第一章38 裏を目指して
石のような姿とは裏腹に、普通の鳥と同じように翼を広げて威嚇するそれの名をフェストグリフォンと言うらしい。
グリム・ベムを含めたアル・ツァーイ村の重役達と目的地に向けての情報共有をしている際、資料の中に危険生物としてそほ怪鳥がリスト入りしているのを確認済みだ。
これから向かおうとしていた古風都市アンスターは古代の建築物などの探査と発掘の拠点として建てられたのが始まりであり、だからこそ街の周囲には様々な石造人工物が落ちていたりする。
件の怪鳥は前述した通り一見すると石のようにも見え、その特徴を利用して景色に紛れることができ、近くを通る獲物や人々を襲う習性を持っていると言う。
そんなことより。
怪鳥フェストグリフォンを目前にして、常に真面目と名高いグリム・ベムはその評価に対して今、とんでもなく高揚しているようだった。
「おい、そこの愚鳥。人間の言葉はどうせ伝わらないんだろうがな、邪魔すんなや阿呆めが」
豹変した彼にメイアは動揺しながら、
「え、ええと……グリムさん! 大丈夫、すぐ倒すから!」
「いいや、ここは私……いや、俺が引き受ける。客を働かせる訳にはいかない。それに、既に俺は血湧き肉躍っているんでね」
「え、まさか、グリムさんって戦えちゃうの?!」
「ああ、メイアは知らないか。俺もエスティアも戦闘技能は一通り習得している。遅れはとらんさ」
ヴォン___!! と細いものが空を切り裂く音が鳴る。どこから取り出して来たのか、グリムの右手にはレイピアが握られていた。鋭く、常に手入れされているであろうそれは、日光を受けて更に白銀の輝きを増す。
「さてと……何度でも言うが、邪魔だ愚鳥。とっととアンスターへの道を開けてもらおうか?」
眼鏡を外し、シャツを袖をまくり、完全に戦闘態勢へと移行した彼は遂に、メイアの知るグリム・ベムから完全に別人へと成り果てた。
その変化ぶりを見ると大都市で出会ったハンニバルを思い出すが、彼はただ砕けた方が素であったというだけ。おそらくグリムの場合は逆。戦闘の場合でのみ、彼は乱雑な性格に早変わりする。
なぜそうなってしまうのかメイアには分からない。
しかし、驚くのも束の間、次の瞬間銀閃は振るわれた。
鋭く、精密で、高速で、正確に、巨鳥を貫く刺突の攻撃が振るわれる。
ギギギギ………と言うように刺突は石の翼で軽く防がれ、その全ての猛威が無効化されるが、グリムは何も驚いていない。そんなことは戦闘前から想定済みだから。
「さすが、アンスターが手を焼いているだけの厄介さだ」
過敏な動きでフェストグリフォンの攻撃を避けつつ、硬い殻に覆われていない後方を取ろうと反時計回りに動く。それも攻撃を仕掛けながら、少しずつ。
だが巨鳥の方も自分の弱点は知っている。重い翼を羽ばたかせるなどして突風を巻き起こしグリムの接近を拒んでは移動を繰り返し、中々後ろを取らせてはくれない。
「いくらグリムさんが戦えても、街全体が手を焼く相手をひとりで倒すなんて……」
馬車の窓から身を乗り出すようにして見守るメイアの不安の声が溢れる。視線の先で走ったりレイピアで突いたりしている彼には聞こえないだろうが、言霊という概念もある。
メイアが戦えば容易に勝てる。しかしそれを拒んでグリムが戦いに躍り出たのなら、信じる他ない。
だから、不安の言葉は今、撤回する。
そして。
ゴッ____!! と、石が割れるような、否。実際にひび割れた音が鳴った。巨大な2つの手が、フェストグリフォンの両翼の盾を払い除けたのだ。
「炸裂、『怒れる掌』。まさか、俺がしっぽ取りゲームを延々と続けるとでも思ったか、愚鳥めが」
そうは言うが、フェストグリフォンの硬い外殻は頭から胸にも及んでいる。翼の盾による防御を弾いたとて、結局は回り込まなければ決着の着きようがない。
それに付随して、魔法『怒れる掌』は翼を抑える為に使用中であるから、翼と同様に巨大な手で叩き割るなども不可能……の、筈なのだが。
「でも、だったら正面からの俺の攻撃なんて翼で防ぐ必要ないんだよなぁ? それより翼でさっさと反撃した方が効率的だ。なのにそれをせず守りに入ったってことは、だ」
グリムは、敵上半身に躊躇うことなくレイピアを突き刺す。
弾かれる心配など、彼にはない。
何故ならば、
「つまり、翼以外の部位は恐れるほどの硬さでは無いってことだよなぁ!」
古風都市アンスターを悩ませている。
それは単に翼以外の硬度について知られていないから、という訳ではない。背景に紛れゲリラ戦へと持ち込む習性と、そもそも翼の盾と暴風が攻撃自体を阻止することが原因でもある。
冒険者がパーティーを組んで挑んだなら、1匹を相手にするなら勝利できても群れ相手には勝てない。そんな諸々の要因が重なった厄介な怪鳥がフェストグリフォンである。
しかし、今。
「『魔力貫撃』!!」
巨鳥に突き刺さった細剣に魔力が宿り、更に奥深くまでその刀身を押し込む。その威力たるや普段のそれとは必然異なる。しかし攻撃用の魔法ともなれば、それはただ武器の威力を跳ね上げるためだけのものではなく。
「攻撃に用いられる魔力には、爆発するという効能を付与することが容易にできるのでな」
剣を突き刺せられた痛みよりも、身体の内から湧き上がるような違和感の方が勝ったか、フェストグリフォンは呆けた声を上げる。
そして最後に。
ギアアアアアアアアアァァァァ!!!! と身もすくむような断末魔と合わせ、巨大の身体は血肉をぶち撒け散っていった。
「ふぅ…………魔力爆発で血も幾らか蒸発、肉も粉々になったか。そのおかげで返り血もほぼ無いな」
「す、凄い。凄いよグリムさん!」
完全に戦闘が終わるのを確認して、メイアは馬車からおりてグリムのもとへ駆け寄る。改めて近くで見ると、崩れた服装の彼は見慣れないだけあって新鮮だ。
「………ええ、メイア女史。無事に道を開けることが出来ました故、また襲われる前に先へ進みましょうか」
「いや、口調の切り替えはやっ!!」
「確かに、私は武器を振るおうとすると気分も高揚して荒々しくなってしまいますから、よくエスティアにもツッコまれたりしますね」
「あ、そう言えばさっき、エスティアさんも戦えるって言ってましたよね。そっか〜、だからスタイル良かったんだなぁ」
グリムはメイアが独り言を始めたのを見計らって眼鏡を掛け直し服装を正すと、辺りに残ったフェストグリフォンの素材を回収する。
爆死させてしまったので残ったのは石の翼や尻尾、爪などだったが、街のギルドで報告すれば報酬が貰える。とは言っても、危険視されていたモンスターなだけあっておそらく報酬は他よりも多いだろう。
「さあ急ぎましょう。ほら、馬車乗ってください」
「って、馬車乗るのもはやっ!今さっきまで私の前に立ってたはずじゃん、待ってよ〜!」
「いえ、ここでメイア女史を置き去りにしたら私がここまで来た意味ないので」
________突然のハプニングを経て、ついにアンスターへ至る
南方都市アンスター。
古来の遺跡等、建築物を調査するために拠点として建てられたのが由来し、古風都市とも呼ばれる。故に観光目的で来るものは歴史好きの者が多く、大都市ユニベルグズのような賑わい振りではない。
また、この街を特徴付けるものとして、裏世界へと繋がる道がある。世界各国、各地方の代表達による会議の結果、その道は長らく厳重な扉によって閉ざされているため足を踏み入れることは現在不可能となっており、扉を見る為だけにやってくる者もいるのだという。
「いやぁ、石造りの街ってのもいいね〜」
「観光気分ですか……しかし、そのくらい余裕な気持ちでいた方が案外上手くいくものですしね。何より、それの方がメイア女史らしい」
二人は馬車を馬小屋に預け、大通りを歩いていた。
所々で小川が横切っていたり、2〜3階分の段差がある街であることが確認でき、洒落た街という印象が窺える。
「では、私はギルドの方にフェストグリフォン討伐の旨を報告して参りますから、裏まで繋がる道を閉ざす扉、通称『禁忌の門』でも見てきてはいかがでしょう。私もすぐ行きますので」
「おっけー! じゃ、『禁忌の門』?? で落ち合って、その後アンスターのお偉いさんとこ行こう!」
「了解です。では、また後で」
メイアは大きく手を振ってグリムと別れると、迷わず真っ直ぐ歩き出した。この街の地理には全く詳しくないが、ずっと先の方で巨大な壁が異彩を放っている。あれを例の扉と見て間違いないだろう。
てくてくと歩いていき、実際に『禁忌の門』に近づいていくとより一層、その大きさに圧倒されそうになる。
鉄塊で作られた巨大な扉。禁忌と呼ばれるだけあって厳重さはピカイチで、押しても引いても絶対に動くとは思えない。逆に、開けることを想定して設計されているとも思えない規模だ。
「でも、扉の周りの壁とかなら爆破できそうな気も……今までやる人居なかったのかな?」
中々常人が考えない様な恐ろしいことを考えるメイアだが、世界遺産と同様、歴史的なものを損なおうとする邪な輩はいない。
扉ほ近くに寄ってみると、案内用の看板があり、そこには『禁忌の門』についての説明がされていた。
「えーっと、この壁は横幅50メートル・奥行き150メートルに及び、城塞都市の様な形を取っています。中には『裏世界』なる場所へ至る穴と、それを覆い囲む宮殿のような見た目の建造物がありますと………なるほどなるほど?」
説明文の下には図解が載っており、長方形の壁の奥に小さな建物が建っているらしい。また、その下にも更に長々と説明が書いてあるので読んでみる。
「この扉はまず人の力では開けられず、何人で、どんな魔法を使用したところで動くことはありません。開けるには特別な方法が必要でありますが、機密情報であり公開できません。また、上空から侵入しようとする者には徹底した排除システムが設置しており、即刻排除対象となりますのでご注意を…………ってこわ!」
やはり正式な手続きのない侵入は絶対に不可能ということになる。もとより不正を犯すつもりはないが、これを読むとますます不正する勇気がなくなる。
ここには書いてないことだが、先程メイアが考えた爆破作戦についても対策が為されているに違いない。
『禁忌の門』がそう呼ばれるだけの厳重さが分かったところで、メイアは振り返った先にあるベンチに座ってグリムを待つことにした。
背後には手すりがあり、そのまま数メートル横へ行くと下へ降りる階段がある。高さは5メートルくらい。
ベンチからも手すりの下を見下ろすことができ、その先にはメイアが歩いてきた大通りが真っ直ぐ伸びている。
「やっぱ大都市ではないにしろ普通に広いんだなぁ。そりゃ、私たちが住んでるアル・ツァーイ村なんて辺境のちっぽけな村だから比べ物になるはずないけど」
16歳にして故郷を離れ広い世界を少し知ったことで、メイアの好奇心は日に日に増していっている。
「この大陸には国が無くって街や村なんかが独立して存在してるけど、他の大陸には国家が成立してたりもするって聞くし、んん〜! もっと色んなところ行ってみたい!」
「ふふ、その為には早くグランを見つけないとですね」
「あっ、グリムさん! うん、そうだね。だから早く、この扉を開けてもらわないと!」
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その後ふたりは役場へ赴き、「政治的な対談」で来たと言って役員に伝えると、アポイントメント等無しで普通に町長と話すことが許された。
町長室に通されて中に入ると、ひとり50代程の大柄な男性が腰掛けて待っていた。
「ふむ、貴殿らが『政治的対談』と題して赴いたという方々だな?」
「はい。私はアル・ツァーイ村の財政等々を担っております、グリム・ベムと申します。そしてこちらが…… 」
「私はメイア・スマクラフティーです」
「なるほど、グリム氏とメイア氏だな。私はアンスター町長のカイ・ロダンだ」
軽く一通りの自己紹介を済ませる。
カイと名乗った町長のやや強面な見た目には身も固まるが、街の最有権者として話はしっかり聞くタイプだろう。
「あれ、ロダン……?? 」
「私の名がどうかしたかね」
「え、あ、いえいえ! 何でもありません!」
ロダンという家名に聞き覚えがあったような気がしたが、しかし今はそんなことを考えている場合でないと首を横に振る。
「……では、時間も惜しいと思いますので単刀直入に要件を言わせていただきます。私たちはこの街の奥にある扉、つまり『禁忌の門』と呼ばれるあれを開けていただきたく存じております」
グリムの言葉を聞いて、明らかに町長カイの顔が険しくなった。それも当然といえば当然だが、しかし分かっていても手に汗握ってしまう。
「何故、それを望む? まずは訳を聞こう」
「結論から言いますと、裏世界、というよりかはその更に先にある異世界へと足を踏み入れるためです。そこで彼女、メイアの兄を見つけ出すのが我々の目的であります」
「異世界だと? 何を言っておるのだ。ふざけたことを言うのも大概にしてほしいのだが」
「逆に聞きますが、異世界が馬鹿馬鹿しいなどとどうして思われるのですか? 存在が証明されていないからでしょうか。おとぎ話の世界の話だからでしょうか。でも、存在しない証明はされていない」
この議論にメイアが入る余地は無かった。完全にグリムとカイのどちらが先に言葉に詰まるか、或いは押し負けるかの勝負になっている。
今のメイアにできるのはグリムに任せることだけ。出来ないことは頼るのも処世術のひとつだ。
「では仮に異世界があったとして、だ。メイア氏の兄を見つけ出すとは一体何のことだ? 一体君らはどんな業を背負っているのだ」
「失踪……そう言えばお分かりいただけますか?」
「なっ?! まさか、世の未解決事件のことを指していっているのか! 過去の失踪者が皆、異世界とやらに連れ去られていたとでも言うのか!」
「その、おっしゃる通りです」
信じられない、という表情をしながらもグリムの話を飲み込んでいく。どうやらグリム優勢か。
「なるほど貴殿ら状況の外形は掴めてきた。だが、長年閉ざして禁忌とまで呼ばれるようになった扉を、個人の為に開けるのは難しい。残念だが_____ 」
「お願いします! 力を示せと言うなら示します。何と言われようとも諦めません。確かに個人的な問題ですが、失踪被害者にして初の帰還者ともなれば結果的に問題解決の糸口にもなるはずですよね!」
「メイア女史…… 」
頭を深く下げて、決死のお願いをするメイア。
しかし、情で場が動くほど優しいものでは無いことは既に分かりきっている。
「そう言われてもだな……私も多くの文献などを読んで裏世界に関する過去の情報を蓄えているのだが、あそこには人が踏み入れることの出来ない領域があると聞く。入ると身体・精神の両方に深刻な被害を与え生存を限りなく不可にするらしい。貴殿らに、それへの対処策があると言うのか?」
ハッと、メイアは顔を上げてグリムと目を合わせる。
両者共に深く頷くと、再びグリムが口を開く。
「勿論、私達もそこらのことは調べてありますし、だからこそ解決策は既に用意してあります」
「おい、それは、本当のことを言っているのか?」
「ここで嘘を並べたてて死に急ぐ趣味はありませんよ」
言うと、メイアに頷きで指示して荷物の中からひとつのランタンを取り出させる。ご存じ、『オリロート』である。
「これが、不可侵領域を払い除ける唯一の手段です。簡単に説明すれば、絶対に消えない炎。これがあれば裏世界に足を踏み入れることの問題点は解消される」
「ただの灯り、では無いらしいことは分かったが、うむぅ。わざわざここまで来て頼み込むだけの覚悟と準備はあるということか」
より一層眉間に皺を寄せて考え込む。仮にカイが了承したとしても、他の人々の反対が激しければやむを得ず撤回という可能性も大いにある。
これは言わば第一関門。
町長の賛成という有力な武器を得なければ、先へ進むことはまずできない。
「……残念だが、今ここで気軽に賛否を述べられる問題ではないな。貴殿らも時間は惜しいだろうが、ここはひとつ、明日まで待っては貰えぬかな」
「勿論それで構いません。是非とも、前向きなご検討をよろしくお願いします」
決断を引き伸ばしにされた、というのは一見曖昧な結果とも考えられるが、今回は吉報だとグリムは考える。
( つまり、我々の要望はすぐに切り捨てることをせずに検討するだけの価値があると、そう思ってくださっていることを示している。だから、これは好調だ )
メイアを横目で見ると、「今すぐに許可欲しい!」と言いたそうにもじもじして立っている。グリムが明日まで待つと宣言したからか耐えて黙っているらしい。
「それでだな。ひとつ、提案があるのだが」
「なんでしょうか」
「今から待つだけと言うのもなんだろうから、ひとつ頼まれてはくれないだろうか。異世界とやらに行くにも何が起こるか分かるまいし、力試しということで引き受けて貰えると助かるのだが」
逆に提案されることにはなったが、カイの頼みが力試しになると聞いて、それだけでテンションが上がってしまう人間が丁度いまここにいた。
「是非とも、このメイア・スマクラフティーにお任せください! お悩み解決させて差し上げましょうとも!」
「これはこれは元気な……では引き受けて貰えると考えてよろしいのだな?」
「彼女がやる気のようですし、そもそも拒む理由もない」
何しろ、パワー系の依頼とあらばメイアの得意分野だ。
ここで点数稼ぎができたなら状況も更に良い方へ向かうかもしれない。そんな期待を込めてグリムは深く頷く。
「私が貴殿らに頼みたいことと言うのは、この街の冒険者や観光客を度々襲うことでアンスター危険指定生物に登録されているフェストグリフォンの討伐なのだが」
「え?」
ついメイアの口から素っ頓狂な声が漏れた。予想外の反応にカイの疑念の視線が向けられる。
しかしこうなることを予期していたかのようにグリムが即座に対応する。
「そう言うことなら、これでどうでしょう」
言って荷物の中から取り出されたのは一枚の茶色い紙だった。何やら色々文字が書いてあるのと、中央に大きく押印されているのが特徴だ。
「それは……」
「フェストグリフォンの討伐証明書です。ここに来る道中で遭遇したので私が討伐し、先程これを発行していただきました」
「いま、私が討伐したと言ったか? あの巨鳥を、ひとりで? 」
「ええ。これは余談ですが、メイア女史ならひとりで群れ相手もできるはずですよ」
「えぇ!?」
「なんだと?!」
たった3人しかいない町長室に響めきが走る。
「って、そこのメイア氏まで驚いているようだが、嘘を並べたてているのではないだろうな?!」
「あ、いえいえ! 私が驚いたのは突然私の話が出たからであって、やれと言われれば倒して来ますよ」
「それは……何というか、やはり信じられん」
話が始まって数分経つが、時間が経つごとにカイの形相が険しくなっているのが目に見えてわかる。早めに対談を終わらせたほうが得策とみてグリムは交渉する。
「では、こうすれば良いですかね。カイ町長は予定通り他の議員達と話し合いをしていただく。その間我々、というかこのメイア女史が街に被害をもたらす可能性のあるフェストグリフォンを掃討。その成果なども考慮して彼女が裏世界へ渡るか否かを最終判断を下していただくと」
「彼女が異世界へって、グリム氏は行かぬと申すか!」
「はい。メイア女史が帰還するまでの間はアンスターの防衛等、役割を与えてくだされば出来る範囲でなんでもする所存でございます」
フェストグリフォンを掃討する程度ならメイアでも簡単にできる。それに加えてグリムにとって役職を与えられそれに従事することは苦ではない。
彼の提案はとことん自分らに有利な条件のものであった。
( やっぱグリムさんって相手にしない方がいいね…… )
「私はそれでもよいが、それなら一つこちらからも条件としてアンスターの議員から一人、戦える者を派遣させる。メイア氏単独で一掃可能らしいから要は監視役だな。その実力を側から測らせてもらうぞ」
「そう言うことならご自由にどうぞ。メイア女史もそれで構いませんよね?」
当然!といつも通り元気に返事できる雰囲気ではない為、メイアは代わりに2、3回深く頷いてみせる。
「ともかく、今日のところはここで終いだ。本日はわざわざ遠くからご苦労」
「突然の訪問に対応いただきありがとうございました」
「ありがとうございます!」
最悪の結果として追い返される又は捕らえられると言った結果だけは回避できた。
そして、全ては翌日に決まる。
「よし、フェストグリフォン狩りで点数稼ぎじゃー!」
緊張感もまるでなく、メイアは意気揚々と歩いていく。
お読みいただきありがとうございます!
さて、ここまで読んで下さった方であれば既にお気付きかもしれませんが、第一章は非常に受動的です。
試練を与えられ、ヒントを与えられ、戦力を鍛えてもらい、敵からこっちに来てくれる。なんとも至れり尽くせりな展開でありますね。
どれもこれも気分で書き進めてるが故の作者の失態でもありますが、兎にも角にも、これからも宜しくお願いします!