五七五好きな男が、一癖あるガイドをつとめます
北九州に、ほとんど、なじみのない人を相手に、ちょっとウンチクを傾けたりします。ヒトクセありますので、お気に召さない点もあるかもしれません。
逆に、そこが面白いと言ってくださる方もおられたりして。……そう、願いつつ。
M:杉山先生ですね?
S:はい、そうです。丸山先生ですね? 初めてお目にかかります。今日は、どうぞよろしく、お願いします。
M:こちらこそ、どうぞよろしく。…………早速ですが、少し早目のランチにでもしましょうか?
S:いえ、新幹線の中で、駅弁を頂いてきたばかりなので、ランチはパスさせて下さい。
M:それじゃあ、街歩きに、かかりましょうか。いいですか?
S:はい、お願いします。………今日は、ホテルは、泊まるだけで、予約していますので、それまでは、ゆっくり、御案内して頂けたらいいな、と思っています。
M:南口から、出ましょう。こちらへ、どうぞ。………こちらへは、初めてですか?
S:「いのちのたび博物館」には、一度、勉強のために、子ども連れで来たことがあります。その時、スペースワールドでも遊びましたけれどね。もう、つぶれたそうですねえ。
M:はーい。北九州は、人口が減っていますからねえ。何をやっても、そんなにうまくは、行かないんですよ。製鉄所が逃げてからは、もう、下り坂の一方通行ばかりですよ。
今回は、先生が、文学散歩を中心に御希望されているので、そういった意味では、御案内したい所は、一杯一杯ありますけどねえ。
ほーら、あんな所に、石の柱があるでしょう?
見にくいけれども、「森鷗外 京町住居 跡地」と書いてあるんですよ。もちろん、当時とは、まちの環境は、全然変わってしまいましたが、場所的には、あの辺りになるらしいんですよ。
もう一つの鷗外の旧居には、また、あとで行く予定ですけどね。
この道を行ってみましょうか。京町という通りなんですよ。
ほーら、見えてきたでしょう、五七五の川柳が、ここは盛んなんですよ。それで、町おこしに、川柳を使おうとしているんです。ああやって、おもしろい川柳を、大きく掲げてあると、スマホで撮って、他の人にも見せたくなるでしょう? 必ずしも自分の作品でなくても、他の人が作ったものでも、ふと笑いたくなるような、おもしろいのがありますからね。
ここが「文学サロン」という所です。
お茶屋さんがスポンサーになって、場所を借りて、「文学散歩」のパンフレットをくれたりします。
ちょっと、寄ってみましょうか?
S:こんな、普通の商店街に、「文学サロン」とか、めずらしいですよねえ。
M:私もそう思います。………、ここは川柳が盛んといいましたが、五七五で17音になるでしょう?
それで、「セブンティーン」という名のグループというか、結社というか、そんなものがあって、その句会などが、時々、ここであるようですよ。
S:先生も、川柳がお好きなのでしょう?
M:はーい、ものすごく好きです。ただ、結社などには、入っていません。しばられるのは、イヤなので、
まったくのフリーです。ひとの作ったものを読むのでは、「毎日新聞」の「万能川柳」というのが、特にお気に入りです。選者が、「お尻だって、洗ってほしい」というCMを作った仲畑貴志ですからね。
視野が広くって、おや、こんな見方もあるの? というような、句が、よく、選ばれて、並んでいます。
実は、私も、昔、なんどか投稿したことはあるんですが、採用されたことは一度もありません。
「これは、オレと選者の周波数が、ズレているからだな」と思って、それからは、投稿は、やめました。
ほら、杉田久女も、橋本多佳子も小倉に住んでいたことがあるんですよ。この資料、もらって行きましょう。
これが常盤橋。伊能忠敬が九州の地図を作る時に、基準になった所です。橋のデザインも、よそにはないような、ユニークな感じでしょ?
この川が紫川。名前が、シャレてますよねえ。伝説の、お姫様の名前から、名付けられたようですよ。
ほら、川向こうの、変な色、変な形のビル。あれ、リバーウォークというビルですが、あの中に、「地図の資料館」という、地図の博物館みたいな施設も入っているんですよ。
地図を作る会社で、「ゼンリン」というの、お聞きになったことがあるでしょう?
あの会社、小倉に本社があったんですよ。それで、どんどん大きくなって行ったんです。
まあ、それを記念してというか、あのビルに、地図の博物館みたいなものを作ったんですよ。
私は、地図が好きだから、年に、3回くらいは行っていますよ。孫を連れて行ったり、一人で行ったり。
ETCカードを見せたら、入場料がタダになるんです。カーナビで儲けたから、お得意さんサービスで、そんなこともしてくれるんです。
これが「井筒屋」。小倉で、ただ一つのデパートです。空中廊下で、つながっているでしょう?
こちらが、新館。
この、あいだの道で、なんか「相棒」という映画のロケをしたんですよ、爆破シーンか、なんか。
水谷豊も来とったそうですよ。
私は、そういう方面には、あまり関心がないので、詳しくは知りませんけれどね。
この小さい橋が、「鷗外橋」と言うんです。冬場になると、イルミネーションで、この橋も、まわりのあちこちも、すごくキラキラして、キレイですよ。
どうして、この橋を鷗外橋というか、渡った所に、鷗外の記念碑があるからです。
これです、これ。
形がユニークでしょう。さっき、常盤橋があったでしょう。昔、鷗外が小倉にいたころ、そのほとりに、六角形の広告塔があったので、それに基づいて、デザインされたそうです。
小倉時代の作品の中から、抜き書きした言葉を、刻んでありますよね。「足かけ四年いた」とか、ね。
シャッター、押しましょうか。
川向こうの、井筒屋の手前に、「水の環境館」というのが、見えますよね。あすこは、紫川の水を横からのぞくことができる仕掛けになっています。紫川に住んでいる魚の種類は、多くはありませんが、こんな魚がいるのかと、驚くような迫力があります。
ここが、「ひまわり大橋」。北九州市の花がヒマワリなので、それにちなんで、名づけられたらしいんですが。足下に、大きなヒマワリの絵も描いてあるでしょう。
そして、そこのホテル。「クラウンパレス小倉」というんですが、ここが、毎年、夏、「万能川柳」の大きな句会というか、大会というか、やる所です。毎年、150人前後の参加者がいます。
私も、連続6年、参加しています。ペンネームのことを、川柳の世界では、柳名と言いますが、その柳名を胸につけて、句会や懇親会をします。こんな顔の人が、こんな柳名をつけているのか、とか、思って、面白いですよ。
お題が5つあって、それに、2句ずつ応募します。お題ごとに、別の選者がいて、ひとつのお題ごとに、50句ずつ選ばれます。それが入選。その上も、特選とかあります。
それから、2週間くらいしたら、毎日新聞の一面全体を使って、入選句250句を載せます。
私は、特選とか、なったことはありません。不思議と、入選は、毎年、2句ずつのペースで、ずっと続いています。
去年の夏の最新作は、「揺れる」というお題に対して作った
◯広瀬すず なぜに 老いの身 ときめかす
です。
ちょうど、朝ドラで、広瀬すずが、ヒロインを演じている時だったので、数人の男性の、ウォーという声が聞こえましたよ。
ここが「旦過市場」という所です。「小倉の台所」とも言われる、ちょっと有名な所なんですがね。買い物はともかくとして、雰囲気を味わうため、通ってみましょうかね。
ごちゃごちゃしていますけど、活力は感じられるでしょ?
この「大学堂」という所は、地元の大学生の直営店です。ドンブリに御飯だけついで、トッピングは、あちこちの店で、自分で買ったものを乗せて行くという、面白い食べ方もあります。
ここは、「昭和館」という映画館。ユニークな作品ばかり、上映しています。高倉健の映画の二本立てを、入れ替えなしで、1100円で見せます。例えば、レディースデイなどは、900円です。
企画力がすごくって、例えば、「ニューヨーク公共図書館」という映画など、あの文化都市、福岡市でも、1日しか上映できなかったのに、ここでは、なんと1週間も上映できたんですよ。福岡から、わざわざ、見に来た人もいたそうですよ。
大きな建物の陰で、目立ちませんが、これが「無法松の碑」。
「無法松の一生」という映画があったし、村田英雄や坂本冬美の歌もありましたしね。
私は、三船敏郎が無法松になった映画が一番好きかなあ。そう言えば、こどもの三船美香がステージ挨拶に、さっきの昭和館に来たこともあるんですよ。違う映画の時でしたがね。
それで思い出した。中村美律子、ご存知ですか? そうです、そうです。大阪出身。「無法松の恋」というCDを出して、そのキャンペーンで、昭和館に来たこともあります。その時、私、CDを買って、中村美律子に握手してもらいました。「この人、体温低いな」と思いましたよ。
松五郎は、実在の人物ではないそうですが、ここ、古船場に住んでいたという設定に従って、ここに記念碑を立てたんですよ。
勇壮に、あばれ太鼓をたたく、元気のかたまりのような男です。小倉中学の生徒と小倉師範学校の生徒が、集団で殴り合いをするところにも、飛び込んで行ける、勇ましい男です。
そんな無法松が、きれいな吉岡夫人という未亡人に恋心をいだくんですが、プラトニックに、あこがれるだけ。キスはおろか、手も握れない。ほんとに好きな人の前では、男は、ウブになるんですよね。私にも、そんな思い出がありますよ。おっと、脱線。
最後、無法松は、雪の中で死んで行くんです。
それで、また思い出しました。
去年の「万能川柳」の大会の時、私が作った五七五があります。お題は、「憧れ」でした。
◯無法松 憧れ以上は 進めない
いい句でしょう。小倉の人間なら、わかってもらえると思ってたんだけど、入選しませんでした。このお題の選者は、毎日新聞の人ということなので、多分、小倉出身じゃないのでしょう。ひょっとしたら、「無法松の一生」を見たこともないのかも。そう思っていますよ。
この大きな道の名前は、「小文字通り」。
ほーら、正面の山の上に、小倉の「小」の字が見えるでしょう? お盆の13日に、お迎え火として、あすこでタイマツの火を炊くんですよ。それが見える大通りだから、小文字通り。
京都の大文字のマネですよ。向こうは、送り火で、こっちは、迎え火。
実は、ここも、「相棒」のロケを、大掛かりにやった所なんですよ。
あのビルが、「毎日新聞西部本社」のある所です。また、「万能川柳」がらみのことを言うと、ここは、編集権もかなり持っているようで、東京、大阪で、3ページ目に載せている「万能川柳」を、ここでは、1ページ目に載せているんですよ。大会の来賓で出席する仲畑貴志は、毎回、その話をして、うれしいと、言っています。
「女の気持ち」というコラムでも、ほとんど、地元の人の投稿ばかりを採用しています。
道をはさんで、ここにあるのが、「堺町公園」
杉田久女の句碑があります。
これです。
◯花衣 ぬぐや 纏わるひも いろいろ
代表作みたいに、有名な句ですよね。
和服をぬぐ場面ですが、いくつものヒモが、まとわりついて、ちょっとイライラしているのかな?
そんなに慌てなくてもいいのにね、そんな感じ、しませんか?
私は、この句には、女の色気というものが、色濃く出ているような気がしますけどねえ。
昔、ここらに、堺町小学校というのもあったんですよ。大阪の堺と、何か、深いつながりでもあったのでしょうか。ドーナッツ現象で、中心部が空洞化して、小学校は、消えました。もう、ずっと前のことです。
ここを曲がって、ほら、「森鷗外住宅跡」です。小ちゃな家ですけどね、ここで、1年半くらい暮らしたんですよ。第12師団の軍医部長として。中央から、左遷されたという、鬱屈した気持ちもあったようですが、それでも、「舞姫」の構想を暖めたりしていたらしいですよ。
ああいう偉い人は、転んでも、ただでは起きないんですよ。
どうでしたか?
よければ、御感想を…………。




