第一章幕間 大樹の中の密談
そこは一言で「宇宙」としか表せない場所。
天の川も流れる幻想的景色が遥か無限の彼方まで続き、それを人が見たとしたら、呼吸すら忘れて見惚れてしまうだろう。それくらい究極を濃縮した世界と言える。
ところで、ではここには空虚な藍と白しか存在しないのかと言えば、それも違う。
幾つもの天の川が行き着く終着点の、それにしては小さいように錯覚させられる光の湖の上に、大樹は浮いていた。
「来ましたか」
軽く半径数十キロにも及ぶ幹を誇る大樹の内部にて、その声は投げかけられる。
回廊から中央に伸びる根の吊り橋を渡った先の、また大きな円卓に男は座っていた。円卓のある樹内の空間は頂上から差す一つの光柱以外に光はなく、目を凝らさなければ深い闇の底に落下するなんてこともあり得る。
「聞きましたよぉ、黒竜ラグラスロが滅びたと。よもや人間に討たれた、なんてことは有りませんよね」
男に向かって紳士的な口振る舞いの声が響く。この光源の少ない場所の中だと声の主の姿すら拝めない。
「__________。」
「嫌ですね、黙らないで下さいよ。そんなの、私の疑問を肯定しているようなものじゃないですか」
「実際その通りだからね」
「馬鹿な________いや、例え人間だろうとなかろうと、我々が滅びるなど許容されていない。主神以外に比類なき筈の我らぞ?」
「でも、人間は無限の可能性があるとか聞くしね〜」
「はんっ、何が無限ですか。慈悲深き私ですら憤慨を禁じ得ないですよ全く」
素顔は見えずとも何者かが苛立ちを覚えているらしきことはすぐ分かる。それでも男は気にすることなく、声のする方を向いて変わらず話を続ける。
「ラグラスロは『大侵攻』と称して別世界の統制を図って、その最中に破られたそうだよ。千年掛けて準備したってのに残念だよね、彼の計画って割と詰めが甘かったから。兎にも角にも、今さっき人間の無限の可能性が〜とか言ったけど、これでハッキリしたことがある」
「何がです?」
「ふふ。実は僕たち ーーー は何者かに比類ある存在だってことさ。ただ僕たちが自身を無敵だと曲解していただけ」
「認めるのは癪ですけれど、まあ…………行動不能状態の彼奴もいることですし、認めざるを得ない」
物事の分別は付けられる方なのだろう。苛立ちを面に出したのも一瞬のことで、話が進めば冷静さを欠くことはしない。紳士らしき口調に見合った者であることは確かだ。
「ところでお聞きしたいのですが…………黒竜ラグラスロが人間風情に弑されたとなると、その者を即刻潰して置くべきではなくて?」
「それも良案だけどね。でも、こちらから行かずとも、いずれかきっと向こうから君の所へやって来る」
「はて、そう仰る根拠とは」
男は円卓に両肘をついて手を組むと、相手に意図を読ませない含みのある微笑を漏らしつつ答えた。
「あれは十年程前だったか、君が件の逃げのびた魂を浄化させたんだったよね。今回ラグラスロと相対したのが、なんと面白いことに、これと深い関係があるんだよ」
微笑とこの言葉に内含された真意が何であるか、それを窺い知ることは無理な話である。
だが、黒竜ラグラスロの死と闇に隠された二者の密会を機に、まだ誰も知ることのない何かが動き始めようとしていた。
さて、先日第一章が終わったばかりなのに続き出すのかよって思われるかも知れませんね。ええ、第一章は終わってますし、続話投稿します。
そして、
こっからは第二章の前に、一章で活躍した仲間キャラ達の後日談(?)を挟みたいとも思います。閑話休題はもう少し後ですが、よろしくお願いします。




