベルで囁く。
「なんだ訳ありってか? じゃが、いまは文無しでも構へんでな! 兄ちゃんくらいの歳の若もんに聞きたいことがあってよ。今人探しの依頼を受けてんだが、知ってねぇかなと思って」
「 俺じゃ助けになれないと思うが、どんな奴なんだ?」
「ほれ、そこの掲示板に情報貼っつけてあんだろ。依頼人の嬢ちゃんによりゃあ、グラナード・スマクラフティーっつう名前の青年なんだってよ」
どくん、心臓が跳ね上がるような感覚が全身を走る。
「え、誰だって?」
「だから、グラナード・スマクラフティーだよ。流石に兄ちゃんも聞いたことないかなあ」
予想だにしないところで、予想だにしない名が挙げられた。初めて来たこの地で、しかも俺の名を知る人間をグランは三人しかしらない。
手がかりは、すぐそこにあった。
今回はサボらずに投稿できました。勝ちです。
次回もグラン視点は続きますので、宜しくです!




