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小さな花  作者: 雨世界
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30 旅の終わり 世界のどこかにある、小さなひだまり。

 旅の終わり

 

 世界のどこかにある、小さなひだまり。


 不思議な充実感があった。なにかを手に入れたという確信があった。だから木の葉は安心していた。安心して、自分の意識を手放すことに成功した。

 自分の感情が拡散していくことがわかる。木の葉の魂はきっと夜の中に溶け出しているのだ。うん。……それでいい。……それでいいんだ。

 木の葉の意識はだんだんと曖昧になり、……やがて、完全に途切れた。

 木の葉の夢が、終わるのだ。

(そう。そうなんだ。これは僕の見ている夢の中の世界。僕はずっと、ずっと長い不思議な夢を見ていたんだ)


 あらゆるものが木の葉の中から消えていく。すべては夢。すべては幻。僕はここにいる。……僕は、ここにはいない。なんだろう? この感じ……。不思議な感じだ。今なら世界のありとあらゆるすべてのことを許せるような気がする。僕の嫌いなもの。僕が遠ざけてきたもの。僕の嫌いな人。僕を嫌っている人。僕の知っている、小さな世界。その外側にある僕の知らない大きな世界。そこで暮らす、名前も顔も知らないすべての人々。あらゆる命。それに連なる現象。それらを全部、受け止められるような気がする。

 今ならどんなことでも、できるような気がする。

 ……でも、それはきっとそんな気がするだけなのだ。……夢が覚めたら、僕はまたすべてを忘れてしまうのだろう。なにもかもを忘れて、いつもの不甲斐ない自分に戻ってしまうのだろう。僕が自分の思う通りの僕で居られるのは夢の中だけ。現実ではそうはいかない。現実の世界には、僕の邪魔をする他人がいるから。

 ……だけど、まあ、それでもいいや。こうしてずっと寝ているよりはずっといい。夢から覚めるのも悪くない。……うん。全然悪いことじゃない。さあ、目を開けよう。

 目を開ければ、そこは現実だ。現実の世界なのだ。僕は現実の世界に戻ってきた。現実の自分の部屋の中に、見慣れた世界の風景の中に戻ってきたんだ。だから目を開けて、世界を感じろ。そうしてまた、昨日と変わらない今日を始めるんだ。

 木の葉は決意する。

 それは静かな決意。だけど、とても強い決意だ。

 その決意とともに、木の葉は夢の世界の中を抜け出して、現実の世界の中に帰還した。

 この瞬間、木の葉は新しく生まれ変わったのだ。古い木の葉を脱ぎ捨てて、新しい木の葉になったのだ。

「さようなら」と木の葉は言った。

「さようなら」と不思議な声が返事をした。


 その声を聞いて、木の葉はにっこりと笑った。

 ……そして、木の葉の目覚めとともに、世界に新しい綺麗な一輪の花が咲いた。


 小さな花 終わり

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