表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逃走、盾役少女  作者: 善信
第七章 神を討つ者達
91/96

09 女神レビルーン

            ◆


『──バ、バカな』

信じられないといった顔つきで、ギレザビーンが倒れた。

「か、勝った……」

そう……私達は邪神との戦いに、勝利したのだ!


「最初はどうなるかと思ったが……急に奴の体調が悪くなったのが、潮目だったな」

「ええ、お陰で助かりました……」

モジャさん達が、戦いの感想について話しているのを聞いて、確かにそうだなぁ……と素人の私でも思う。


            ◆


そう、最初は邪神の猛攻に、私達も防戦一方だった。

『フハハハ!どうした《神器》使いども!貴様らの力はそんな……ぬあっ!』

嵐のような神の攻撃!

しかし、突然ギレザビーンは脇腹を押さえて動きを止めてしまった。

『ぐ……おおっ……な、なんだ……この痛みは……』

ガクガクと膝を震わせ、じっとりと汗に濡れながらギレザビーンは謎の腹痛に耐える。


「エアル!まさか、毒とか盛ったのか!?」

突如、コーヘイさんが私を名指しした!ちょ、ちょっと!やってないわよ、そんな事!

人聞きの悪いことを、言わないでちょうだい!

「いや……だって盛った前例があるし……」

……はい。

確かに、最初の勇者パーティから逃げ出すために、睡眠効果のある食材を使いました。

「だ、だけど、今回の料理には使ってないし、ギレザビーンに出したのは、皆と同じ材料で作った料理よ?」

「そ、そうか……」

言われてみればと、コーヘイさんも納得したみたいだ。

でも、あの邪神の不調はいったい……。


「ふっ、まだ原因がわからないのか?」

謎は全て解けたといった雰囲気で、モジャさんがポツリと呟く。

ええっ!? 理由がわかったの?

「簡単な事さ……奴は腹いっぱい食べた後なのに、大暴れしたから横っ腹が痛くなったのさぁ!」

な、なんですってー!……って、なに言ってるのよ、モジャさん。

いくらなんでも、そんな子供みたいな……。

『な、なんだとぉ!』

おい、邪神。なんであなたが驚いてるのよ。


『だ、だが、貴様らも戦闘前に食事をしていたはずだ!なぜ、平気でいられるっ!?』

「フッ……俺達は、『腹八分目』だったからな」

『は、腹八分目……だと!? そんな技術が……』

いや、それってそんなに勝ち誇って言う事でもないでしょ?

それに、邪神のリアクションが良すぎて、ツッコんでいいのか呆れればいいのか、反応に困るわ。


『わ、我は今まで、こんな現象に遭遇したことはなかった……貴様ら人間が、神の知らぬ事を知っていたというのかっ!』

「確かに人間は、アンタら神から見れば短命で愚かに見える事もあるだろうさ……だがな!『満腹の後に激しく動く(そういう)と脇腹が痛くなる(経験)』を重ねて、人は文化を作り上げて来たんだ!」

「神のように、個人で世界を生み出すような事はできんさ。しかし、受け継がれた物を後世に残して生かす事ができるのが、人間というものなんだ!」

『お、おお……』

コーヘイさんとモジャさんの人間論に、邪神は押されているみたい。

でも、ただの整理現象だし、そんな大仰に言う事でもないわよね……。


『なるほどな……強さを重視したはずの我が魔族が、貴様ら人間に勝ちきれぬ訳だ。様々な経験の継承……確かに、そんな考えは持っておるまい』

弱肉強食がルールの魔界では、確かに弱い者達の技術や文化の伝承は軽視されるでしょう。

その点においては、元から弱い人間だからこそ、生き残る強さについて貪欲だったかもしれないわ。


『しかし、人間を認めたとはいえ、神である我が貴様ら創造物の思い通りになってたまるものかよ!』

脇腹の痛みを堪えながら、ギレザビーンは再び立ち上がった。

ああ、無理すると痛みが長引くのに。

しかし、そんな風に立ち上がるギレザビーンを見て、コーヘイさんは意を決したように皆へ声をかけてきた。

「よし!奴が回復する前に、やっちまおうぜ!」

うーん、そうね。

コーヘイさんの言葉に、私達は誰も異論を挟まなかった。


『……おい、一応は認めあった訳だし、こういう時は我が回復してから、正々堂々と戦おうとか言うのが王道ではないのか?』

結構まともな事も言うのね、ギレザビーン。

だけど、元より私達が有利とは言えないくらい、そっちの方が強いんだから、弱ってる今がチャンスじゃない?

「そういう訳だ!おとなしく、殺られやがれ!」

『き、汚いぞ人間!』

「戦術はあらゆる手段を肯定するのだよ!」

有無を言わさず私達は邪神に襲いかかり、持てる力の全てをもってタコ殴りにした!

そうして、冒頭に至る──。


            ◆


『う、うぐぅ……』

とりあえず、ボコボコにしたギレザビーンを、レルールの鎖で縛り付けておく。

さすがに神を奴隷化はできないみたいだけれど、それでも動きを封じて置くことはできるでしょ。

それにしても、腹八分目と満腹とが勝敗の境目になるとはね。

もしも、私達の冒険が伝説になっても、絶対に使われないわ、こんなネタ。


「ところで……邪神を封印するには、どうすればよいのでしょう?」

縛られたギレザビーンを眺めながら、レルールが誰とはなしに問いかけた。

そういえば、そうね……。

倒すだけでいいなら、この状態だもん、すでに封印されていてもおかしくはないだろうし、何か儀式とかアイテムが必要なのかしら?


「ねえ、エイジェステリア。あなたなら、邪神(こいつ)の封印方法を知ってるんじゃない?」

変態とはいえ、天使は天使。

私達の知らない情報なんかも、なにかしら持ってるだろう。

「ああ、それは……」


『そのまま、トドメを刺せばいいのですよ』


「!?」

エイジェステリアの言葉を継ぐように、何者かの声が響いた。

そして、それを聞いた瞬間、天使と邪神がビクリと体を震わす!

「こ、この声は……」

『まさか……』

エイジェステリアとギレザビーンが上を見上げると、その視線の先に突然まぶしい光の輪が広がった!

その輪から日差しのような光が差し込み、地下のうす暗い封印の間が明るく照らし出される。


そして……その女性(ひと)は、ゆっくりと光の輪を抜けて姿を現した。


『久しぶりですね、ギレザビーン』

『やはりお前か、レビルーン……』

レビルーン……それは私達、人間と人間界を造った女神の名前。

初めてギレザビーンを見た時と同じように、神々しいオーラを身に纏いつつ、慈愛に満ちた柔らかな笑みを浮かべている。

太陽の光で出来てるみたいな目映い金色の髪に、母性を象徴するような豊かな胸の膨らみ。

何より、思わず「お母さん……」と呼んでしまいそうな、圧倒的な安心感が、かの女神からは発せられていた。


『よくぞ、そこな邪神を倒しましたね、《神器》使い達よ。様々な困難を乗り越えて、目的を果たしたあなた達を、誉めてあげましょう』

うう、なんだろう……この胸の内から込み上げるような、むず痒い感覚は。

何て言うか、いい歳なのにお母さんに頭を撫でられたみたいな、恥ずかしくも嬉しいっめ感じがする。

ウェネニーヴだけは、よくわからないといった風に小首を傾げているけど、他の皆は私と同じような感覚に襲われてるみたい。

モジャさんなんか「マーマ……」とか呟いてるし。


『ですが、悲しい事もあります。我が天界に、狼藉者が侵入してきたのです』

狼藉者……あ!それって!?

パチン!と女神が指を鳴らすと、彼女の近くに別の光の輪が展開し、そこから何かが吐き出された。

「!?」

それは私達と別れ、目の前の女神を封印すべく天界に向かった、ザラゲール率いる魔界十将軍の精鋭達。

彼等はまるで、ぼろ雑巾のような無惨な姿で折り重なり、ピクピクと痙攣していた。

ギリギリだけど生きてるみたいで、ちょっとだけ安心したわ。


『この者達のせいで、我が天使達は全て倒されてしまいました。まったくもって不愉快です』

レビルーンはため息を吐きながら、ザラゲール達から私達へと視線を向ける。

『なぜ、我に逆らおうとするのです?』

その問いかけは、すでに私達とザラゲール達との間で結ばれた協定も、知っているからこその物だろう。

悪事を働いた子供を咎めるような、そんな響きがそこにはあった。


『我を楽しませる遊戯の駒であるからこそ、他の人間よりも優れた能力や力を得られたのですよ?創造主(おや)である我に感謝こそすれ、逆らう道理などないでしょう?』

うわ、すっごい上から目線。いや、神なんだから当たり前かもしれないけど、こう面と向かって言われると、さすがに反発したくなるわ。


「私達は、神々の戯れのために生きているのではありません!」

突然、レルールが大きな声をあげた!

「あなたにとっては取るに足らない人達でも、日々を懸命に生きています!それは人間界だけでなく、魔界においてもそうでしょう。そんな人達が住む世界を、遊び感覚で引っ掻き回すなんて、神とはいえそれが許されるはずがありません!」

大司教という地位にあるからこそ、レルールは国の内外で色々な現場を見てきたんだろう。

まだ、少女といっていい彼女の言葉には、聖女と呼ばれるにふさわしい重みがあった。


『わかりませんね……我が造りし世界を、我らがどうしようと自由でしょうに』

だけど、レルールの言葉は、レビルーンには全く届いていない。

ため息混じりで首を振る女神は、心底残念そうにレルールに語りかけた。

『あなたは、我のお気に入りでした。死後は我の元で、天使として仕えてほしかったというのに……』

「この世界が、あなた方の遊び場と知らなければ、喜んで召されていたでしょうね」

女神の誘いをレルールは拒否する。

っていうか、あの女神の物言いって、最初にエイジェステリアが私を選んだ時と似たような感じよね。

やっぱり神と天使って似てくるのかしら?


そんな事を思いながら、隣で縮こまっているエイジェステリアをチラリと覗き見る。

すると、気の毒なくらいに動揺してる彼女に、女神からの叱責の言葉が投げ掛けられた!

『エイジェステリア!あなたは地上にて、人間達を監督するのが役目だったのでしょう!なのに、彼等の反乱を止めぬとは、どういうつもりです!』

「い、いえ……地上においては、私達は不干渉であると……」

『言い訳無用!』

ピシャリと怒鳴られて、エイジェステリアは再びビクリと小さくなった。

自分で理由を聞いておいて、それは無いんじゃないかなぁ……。


『……ふぅ。これも自由意思を与え、発展性を持たせたが故の反乱かもしれませんね。思いもよらぬ方向性は楽しめますが、我に逆らうならば話は別です。こうなれば、創造主である我の手で引導を渡すのが筋というもの……』

そう言うと同時に、レビルーンから放たれるオーラの質が変わった。

例えて言うなら、お母さんから猛獣に変化したような、戦闘向けのオーラになっている。


『あえて言いますが、あなた達が我に勝つ確率はゼロです。慈悲を乞うなら、せめて苦しみのない死を与えましょう』

ずいぶんと、ハッキリ断言してくれるじゃない。

言っちゃなんだけど、今までだって勝ち目の無い戦いを、生き延びて来たんだから!

どんな姑息な手を使ってでも、今回も生き延びてみせるわ!


『わかりやすく言ってあげても、諦めないのですね……これも人間の宿業(サガ)、ですか』

やれやれといった感じで肩を竦め、レビルーンは優雅に歩を進め始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ