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勇者などいない世界にて  作者: 一二三
第二章 宿命の動乱
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第二章01 誘い


「どぉらあああああああああ______ぐふあぁッ」


 怒涛の動きで敵を翻弄したかったが、無惨に返り討ちにされる今日この頃。今までと比べれば圧倒的に成長を感じる一日だったが、依然まだ修行は足りない。


( 遠い。これが黒龍(ラグラスロ)と拮抗して戦った力で、俺がいつか超えなければいけない壁 )


 卓越した肉体美、いつになっても対応しきれない無数の戦法、圧倒的な素養の差。一年かけても追いつけない遜色無き男の姿に目も眩んでくる。

 膝に手を当てて荒くなった呼吸を整えている、その姿を見れただけで良しとする他ないこの状況。


「よく、ここまで持ち堪えたじゃないか。今日が最後とか言ってたが、最後くらい()()を外した(なんじ)と手合わせしたかったぜってな」


 男が顎で指し示したのは、グランの腕に装着された黒いガントレット。一年間ずっと外さず過ごした結果とっくに擦り切れており、いつ朽ちても不思議じゃないだろう。


「残念だが、最後まで経験値として吸収したくってね」


「なんだよ、ケチ臭いのぅ。しかーし、実感ないかも分からんが、爾は凄く成長したと吾は思うぞ?」


「一年で貴方に追いつきたかった」


「我儘言うな小僧。吾とて我慢に我慢を重ねてここまで至ったのだ。そう簡単に追いつかれてたまるか!」


 豪快に笑い声を響かせると、男は半ば落胆したように座るグランの肩に手を置いた。


「せっかく黒龍が潰れて自由の身だってのに吾に会いにきたんだ、何か成し遂げたいことが爾にもあるのだろう。なら、吾がここまで奴と渡り合えた秘訣を教えてやろう」


「_______本当か?」


「勿論だとも。いいか、耳かっぽじって心に刻め? 『なんとかなる!』と、そう思えば何とかなる。それが秘訣だ!」


「なんとかって、何だそりゃ! 本当にそんなんで戦ってたのかよ! 信じらんねぇ!」


 越えられない遠い壁と思っていた存在のまさかの秘訣に何とも言えない感情に襲われる。でも、逆に「そんなもの」で上手くやれるのだと考えてホッとひと息もする。


「ささ、爾の妹君が待っておるのだろう。それとも無視して居残るか。吾は構わないがな」


「いーや、帰るよ。誕生日に遅れたら殺されかねない」


「なんと! 妹君は爾を凌駕する戦闘力を誇ると!」


「そうじゃねぇだろうよ……………」


「はっは! だが退屈のない一年だった。達者でのぅ!」


 最後に男同士のグータッチを交わすと、ぐわんぐわんと視界がぼやける。特殊空間からの帰還、すなわち現実へ戻る合図だ。

 ほぼ毎日、グランは現実世界でなく男が創り出した特定の空間で手合わせしていた。そんな芸当が出来る男とやらは、グランが知る限り一人しかいない。


「終わったか」


「今日もいい経験になった。感謝しかないさデアヒメル王」


 日が沈みかける頃合い、雲から顔を覗かせた日輪が王の姿を紅く照らした。


「吾は日々の変遷を眺めるだけであるが、しかし、この短期間で爾は随分と変わった。これだけの時間があれば『大侵攻』でもより善戦できただろうに、すまぬな」


 出会った当初は威厳と威圧感が凄まじいデアヒメル王であったが、今ではかなり打ち解けた方で、口数も増えていた。一年前なら彼の口から謝罪の言葉が出たら瞠目したろうが、もうそんなに驚くことではなくなった。


「いやいや! 王のせいじゃないから、そう言うの、いい。てかそれよりも早く帰る準備しなきゃならないんだって!」


「そうであったな。では、爾の武運を祈ると同時、最後にこれを進呈しよう」


 受け取ったのは、首に掛けられる程度の小さなロケットペンダントだった。開くと中には魔力の流れる宝石が埋め込まれており、もしかしなくても魔法具の一つだろう。


「これは?」


「吾がかつてこの世界の住民から献上賜った古代魔法具(アーティファクト)だ。場所を三箇所まで登録でき、所持者及びこれに連なる者らを指定の地まで瞬間的に移動させる」


「凄いな!?」


 一言で言えばワープ装置だ。

 三箇所までという制限付きだとしてもこれは革命的な移動手段なのは間違いない。馬車なんて知ったことかと威張れてしまうような文明開花の香りがする。


「何を言うか。爾も先の大戦で見ているだろう」


「んんん……………………………まさか!」


 黒竜に惨敗を喫し、命尽きるかと覚悟したあの日。そう言えばデアヒメルは瞬間移動で戦場へ降臨していた。

 あの時にも使われていたことに驚きだが、そうなってくると王は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことになる。明らかにそっちの方が凄い。


「吾にはもう無用の長物よ。であれば、有用に扱える者に託すが通りであろう」


「ありがたく頂戴するよ」



 それからグランは簡単に使い方を聞き、デアヒメル王のもとを去った。出立は翌日の早朝で、今日は荷物まとめをして早く眠りにつく予定だ。

 部屋へと戻る道中、一年間の修行の記憶を手繰る。


 グランの修行計画はこうなっていた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

1. 一週間の内5日はデアヒメル(過去の姿)と戦い、戦闘経験を積んでいく


2. 余った2日は休憩に回すが、思考力や知識を身に付けるために勉強する ( 大都市ユニベルグズで買った色んな参考書等々を持参済み )


3.毎日これでもかと体力を消耗するため、よく寝る


4. 修行終盤の二ヶ月くらいを使って大陸各所を巡る

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 特筆すべきはやはり大陸を歩き回った二ヶ月間だろう。

 予想はしていたが、やはり元・闇の世界にも大陸は複数あるようで、自分の知る世界がどれだけ狭かったかを思い知らされたのが大きい。


 他にも、拠点やファヴァールと交戦したエルカジャ遺跡などのような建造物を沢山見て回った。

 となるとお宝散策、もとい遺跡の調査もやったが、奇鬼忌琴(ききききん)を例とした重要アイテムの発見には至らなかった。


 魔獣ファヴァールと言えば、試練の前に巨獣と遭遇して全力で逃げたのを思い出す。

 全身を黒い剛毛で覆い、脚の数倍の大きさはある剛腕に加え、3階建ての家屋に匹敵する大きさ。後にデアヒメルに聞いたところ、奴の名をバムゥドと言うらしい。


( 流石にあいつと再開したときは焦ったが、王との修行の成果がでて倒せちゃったんだよなぁ。まあ倒せたことに焦ったんだけど )


 そんなこんなで、なんとか大陸の南半分を制覇したグランは再び例の如く王様との手合わせに時を費やした。

 ここまでの段階で十分成長できたはずだ。もうそろそろ腕の黒魔法具を外したいところだが、


「部屋に到着しちゃったか。ならもう準備して身体を水で流して寝るしかないよな」


 何かと理由を付けて少しでも経験値を回収しようと外せずにいた。いや、外さずにいたと言うべきか。


「ふわぁ……よく耐えきった俺。お疲れ、俺」


 こうして今日も、ぐっすり闇夜に眠るのであった。



================



 結論から言おう、寝坊した。


「くっそぉ〜! メイアの誕生日に遅れちまう! でも夏だし暑いからなあ、走ったら汗だくになっちゃうし………って馬鹿か俺は。誕生日に間に合わせることが最優先だろ!」


 グランとメイアの誕生日は近く、どちらも夏である。去年は別々に修行に勤しんでいて祝えなかった分、今年の記念日を逃すわけにはいかない。

 大慌てで荷物を背負い、拠点を飛び出した。


 ところが走り出してすぐ、首元に違和感を感じて立ち止まる。


「そうだよ、古代魔法具(アーティファクト)だ。確か王様が言うには、登録してあるのは拠点(ここ)とプロスペリテ城と………『歪み』だ!」


 寝坊を打開するとっておきを見つけてしまい、つい首に掛かるロケットペンダントと共に感動を握りしめる。

 王の前では平常心を保つふりをしていたが、早く転移を体験したくて夜も眠れず寝坊に至る。


「いくぜ、初めての転移!」


 ポチッと、魔石を押した。

 凄い演出、例えば豪華な光の放出とか全身を包む古代文字の羅列だとか、そんな煌びやかな瞬間を見逃すまいとして、


「おおおおおおおおいッ! もう景色変わってるし!」


 ワープ装置に憧憬を膨らませすぎていた。

 期待と現実の思わぬギャップに、落胆よりも五臓六腑が熱くなるような感覚が勝り、地団駄を踏んで心の空白を埋めようと試みる。埋まる訳がない。


「これ発明した奴ぁ凄いよ。凄いけど、地味だ………!!」


「僕達は君が突然転移してきて大驚失色の思いだけどね」


「__________ぁ?」


 誰もいないはず、だった。

 稚拙な声色をしている反面で難度の高い言葉の使い方、どこかで聞き覚えがあるような。


 見ると、そこには二人いた。声の主は子供、もう一人はひと目で魔女と分かる装いの女性だ。

 確か以前にも出会ったことがあったはずの人物。


「そうだ、ユニベルグズにいた元黒竜軍の」


「正解だ! 僕がイッポスで彼女がバーティ。思い出してくれて何よりだ」


「そんで、あんたらは一体なぜこんなところに」


「君に会いに来たんだよ。今から行こうとしてた所に、グラナードの方から飛んできた。バーティの『瞬間移動』が奪取されたかと一瞬思ったよね」


「あれは俺の能力なんかじゃない。それより俺に用? 悪いが俺は急いでるんだ」


「そう言うと思った。けど、僕らにはそれを無視してでも連れて行きたい場所があってね」


 とことん人の都合を無視する強情とも取れる言動に鼻息で返すグラン。だんまりを決め込んでいるのか喋らない魔女の方も気になるが、兎に角、この瞬間は急ぎを優先せねばなるまい。


「グラナード、君が妹さんの誕生日に間に合せたいんだろうってのは承知している。だから30分だ。閉口頓首な僕らを助けると思って30分だけ時間を頂戴したい」


「くっそ、丁度いい時間指定してきやがる…………移動しながらじゃ出来ない話なのか?」


「移動しながらのつもりだけど、君の想定とは齟齬があるだろうね。だって僕がしているのは、()()()()()()()()の話なんだから」


本来この話がプロローグになる予定だったので、いつもより短いなと思われたかも分かりません。

ですが、今のうちに予言しておきましょう。

第二章は駄作一章に比べてより複雑に、長期化します!


てことで、また次回からも宜しくお願いします。

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