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勇者などいない世界にて  作者: 一二三
第一章 二つの世界
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第一章14 カタフ家の青年


 突然目の前に現れた謎の男はフィースト・カタフと名乗った。この世界にいる以上は彼も悪を孕んだ側の人間であるに違いない。

 故に、グランは警戒を解かず身構えながら会話を続ける。


「確かに僕も200年くらい前に来てもう悪役側にあるけどさ、こうやって会話ができる内は普通に話そうよ?」


 グランは正直戸惑っている。自ら悪役を語っているくせしてグランに対する悪意は少なくとも今は感じられない。


「俺はグラナード・スマクラフティーだ。ひとつ気になるんだが、お前、もしかしてカタフ家の出身なのか?」


「グラナードね、ヨロシク。 で、君の質問についてだけど、君の言う通り僕はカタフ家出身さ。その様子だと、今もあの家系は有名家系のひとつにあるみたいだね」


「ああ、辺境の村に住んでる俺でも知ってるくらいだぜ」



 カタフ家とは三代派閥(或いは三大財閥)とされる偉大な家系のひとつであり、他にはラミティ家、アプス家がある。どれも世界でトップを目指せるような強い人間を続々と輩出しているとんでもない人々の集まりである。

 それ故に暗い部分も多いと噂されるが、世界の人々はその家名にしか目を向けず、浮き彫りになることはほぼ無い。


 だが、グランが最も驚いたのは世界の強者に会えたことではなく、そんなカタフ家の人間が失踪しているという事実。


「なあお前、本当にカタフの人間なんだよな? 俺、以前世界の強者達について色々調べたことがあるんだが、少なくとも俺の調べた範囲では三代派閥の中から失踪者が出てるなんて情報は無かったぞ」


「そりゃそうだろうね。ほら、考えてみなよ。そんな有名な家系から失踪者が出て大切な戦力を失いましたなんて噂が世に広まればどうなる?」


「…………そうか、その隙を狙って他の奴らが上位の座を奪いにくるってか」


「そう。ま〜他にも、有名なだけ闇もあるってことでさ、あまり簡単に情報を開示できるようなものじゃないのさ。そりゃあ君が、いや、世界中が僕の失踪を知らないわけだ」


 やはり、上から目線で立っているあの男は由緒正しい家族の一員ということで間違いないらしい。

 だからこそ、この男が敵になったら困るところではある。


「おい」


 何かされる前に、とグランが動く。


「フィースト・カタフ、お前はなぜ攻撃してこない」


「______おや。これはこれは突然のだねぇ!」


 フィーストは不気味な笑みを浮かべ、


「ほら、さっきも言ったじゃないか。僕たち会話ができるんだから話そうよって。新しい失踪者が来たらしいからね、やっぱどんな奴なのかってのは気になるだろう?」


「違うよなぁ」


「は?」


「お前は会話ができるんだからはなそうよ、なんて言ってないんだよ。正しくは『会話ができる内は普通に話そうよ』だったよな? 会話ができる内ってなんだよ。その言葉には、戦闘になる可能性が含まれていると、違うか?」


 フィーストは黙る。

 彼の放つ異質な雰囲気は、デアヒメルの圧倒的な圧とはまた違う意味でグランを緊張させる。強気に言ってみたはいいものの身体は硬直してしまいそうだ。


「ふーむ。悪を孕んだ存在は攻撃してくるものだって思ってる? いや、それは偏見というものだよグラナード。いや、確かに殺意の類は抱くだろうね、それは認めよう。あと、僕の言葉に戦闘も考慮されていたことも認めよう。けど、必ずしも獣みたいにすぐ襲うとは限らないのさ。ただ悪感情が流れ出てくると言うだけで、いつどのようにどこで実行に移すかは自分で決める、決められるんだよ! そう、すこし異質な点を除けば僕だって普通の人間。君を今襲おうなんてつもりは無いね!」


 確かにデアヒメルも、獣には考えるだけの力が無く本能で動いているからすぐに襲う的なことを言っていた。

 そして、


( 相手が悪であることには変わりない、とも言っていた!)


 グランは確信した。


「ああちなみに、誤解されない内に言っておくけど、今日僕がここに来た理由は話をしたいってこと意外にもうひとつ。()()()()()()()()()()()()()()()()でもあるんだね。そうだね、例えば君が力を付けたりなんだりして、自信をつけた丁度その時とか?」


「お前、今嘘ついたよな?」


 グランはきっぱり断定する。


「隙あらば俺を襲おうとでも思っていたんじゃないのか? そう、お前は今、自信をつけた時に狩るだとか言った。例えばそれって、試練を達成した時なんかじゃないのか?」


「ふふ。その線は考えられる。けど、それだけでは十分な証拠とは言え____」


「いや、結論から言って、お前は俺に害意を向けた。それだけでもう十分なんだよ」


「……は?」


「俺はな、他者からの悪意、害意、殺意とか、そういう類のものを感じ取れるんだ。さっきのお前の話の途中、特に襲おうなんて思ってないとか言ったところだな。俺を騙そうとする意図をそこに感じたぞ?」


 そこまで聞くとフィーストは渋々諦めたように、


「なら、仕方ない。君の言う通りだ。僕は、試練の後達成感に少し浸っていたりするんじゃないかと睨んでいてね。なら、その驕りを正してやろうと思ってきたさ」


「だが残念。……俺はもう、俺が自惚れていたなんてことには気付いているんだよ。これからは気持ちを一新してまた強くなる特訓を始めようって思ってた頃だぜ」


 言って、グランはフィーストを睨むように見る。彼は目論みが次から次へと無駄になっていくことに苛立ちを覚えたようで、その表情が笑みが消えていた。

 そして、ゾワッと殺意が溢れ出す。


「自惚れた君を潰したかったところだが、まあいい。来たばかりの弱者を捻ったところで楽しくないしね」


「その割には今にも攻撃してきそうなんだが?」


「そうさ、君は僕の考えがすぐに読めるから話がサクサクすすんで楽だよ。今日は殺しはしないでおくが、一方的にぶっ飛ばしておかないと気が済まないんだよねっ!!」


 直後、フィーストの立っていた古い柱が崩れた。それは彼の重さに耐えきれなかったからではなく、恐ろしい速さでそこから飛びたったから。

 気付いた時にはもう、彼はグランの目の前にいた。


( な、なんなんだこの速さはッ!)


 フィーストは片手で巧みに槍を扱い、先端の針状部分でグランを斬りつけようとするが、なんとかギリでそれを回避。

 だが、その後1秒も経たずして。


 青白い光の線がグランの目の前を通過した。

 そして、それは尋常じゃない爆風でグランを大きく吹き飛ばす。


「ぐ、おおおおおおおおお!!」


「なんだなんだ、これっぽっちで終わりかい? まだ攻撃すら命中してないのに」


「?!」


 いつの間に、高速で飛ぶグランに追いついて先回りしていたらしい。あの男はどんな魔法を使っているのか、宙に浮きながら身体を一回転させグランに踵落としを叩き込む。


「が、はッ……」


 後方に吹き飛ぶその勢いをほぼ完全に殺すような破壊力だった。凄まじいパワーで地面に叩きつけられ呼吸をわすれてしまう。

 だが、それだけで敵の猛威は完結してはいない。

 既にフィーストは地面に寝そべるグランの上空に待機し、そのまま落下の勢いで踏み潰そうと降りてくる。


「うぉぉ、まずいまずいまずい!」


 力を振り絞り横に転がることでなんとか攻撃を避けたものの、安心はできない。

 後方に弾かれたことでもう真後ろには拠点の外壁があり、逃げ場はもうない。


「くっそ、『オリヘプタ』!!」


 勢いで立ち上がり魔法を放つと、7つの蒼いオーブがフィーストを取り囲む。だが、そんな中でも槍を持つ男は余裕そうに立つだけで何もしない。


「なら、そこで果てろってんだ!」


 蒼い光が敵に張り付くように容赦ない爆発を叩き込む。

相手がいくら強かろうと、距離ゼロでの爆破を受けて被害を免れるなんてことは無い。そう確信していた。


 ドヒュウ!と、爆風が吹き荒れた。


 だが、それは『オリヘプタ』によるものではなく、フィースト・カタフという男の持つ槍が土煙を払った音であった。

 そして、彼の姿はグランの魔法が炸裂する前となんら変化なく、文字通りのノーダメージ。


「うそ、だろ。それだけは嘘であって欲しかったぞおい」


「見たままが真実だよ。だが、面白い魔法だ」


「いいやまだだ、『オリヘプタ』!」


 フィーストへ向かって一直線に蒼い光線が向かっていき、しかし軽々とそれは弾かれる。


「『オリベルグ』!」


 大地から無数の極太棘が隆起して貫こうとするも、完璧な予測で回避され、ついでに隆起した大地は全て粉砕されていく。


「うざったい!『ノイモント』からの『ヤクト』だ」


 手中に三日月の刃を創造し、真っ向から斬りかかる。身体をグルリと回転されることで遠心力を付与し、加速度を伴った一撃が槍と交差する。

 そもそも力量が違っている。

 相手はグランとほぼ同じか、体格がやや小さいようにも見えるが、もはやそんなことは関係なかった。


「多彩な魔法の使い手ってことでいいのかな? でもやっぱり弱弱だよ。要・成長だよね……ってことで」


 横にスライドするようにフィーストはグランの刃をいなすと、バランスが崩れ前のめりになるグランの腹に回し蹴りを叩き込む。


「ごッ、、は」


 空気が無理矢理に吐き出され、そして体が宙に浮く。

 だが、その身体が地面に落ちることは無かった。グランはそれが胸ぐらを掴まれているからだと気付く。


「まあ、今までの奴らの中で比べれば上の方のようだが、それでもまだまだ弱者にすぎんな。成長を待つとは言っても、成長したところでどこまで強くなれることか」


「_____。」


「どうした? もう何も喋る気力も体力もねぇってかい?」


 グランはその問いに答えることをせず、ただ微笑んだ。その行動の真意を伺えずにフィーストは首を傾げる。


「いやね、俺って今、手ぶらなんだわ」


「は? だからなんだよ」


「残念だけど、もう説明しても遅いぜ」


 ザンッ!と、上空から三日月の刃が落ちてきた。回し蹴りを入れられた直後、グランは咄嗟に武器を手放していたのだ。

 一瞬の機転でようやくダメージを与えられた。

 背面に受けた攻撃に思わず掴んだ胸ぐらも離してしまい、グランは解放され地面に尻餅をつく。


「くそがッ! まったく、弱者ほどよく足掻きやがる……!! いや、それよりも、なぜ僕は奴が武器を投げるのを見落としたんだ?? 」


 どうやら傷は浅かったらしいが、確かに出血している。それだけで、もうグランの胸中は達成感で溢れていた。


「イキっている失踪者を襲うつもりが、自分が余裕ぶっていたせいで逆に反撃を受けるなんて恥ずかしいよなぁ?」


「おい、調子に乗んなよグラナード。いや、だが、その挑発に乗るほど単細胞じゃあねぇさ、僕は。まあいい、今日は帰るよ」


「は、はは。もう目的は達成したのか? よかったな、そんなに早く終わる内容で」


「そうだね、君が弱すぎて僕は苦労せず帰れそうだ。グラナード、また会おうじゃないか。次会った時がお前の最期になるかもしれないが………だからせいぜい、次会うときまでに死なないことだね!」


 邪悪な笑いを響かせ、すぐにフィーストは拠点の外壁の影に溶けて消えていく。どうせならどこから奴がやって来たのか知りたかったところだが、今から追いかけるほどの気力はもう無かった。


 だが、この出会いはとても分かりやすい目標をグランに与えてくれたように感じる。

 デアヒメル・ターヴァ王は歴代最強でまだまだ遠い存在だ。だから、まずはフィースト・カタフを超える。より近いところから着手していくことこそ成長のカギだとグランは考えていた。


「デアヒメル王の考えた『デアヒメル』ね。そういや、まだあれの効力は謎のままだよな」


 ゆっくり立ち上がり、魔法球を展開する。


「ここでやることじゃないかもだが、まあ思い立ったときに実践してみるのも大事だよな」


 数十分前に見たばかりの光景、失踪者歴代最強の強さを誇る王の動作を思い出しつつ魔力を込めていく。それとほぼ同時に球面に沿って気体のように力を纏わせる。ここまではグランも簡単にできるのだが、本題はここからだ。

 あの銀河を思わせる霧状魔力の奔流。あれをどう溢れされるのかが問題となってくるが。


 溢れされるといっても、ただ力を満タン以上に入れればいいと言う訳ではなく、例えるなら、水を注いだ器を傾けたりすることでわざと(こぼ)すイメージだ。

 注ぎ手が器に直接干渉することで流出させる必要がある。


 そんなこんなでこの魔法は想像以上に難しい。


「……そのはずなんだけどなぁ」


 つい心の声が外に漏れる。今、グランの瞳には煙のようなものが映っている。手の上に浮く球体から煙が出て足下まで沈んでいく光景が視界に入る。


「なんか知らんができちまったじゃねーかおい??」


 そう呟いた瞬間、グランの五感が殺意を捉えた。ただし、直接的なものではない。殺意を込められた何かがグラン目掛けて飛んできているような感覚。


「上か!」


 超高速で青白い光が落下している。

 即座に、グランはそれがフィースト・カタフの攻撃だと見抜いた。彼が去るときの言葉が脳裏を過ぎる。


『次会うときまでに死なないことだね!』


「つまり、こんな攻撃で死ぬようじゃ困ると、そう言いたい訳か!」


 あの攻撃をまともに喰らえば今のダメージを負ったグランでは耐えられないかも知れない。普通に考えれば、これは避けることが必須なイベント。

 なのに、グランは回避する考えは湧いてこなかった。

 そして、またしても彼の無意識が呼び覚まされていた。


「魔法球第二式、『デアヒメル』」


 当然、本家のような銀河は生まれない。

 必然、溢れる魔力量も少なく大した規模にはならない。

 でも、効果ははっきり現れた。


「そうかこれが…………これが、この魔法の効力なのか」


 空から降って来たレーザービームは、グランを覆う魔力の雲に触れると綺麗に弾け飛んでいた。四方八方に光が弾けると、そのエネルギー体は何故か消えずに宙に浮いたままになる。

 霧散し漂う力の塊はとても澄んでいて、そして濃密だ。


( これがカタフ家の凄みって訳か……尋常じゃない )


 しかし、これで魔法の効果は終わりではないらしく。

 眺めていた青い光の粒達がグランを覆う雲に吸い込まれていく。

 魔法を弾いたかと思えば今は吸い込んだりとこの第二式魔法球の特性が分かりにくいのだが、グランは身をもってその威力を感じていた。


 溶け込んだ魔力は自分のものに。

 弾いた力は『デアヒメル』の使用者に浸透していく。それこそが、この魔法の真の威力だったという訳である。


「とは言っても、今の俺だとほんの飯ひと口分くらいしか吸収できないっぽいな。せいぜい今んとこの使い道は魔法防御ってところかな」


 フィーストはまさか自分の魔力が吸収されたなんて思ってもいないだろう。だからこそこの技は隠し奥義となり得、フィースト戦に限らずとも今後大活躍することになるはすだ。


 グランは自分がどれだけ恵まれているかを改めて感じた。こんな闇の中、絶望的な世界で、こんなにも成長の為のヒントが得られるなんてことは奇跡にも近い。

 だから、驕らない程度にこの僥倖(ぎょうこう)に感謝することにした。



今回もお読みいただきありがとうございます!


執筆するに当たって今悩んでいるのが、文と文の繋がりが自然になるようにするにはどうすればいいのか、という事です。

おそらく、お読みになっているときに変な文構成になっているなと感じたこともあると思いますが、なかなかこれが自分には難しく……


とまあ、何かと至らぬ部分もありますが、今後ともよろしくおねがいします!

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