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輪廻の島  作者: よしお
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出発

居室を出たのは昼過ぎだった。それまで装備を整えていたが、結局いままで貯めてきた金の全てと任務に必ず使う剣、つまるところ普段の暗殺で使う程度のものになった。

仕事はもちろん夕方から夜にかけての予定だが、恐らく10年足らず住んだ自室と城にもさほど愛着はなかったため早めに出た。城を出てまずは市場を目指して歩いた。今一度この街をじっくりと見る。地面に土など一切見えずみっしりと石畳が敷き詰められている。視界の両側には背の高い建物が迫り、細い道をさらに狭く感じさせる。さすがはかつて世界を真に統一し、支配した帝国の首都である。人の活気や繁栄はもちろんのことだが、上下水道もきちんと管理され、景観は案外綺麗なものだ。この規模の都市でここまで衛生管理も行き届くのは、帝国の統治能力の一端を否が応でも感じる。

エリアスは存外この街が嫌いではなかった。根っからの人嫌いで人混みなど死んでも立ち入らない性分だが他人にあまり関心を抱かない、というより人が多すぎて抱く暇もないこの都市の雰囲気が嫌いではなかった。

非番の夜になると街をうろつき飯屋やら屋台で一人適当に飲み食いしていた。部屋やら部隊にこそあまり愛着はなかったが、この街と美味い料理には多少の惜しみを感じるのだった。世界中から出稼ぎや同盟国の関係者、商人の集まるこの都市はもちろん食文化の豊かさは世界有数と言えた。

実は早めの出発もこの最後になるであろう食事に時間をかけてじっくり吟味した上でのものにしたいからだった。今回のような大仕事の前に呑気な話かもしれないが、気負いすぎると逆に失敗すると彼は考えていた。あまりにも時間をかけて用意周到にすると、考えが凝り固まりとっさの対応に弱くなる。それにことさら暗殺となると対象を目の前にすると気負えば気負った分だけ、つまり殺意が強ければ強いほど案外のこと殺意はなくなってしまう。なぜ殺すのか、己の行為は正しいのか、など様々な思いが駆け巡るのだ。そのような迷いを生じさせぬため彼は普段通り過ごす。食事を摂るがごとく、睡眠を取るがごとく、当たり前の言わば日常茶飯事の延長として人を殺すのだ。

市場に着いた。市場は普通朝もっとも賑わうがこの帝都には関係ないらしい。もう昼どきを過ぎているが夜に何も食えないことを考えるとちょうど良い時間かもしれない。しかも食い終われば彼が市場へ来たもう一つの理由のものが姿を現わすはずである。

だが市場の雑踏の中に明らかに自分を尾けている足音をエリアスは感じていた。ここに来るまでは一切の気配を感じなかっただけに逆に不気味なものである。このざわめきの中でも明確に自分の方へ舵を切ってきていることが分かる意志を持った足音である。恐らくは自分の今夜の任務を見張る軍部かどこかの戦闘員か何かだろう。それならば自分に危害を及ぼすことはないと思われるが、自分をこのような面倒事に巻き込んだ連中の顔でも見てやろうと彼は考えた。深追いする気はなかった。尾行してくるような末端の人間もこの陰謀のすべてを知りはしないだろうから、とにかくどこに所属している人間なのか、その推察のとっかかりになれば良いかくらいのものである。

まずは自然に歩き、足音からだいたいの位置と速度を勘案した。もう顔を目視できるほど相手が後ろまで迫った時、露店の商品を見るふりをして首を横に向け、そこからさらに目だけを横に向け、顔を相手に向けず見ていることを悟られぬよう追手を見る。するとそこには思いもよらぬ人物がいたのだった。

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