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勇者などいない世界にて  作者: 一二三
第一章 二つの世界
21/92

第一章20 たまに来る試練とかいうやつ


 闇の世界、一部では「魔界」とも称されるこの世界だが、そこに新たな失踪者ミステルーシャ・アプスが加わった。通例では一度の失踪が起こった後約70年は事件は発生しないとされていることから、今回がイレギュラーであることは明らかだ。

 しかし、起こってしまった以上それを受け入れることしかできない。



『あ、いたいた。グランさん、ラグラスロさんが呼んできてくれって。2人に話があるとかなんとか……』


 そうルーシャに呼ばれグランは黒龍ラグラスロのところまでやってきた。



「で、話ってのはなんなんだ?」


 開口一番面倒くさそうに質問するが、そう聞こえるだけで本当はしっかり聞く意思を持っている。そこをラグラスロも理解しているからか気にせず話始める。


「グラナード、汝は最初に試練を受けてもらったと思うが、やはりこの世界を動き回るにはそれだけの力の証明が必要だ」


「つまりルーシャにも試練を受けてもらうって事か?」


「その通り」


「いやいや。あの蛇と戦わせるって言うのか? それはなんでも無理ってものがあるだろ!」


「それは承知している。故に、此度は汝も参加してもらう。つまり、2人で新たな試練を受けてもらうと言うことだ」


「な、なるほど」


 これで再びヘキサ・アナンタと戦えと言われたら全力で反対していたところだが、新たな試練と言うからには別の内容なのだろう。

 少し声を荒げてしまったが、グランとしても試練を受けることには賛成の部分もあった。


「そりゃあ、この世界で生き残る為には力が必要だ。でもルーシャひとりでやるには厳しい。だから、2人で進めるってんなら俺はやるぜ」


「ちょっと、私が主軸の話題の筈なのに私がまだ理解できないんですけど〜!?」



 と、言うことで。

 困った顔のルーシャに話の概要を話し、この世界から帰るために行動を起こすには「自分は生きていける」ことを示す必要があることを伝えた。

 よって、


「ミステルーシャにとっては第一、グラナードにとっては第二の試練となる。その今回の内容を伝えよう」



内容は下記二項。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


・ある特定の生物「ファヴァール」を(しい)する。


・ある特定の道具「奇鬼忌琴(ききききん)」を入手する。


*今回、特に注意事項は無い。

 ただし、挑戦者が複数であることを有効に利用せよ


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「うん、分かってた。どうせ知らない単語が並ぶんだろうなって知ってたけど、まさか今回は狩りだけじゃなくて物品収集もあるとは思ってなかった〜!」


「そ、そうですね。どちらもこの世界特有のものでしょう」


「でも、今回は前と違ってややこしい内容じゃ無いんだな」



 そう、前回は「殺して生け捕りにする」などと言う、意味のわからない内容だった。それと比べれば今回はシンプルで頭を回転させるような事態は免れそうだ。


「まあ、単純な内容の分だけファヴァールとかいう奴も強いんだろうけどな」


「うむ、その通りだ。ファヴァールはかつて各地を荒らして廻ることから何かの使徒であるともされた魔獣。また、奇鬼忌琴は名に「忌」の字が付く通り禁忌とされた楽器だ。いずれも同じ地点にある故無駄に東奔西走せずに済むだろうが、難易度は低くはあるまい」


「……その魔獣さんと楽器が同じ場所にある。それって何か意味があったりするのでしょうか?」


「さあな。だが、各地を巡っていた奴がそこに定住するようになったことを考えれば関係があると思われる」


 流石のラグラスロも憶測でしか述べることの出来ない内容だったらしい。しかし、その考えにはグランとルーシャも納得がいった。



「ま、それも一応頭の片隅にでも置いておくかね。また隠しヒントになってるかも知れねぇし」


「隠しヒント?」


「そ。試練内容には無いけど、ラグラスロの話に達成のヒントが隠れてたりするんだよ。俺がこの前受けたやつがまさにそれでね」


「へぇ」


「ヒントがあったところで骨の折れる課題であることに何ら変わりはないぜ。ま、そうでなきゃ意味はないけど」


「そうですね。私、戦闘は得意じゃ無いですけど、その分補助なら姉妹で一番の実力ですから、任せてくださいね」



 何も、戦闘とはパワーだけが全てでは無い。

 確かにアタッカーがいなければ敵を倒すことなどできないが、その攻撃役を守るタンクやサポーターも時には必要だ。ミステルーシャ・アプスがアタッカーで無くサポーターであるならば、この試練で試される力は()()()()()()()()()()()()()()()()に掛かっている。


「では今回も向かうべき地を教えよう。ここから西北西、ずっと進んでいった先にある遺跡だ。確か名を……エルカジャと言ったか」


「いや遺跡の名前を言われてもな……」


「確か、」


「ん?」


「カジャって言葉、どこかの言語で『殲滅』だとか『繁栄』って意味があったような気がします。えと、アプスでは教養の為にほぼ未使用の言語だったりも少し(かじ)ったりしてるんです」


「お、おお。でもよ、ここって別に元の世界と言語共通とは限らないだろ? なんなら同じ発音なだけの別々の単語って可能性の方が高いし」


「そうですけど、現代では使われない言語。つまり古代語ってことですよね。なら、かつてこの世界が闇に覆われる前の時代に同じく使われていたとも考えられます」


 言語の話よりも、アプス家ってこんなに頭いいのか、という考えしか頭に浮かばなくなってくる。

 この闇の世界の遺跡、その他建築物はまだ世界が豊かだった時期に建てられたもの。つまり失踪事件と関わりのない太古の時代ならば世界間での繋がりがあっても不思議ではない。


「って、な訳あるかぁ! 世界を跨いでひとつの言語が伝わって来たってのか? いやいやいやいやいやいやいや、無い」


「そりゃそうでしょう、全部適当ですもの」


「え、、、はぁぁぁぁあ?!」




=======================




 そんなこんなで、2人はエルカジャ遺跡へ向けて拠点を発つ。

 前回とは異なり、今回は森ではなく真っ直ぐ伸びる開けた街道だ。ところどころ林立していたり背の高い草が生えていたりするが視界を塞ぐ程のものではない。

 近くに廃墟らしきものもある為、かつては町だか村だかがあったらしきことが分かるが、今では獣達の住処となっているようだ。



「それにしても、どれくらい歩けばいいんですかね?」


「世界の広さが分からないからな。西北西にあるとか言われても距離が予想できないし。野宿するにしろこんな獣だらけのところで安心も出来ない」


「け、獣の餌に……」


「それは避けたいところだな。早いうちに獣達の住処を抜けて安全なところを見つけないと」


「そうですね」



 先程から思っていたことだが、やはりまだグランとルーシャの関係性が脆い。まだ出会ったばかりなので仕方ない事ではあるが、これから共に手を取り合っていくには今から関係性を築く必要があるとグランは考える。


「そうだルー」

「あのグランさ」


 と、そんなことを考えているのはルーシャも同じだったらしく、声が重なった。


「ああいや、ルーシャからでいいぞ」


「じゃあ、はい。グランさんは以前試練を受けたとの事ですけど、どんな内容だったんですか? 確か、蛇がどうのこうの言ってましたよね」


「そそ。ヘキサ・アナンタっつう大蛇なんだけど、そいつこの世界に1匹しかいない特殊な存在らしいんだ。で、その蛇を殺して生け捕りにしなきゃいけないって言う意味の分からない内容だった訳だが」


「生け捕りにしてから命を奪うっていうのでは駄目なんですか?」


「さあな。でも多分それじゃ駄目だ。もしそうならわざわざ生け捕りにする必要が無いし」


「じゃあどうやって_____ 」


 この試練の突破にはあるひとつの法則を利用しなくてはならなかった。


「この世界、この闇に覆われた世界に於いて生物は悪に目覚め、そして永久機関のように創られる」


「………なるほど! 一旦倒してしまっても復活するから生け捕りができる。そういうことですね!」


「な、なんだ、と……」



 答えに辿り着くまで10秒と掛からなかった、そのことに驚愕を抑えること叶わずつい歩みを止めてしまう。


「? どうしました?」


「いやすまない。ちょっとぼーっとしちまった」


 あまりにも簡単にこの世界の法則を受け入れ、そしてあまりにも簡単に答えを導く。考えれば普通に分かりそうなことではあるものの、このスピードとなるとグランには出来ない。


「うーん。でもそうとなると、人間も復活しちゃうんですかね。倒しても倒しても、何度でも立ちはだかるみたいな」


「うわ、それは全く考えてなかったな。もしかして歴戦の失踪者全員が敵の軍勢に組み込まれてるとか、無いよな」


「そんな事になったら本当に不味いですけどね……」


「死んでも死なせないって言葉がお似合いか。道理も倫理も知ったこっちゃない、阿鼻叫喚がすぎるぜ」


「じゃ、じゃあ。次はグランさんの番ですよ? さっき私に何を言おうとしたんです?」



 少し場が重く暗い感じになってきたところでルーシャが軌道修正に入る。

 ただでさえ暗い世界なのに雰囲気も暗くなってはそれこそ最悪の状態だ。その意図を汲み取りグランも新たな話題へと切り替える。



「最初自己紹介の時、ルーシャは自分がアプス家の末っ子だって言ってたけど、他の家族はみんな戦闘に特化してるのか?」


「そう、そうなんですよ! 長女は魔法に優れていて、次女はどちらかと言えば格闘タイプ。どうして姉妹同士でここまで才能に差が出てくるんでしょうかね〜」


「どうしてそう思うんだ?」


「どうしてって……ほら、私戦えないですし」


「けどその分補助が得意だろ。その姉妹全員で見ればさ、ちょうどいい感じに得意な分野がバラけててバランスもいいじゃんか。何も、強いことだけが強さじゃない」


「強いことだけが強さじゃない……なんか矛盾してるけど、分かります」


「ルーシャには戦闘を円滑に、そして仲間を有利にするための術がある。それも才能だ」


「へへ、ありがとうございます」



 元から美しい容姿をしているルーシャだが、感謝と共に微笑むその姿はより一層、妖艶なものに見えた。グランより歳はひとつ上だが、その屈託の無いような笑顔を見ているとなんだか妹のメイアを思い出す。


( 仮にだが、俺とルーシャに加えてメイアも同じ戦闘メンバーに加わればバランスの取れた良い布陣になるんだよな。でもメイアはこの世界にはいないし、元の世界に帰れたとしてとルーシャはアプスの方に戻っちゃうだろうから不可能な話ではあるんだけど)


 あとどれくらいの月日を費やせば進展があるのか。いつになったら愛しのメイアに会えるのか。


 しかし、忘れがちだが目的はそれだけでは無い。


 この闇の世界。突然現れた何者かによってあっという間に征服された豊かな世界。その本来の姿を取り戻すことも、またグランの目指すゴールのひとつだ。


「また何か考え事ですか?」


「ちょっと妹のことを思い出してね」


「妹さんがいるんですか! 多分、すごい悲しんでるはずですよね」


「普段は元気ハツラツだが、まだ16歳だしな。この8年、ずっと俺とメイアだけで生活してきた分互いに依存してばかりだったし」


 両親のゼーレとオルビスを亡くしてはや8年。

 残された子供、グラナードとメイアは互いに支え合うことで生きている。その支えが途端無くなることがどれほどの喪失感を与えることかなどは言うまでもない。


「妹さん、メイアって名前なんですね。じゃあその、メイアさんの為にも気合入れていきましょうよ!」


「そうだな。ここで敗北なんて、あり得ない」


「そうだ、帰ったらメイアさんに会わせてくださいね。仲良くなれるかもしれませんし」


「いいのか?」


「もちろんです。なんなら魔法を教えて尊敬されちゃうのかな〜……とか考えてみたり!」


「仲良くなってくれるとメイアも喜ぶな。でも、メイアも俺と同じアタッカータイプだぞ? 一応補助魔法も使うけど」


「え」



 振り返ってみよう。

 もといた世界には、世界まるごと震撼させるような恐ろしい存在はいない。平和が故に勇者などいないし、いらないという状態だ。

 だからこそ、普通は魔法も一種の護身術程度にしか扱われない。つまり、割としっかり訓練している人というのは魔法研究に深く携わるような人などに限られるのだ。



「妹さん、その若さで既にアタッカーとして鍛錬を積んでいるんですか?! しょ、将来は研究者を志望していたりとかしてたり?」


「いや、ただ日課でちょっとな。特に研究したりとか専門の道に進みたいなんてことは聞いたことがない」


「ほへぇ〜」



 グランは復讐の為に修行していることを伏せておくことにした。そんなことを言って暗い雰囲気にするのも強くなる目的が復讐だと言うのも何かと気が引けるからだ。



_____なんだか、心に重い何かと使命を抱え込んでるような人なんだな。



 ミステルーシャ・アプスはサポート要員として、観察する能力には比較的長けている。だから出会ってすぐのこの短期間でグランが苦労人であることも見抜いていた。

 当然、そんな様子が隠れるくらいの強い意志はずっと溢れ出ている。


 しかしだからこそ、彼の強い信念の裏から悲壮感が滲み出てきてしまっていた。


( でもそれが、その苦悩が必ずグランさんを強くする肥料になる。この人は、失踪を体験した刺激で近いうち強くなるはず……!! )


 ルーシャは案外、グラナード・スマクラフティーという人間の良き理解者となれるのかもしれない。



「ささ! 仲良くなるためにはメイアさんの情報が欲しいですから。大好きな妹さんのことどしどし語っちゃってくださいね」




======================




 常に夜のような世界では昼夜の感覚が狂ってくる。それでも今まで狂わずに生活し続けられたのは黒龍ラグラスロの完全完璧な体内時計と、グランやルーシャのしっかりした生活リズムによるところが大きい。


「もう寝る時間だな」


「ふわ……そうですね。でも、まだここ魔獣達の多い街道の途中ですよ? やっぱ野宿、ですかね」


「まあ野宿は免れないだろうな。だが、そこにある家跡を使わせて貰おう。そこなら火を使っても多少は光の拡散を抑えられるだろ」


「お、ナイスアイデアです」



 視線の先には2階建て(?) の家と思われる石造りの建物だ。2階部分はすでに壁ごとボロボロになっており、なんとか1階の形を保てていると言った感じだ。

 一応四方は壁に囲まれ天井もある。窓やドアがボロボロなので獣が入り込んでくることもあり得るがそれを除けば便利そうだ。


「あそこを巣にしてる奴がいるかどうか分からんが、とにかく交代制で片方寝て片方見張りをするしかないかな」


「じゃあ、襲われそうになったら躊躇わず寝てる人を起こすルールでいきましょう。まあ私は躊躇しませんけど、グランさんはひとりで退治しようと試みそうですから」


「心の中丸見えかよ……」




 既に中に魔物の類があることを考慮して慎重に近づき中を覗いてみたが、どうやらそこは今空っぽらしい。何かが住処にしているらしき跡も見当たらない。

 残っているのはかつて住んでいたであろう人々の生活跡。そのほとんどは既にボロボロになって無駄に部屋を埋め尽くしているだけだが、案外本棚や椅子などの家具がまだかろうじて形を留めていた。


 2人は中に入り、散らばった残骸などを軽く壁際に寄せて睡眠スペースを確保する。



「一応範囲内に生物が入り込んだら分かるように結界を張っておきますね」


 言いながら、流れ作業のようにスラスラと半球状の結界が家跡を覆い囲む。窓から外を覗いてみると、紫透明のそれは徐々に無色透明へとなり目視できなくなる。


「へぇ〜、見た目だとそこに結界があるなんて分からなくなるんだな。そもそも結界とか見るのが初めてだ。すげぇな」


「ふふ、そうですか?」


 ルーシャは自慢げに語る。


「他にもいくつか効果の違うものもあるんですけどね、それはまたいつか披露してあげます」


「そりゃ楽しみだ。今はやることも無いし、飯食ってさっさと寝るだけかな」


「でも、ご飯なんて持ってきてませんよ? というか、今までどうやって食料を……」


「どうやってって、そりゃそこら辺の生き物捕まえて焼いて食う。それだけだろ」


「えぇ!? そんな簡単に、、」


「でも実際、誰かがそうしてるから普段あの世界で飯を食えてたわけだろ。それを完全縮小させただけって考えりゃそう驚くことじゃない」


「なる、ほど」


「そんじゃ、軽く狩ってきますかね。俺がここで培った料理スキルで上手い飯作ってやる」


 そう言って外へ出て行った、かと思えば。



「あの〜、早くないですか?」


 たった5分で3匹、凶暴そうな動物を引きずりながら帰ってきた。


「まあ、伊達に1ヶ月こいつら狩ってねえからな。手慣れたもんだぜ」


 よく肉食獣は臭いがきつくて食用に向かないだのなんだのと言われることがあるが、少なくともグランはここでの生活でそれを感じたことはない。肉は美味いのだ。


「さってと、次は料理フェイズだ!」



 〜本日の夜ごはん〜

 ・狼型モンスターの希少部位肉炒め

 ・狼型モンスターのスモーク

 ・昼行性(翼あり四足歩行)モンスターのハンバーグ



「うっわぁ、どこを見ても肉、肉、肉ですね」


「拠点周囲なら美味い果実もあって少しはマシだけど、基本ここでの生活は肉だぞ」


 ルーシャは明らかに嫌そうな顔をする。


「慣れなきゃだめですか……がんばりますぅ」



 どこに行っても危険なサバイバル生活に於いて、何をするのが適切か。まずは極力獣のそばに近寄らないのが基本だが、必ずしも危機は迫る。

 大前提として、誰かの監視のもとで行う娯楽としてのサバイバルならともかく、大真面目に野生の中を生き抜くにはそれなりの知識や技術、体力などは必要不可欠となる。


 グラナード・スマクラフティーは技術も体力も、人生の半分以上を自力で乗り越えてきたが故に持っていた。それはミステルーシャ・アプスも同様で、やはり世界三大派閥に属する者として多少の経験は積んでいる。


 だが、両者共通で足りないものもある。

 サバイバル、そして異世界についての情報が全くもってゼロ。何をすべきかなんて全く分からない。

 グランは故郷アル・ツァーイ村周辺で食料集めで狩りをしたことがあるとは言え、獲物は草食動物だけで危険なことは経験したこともない。


 しかし、それを補えてしまうものがある。

 力だ。


 そもそも、危険だからこそ知識が必要になってくる。危険を回避する為の知恵が場を有利にする。

 でも、どうせ何かに巻き込まれるのなら、力で圧倒してしまえばいい。そうして少しずつ知恵を吸収できればそれで良い。そうして強引に慣れていくのが、強き者にのみ許されたサバイバルテクニックなのだ。


 だから、

 吸収した知識があったからこそ、持てる疑問もある。


 晩御飯を食べ終わり、後はもう寝るだけという時。


「ルーシャ。そういやさっき、ハンバーグにした奴いたろ」


「ええ。それがどうしました?」


「今ってさ、本来時間的には夜じゃんか。なのに、あいつは昼行性なんだよ。普通にそこらを走ってたから気にせず捕まえてたけど、あいつが今頃行動してるってことは普通ないはずなんだ」


「その、昼行性という情報は確かなんですか?」


「ああ。この1ヶ月で何度も見たことがある奴だったから思い出した。四足歩行で翼も生えてる、けど飛びはしない。面白い奴だなと思って観察してた時期があったんだ」


 淡々と、弱くなってきた火の薄明かりに照らされながらグランは語る。


「昼間は群れで、自分を大きく見せて相手をビビらせるためだけに翼を広げて歩き回る。そうやって次々と獲物を獲得してしていく。そして、夜は巣に引きこもって昼間ゲットした分の飯を食べて過ごす。そうやってあいつは暮らしているんだ」


「つまり、グランさんがさっき捕まえてきたことは何かイレギュラーな状態ということ……?? 」


「そうなるな。翼を広げているわけでも無かったし、一体何が_____ 」



 2人が話していた丁度そのとき、狙ったかのように事は起きた。

 部屋の中央に突然小さな光の粒が出現して発光したのだ。



「おいルーシャ、これは?! 」


「どうやら結界内に何かが侵入したようです。この光の数は内部に侵入した生物の個体数を意味しますから、つまり」


 瞬間、一気に光の粒が3つに増える。


「1匹じゃない、3び…き、でもない?! 」


 そして更に4、5、6と数は増えていき、そこで増加はストップした。


「ルーシャ、戦闘準備だ。焦らなくていいぞ、そこらの獣ならそう苦戦はしないはずだからな」


「はい!」


 軽く準備(立ち上がって伸脚するだけの作業)を済ませ、いざ、睡眠前のひと運動へ。

 先制攻撃に備えつつ急ぎ家跡を出ると、侵入者は唸りをあげて必死にグラン達を威嚇する。



「噂をすれば何とやらだな。こいつら、今話題の翼野郎!」


「でも何か小さく感じますね。体格的な大きさではなくて、何だか萎縮してるみたいな、感じ?」


 それはグランも感じていた。殺気というよりかは敵意。獲物を捕らえようとする意思ではなく、行く先を邪魔するなら攻撃するぞ、という普段とは別の感覚が肌をなぞる。


「何がともあれ、とりあえず考えるのは退治してからだな」


 どんな敵が相手だろうと、やることはいつものように。ただ魔法を使い武器を作り、倒す。


「『オリオクタ』!」


「支援します、『アボイダブル』!」


 以前の『オリヘプタ』と比べて、ひとつひとつの威力は変わらないが数は増えている。よって、合計で見ればパワーも増している!


「ひとつに纏めて、ぶっ放す!」


 8つの青い光が合わさり放たれたレーザーが3,4匹をまとめて薙ぐ。しかし、今回はそれだけでは終わらせない。

 横へ払った後も光は役目を終えず、レーザー、もとい巨大な光の剣のようなものを上から地面に叩きつけトドメを刺す。


「おぉすっげ! たったひとつ光球を増やすだけでここまで扱いに変化が生じるとは思ってなかったぞ!」


「ええこれ初めてやる技なんですか?! 見たことも聞いたこともない魔法ですけどそれ!」


「なんたって結構特殊なものらしいからな」


 

 これで残りは弱ったのが2匹と元気なのが2匹。

 威嚇はしてくるのに翼を広げて自分を大きく見せようとしてこないのがやはり気になる。

 グランの強さにビビりながらも見栄を張って威嚇してくるだけかもしれない。でも、それだけなら初めからしていたことだ。


( なら、別の何かに怯えてるってか? じゃあ一体何にだよ )


 どうしても思惑は残る。


「グランさん、左!」


「おっと」


 躱すかと思いきや、飛びかかってくる獣の首を鷲掴みにするとキャッチボールでもするかのように軽く投げ飛ばす。


「いやいやいや、強引すぎじゃないですか!」


「だって動きは単純だしな……」


「ほらまた来ました、今度は前!」


 同様に腕を前に伸ばし掴もうとする、が。




 ゴゴザガガガガガガッッ_____!!



 突然のことだった。

 グランが手を掛けるまでもなく敵はどこかへ飛んで行く。岩のような大きな物が飛びかかる魔獣を横から地を抉りながら連れ去っていったのだ。


 反応が遅れる。


「______は、な、なんだ」


「ひっ! あれは何か不味いんじゃ」



 顔を左に向けたその先、約50メートル離れたところにそれはいた。

 全身は真っ黒な剛毛に覆われ、野宿に使用していた家跡を凌ぐ大きさ、四足を地につけているが前脚は後と比べて倍以上の大きさはあるだろうか。右手に先程の獣を握りしめ、更にその目をギラリと光らせグラン達を見ている。

 とどのつまり、一言で言って「化け物」だ。



「そーゆーことね。あいつら、このヤベェのからはるばる逃げて来てたってことかよ」


「ど、どうしますか?」


「とりあえず、撃退させるぞ!」



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