第一章 1.『晴れない帰路』
世界観のイメージは異世界スチームパンクです。
作者の不手際により誤字脱字などがありましたらすみませんm(__)m
投稿頻度が低いかもしれません。
横目に流す程度でもいいので楽しんで頂ければ幸いです。
付け根のレバーを締め終え、小さなバラック内でガチャリと器具を置く音が響く。
それを合図に男は自分の右腕を見やる。そして一瞬目を見開いた後、重たい腕を持ち上げ金属の指を動かし、感嘆の息を吐いた。
「…すげえ、本当に動かせるんだな…」
この男の右腕はつい先程まで肘から下が無かった。だが今は金属と革材で作られた義手がはめられ、指の関節一本一本まで精密に動かせるようになっていた。
「うん、調子良さそうですね。今後動きが鈍くなったり故障したりしたらまた言って下さい。修理には別料金かかりますけど」
ノイギは淡々と後片付けをしながら商品の具合を確認する。依頼主の男は満足気に右手の義手を開いたり閉じたりしていた。
壊れかけの壁に無理矢理埋め込まれた様な小窓からはジグレッド通りが覗ける。この辺りはいつも曇っているのだが、今にも雨が降り出しそうな景色なのにこの灰色の水蒸気の塊は中々に天の恵みを落としてはくれない。勿論こんな不作の土地で農業を営む者などおらず、あたりは畑一つない荒野と人工的に整備された道路が街から街へと、そして最後にそれらが集まる中心都市へと繋がっている。
「そうさせてもらうよ。…まぁ結構高いしなるべく壊したくねぇけどな…。そういや、こりゃどういう仕組みなんだ?なんでこんなスイスイ動くんだよ、面白いなぁ」
買ったばかりの玩具に興奮する子供の様に目を輝かせながら男は自らの右腕を色々な角度から眺めている。
「うーん、なんといいますか…魔術の類いなんですが。簡単に言えば、脳内にある伝達信号に直接導線を繋いでる…って感じです。本当はもっと細かいことしてますが…」
「……おぉ?ほぉん。んじゃああんたも一種の魔術遣いってことか。初めて会ったぜ」
ノイギの中途半端な説明にやはりよく分からないというような疑問符を浮かべながらも満足してくれたようで、再び在る腕を緩く振り回していた。
「ま、何はともあれ世話になったな。料金は前払いした分に製作費と接合費も含まれてたんだっけか」
「はい、なので今回は要らないですよ。お疲れ様です」
「そうかい、あんがとさん」
依頼主は自宅のドアを開けてノイギを外へ促す。バラックの腐りかけた木製ドアがギィと鈍い音を立てた。
工具バッグを腰にかけ、器材を詰め込んだリュックサックを背負うと、一つ会釈し男の家を後にする。相変わらず太陽は覗いていない。
依頼は完了させたので、取り敢えず一段落つこうとノイギは家路を辿る。いつものことだ。
これがノイギの仕事の流れだった。