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逃走、盾役少女  作者: 善信
第一章 反抗組織と毒竜
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04 毒竜

「おわあぁぁぁっ!」

眼前に迫る真っ赤な熱風に、私は叫びながら反射的に盾を構えた!

すると盾から薄緑色のオーラが広がり、巨大な炎の奔流は

私を支点として左右に裂けていく!

一秒、二秒……と、永遠とも思えるような数秒間が流れ、やがて炎の熱と圧力が徐々に収まっていった。

完全に炎が終息しはしたけど、周辺に熱波の残り火を燻らせる中、私はへなへなとしゃがみこんでしまう。


あ、あ、あ、危なかったぁ……。

なんだろう、あれが噂の『竜のブレス』というやつなんだろうか?

毒の竜と聞いていたのに、あんな炎も吐き出すなんて、話が違うじゃない!

恐怖と緊張から混乱しかけていた思考をハッキリさせるため、頭をを軽く振る。

そして、私の周りにいたはずの『裸がユニフォーム』の面々の事が、脳裏をよぎった。

そうだ、皆は!?

周囲を見回して見るけど、彼等の姿はどこにもない。

確かに、あれだけの炎だ……盾を持っていた私以外は、一瞬で消し炭になってもおかしくないかもしれないわ。

うう……短い付き合いだったけど、惜しい人達を亡くしてしまった。

変態集団ではあったけど、悪い人達ではなかったなぁ。


「いやぁ、危なかったぁ……」

突然、背後から聞こえた声に、私はビックリして飛び上がってしまう!

慌てて振り向くと、そこにはお頭さんを筆頭に、私の影に隠れるようにして整然と一列に並んだ褌おじさん達の姿があった。

あ、生きてたんだ……。

ちょっとだけホッとしたわ。でも、同時に怒りが沸き上がってくる!


「な、なんですかアレ!明らかに『竜のブレス』ってやつじゃないんですか!」

「ち、違う!ここの竜は、炎のブレスなんて吐かないって話だし!」

慌てて否定するお頭さんに、私は懐疑的な目を向ける。

「でも、実際に凄い炎だったじゃないですか!」

「そ、それは……」

「あ、もしかするとあれじゃないですか?鉱山なんかでよくある、ガス溜まりに花火の火が引火した……みたいな?」

一人の褌おじさんの推測に、私とお頭さんは「ああ~」と、頷く。


「しかし、竜の巣穴だろ?そんな所にガス溜まりなんて、できるかね……」

「いやぁ、住んでるのは毒竜だから、毒ガスが充満してても平気かもしれないし……」

何やら私達そっちのけで、竜の巣穴について考察を始める褌おじさん達。

うーん、そういうのは暇な時にやってほしい。

あれ?でも待てよ……?

あの炎がブレスじゃないってことは、中にいるであろう毒竜も炎に巻かれたって事じゃ……。

そんな考えが頭に浮かんだ時、私は竜の巣穴の奥から、微かに響いてくる音を聞いた。

「しっ!」

いまだ白熱する議論を交わす褌おじさん達を制して、私は巣穴の方に意識を集中させる。


ズン……ズン……と、物音は徐々に大きくなり、震動を伴ってこちらに近付いてきてるようだ。

これってまさか……。

そんな私の悪い予感が的中したようで、巣穴の奥でギラリと光る巨大な瞳と視線がぶつかった!


『グルオォォォォォッ!!!!』

激しい雄叫びと、巣穴の入り口を破壊しながら、ひたすら大きな影が飛び出してくる!

それは一瞬だけフワリと宙に浮かぶと、大地を揺るがせながら私達の目の前に着地した!

あ、ああ……。

でかぁい!説明不要!

おとぎ話で聞いた、絵の中で見たことがあった、幻獣種と称されるあの最強の生き物。

それが、私の眼前に立ってこちらを見下ろしている。


まるで三階建ての建物が動いてるような巨体は、そこにいるだけで凄い威圧感だった。

全身を覆う紫の竜鱗は、まるでアメジスト。さらに、月の明かりを宿したような金色の瞳、黒曜石の思わせる爪に、ズラリと並ぶ短剣よりも鋭い牙。

お腹に響く重低音のうなり声を立てて、こちらを睨みつけるその荘厳な生き物を、私は恐ろしいと思うと同時に、美しいとも感じていた……。


『貴様らか、我が巣穴に爆発物を投げ込んだのは……?』

うなり声に混じって、人語を発しながら、竜が問いかけてくる。

問答無用で襲ってくるかもと思ったけど、意外に理性的なのね。

でも、その問いかけの内容からして、やっぱり竜も先ほどの爆発の洗礼を受けたみたい。

よく見れば、鱗のあちらこちらが煤けてるわ。

「あー、すまない。まさかあんな事になるとは、俺達も思ってなくて……」

お頭さんが弁解しながら、私達の前に歩み出る。

『そうか、やはりお前らか。……では、死ねぇ!!!!』

ゴオッと、吹き荒ぶ嵐のような怒りの咆哮が、竜の口から響き渡る!

それと同時に、数人の褌おじさん達が気を失ってしまった。

竜の咆哮には魔力が宿ってると聞いたことがあるけど、確かに気の弱い人なら、この一声でショック死するかもしれない。

《加護》のある私には精神攻撃は効かなかったけれど、どうしよう……この竜、滅茶苦茶ブチ切れてる……。


「待て!話を聞いてくれ!」

『黙れ変態!貴様らのような褌一丁の変質者どもと話す事など、何一つないわ!』

お頭さんに向かって、竜が怒鳴りつけた。

うっ、ピンチだけど、竜の言い分が痛いほどよくわかる!

確かに彼等の格好は、威圧感は与えなくても、不信感は与えるわよね。

『我が巣穴を荒し、眠りを妨げた報いを受けろ……』

瞳に怒りの炎を宿した毒竜は、大きく息を吸い込む。

あ、ヤバいわ。恐らく『竜のブレス』がくる!


「みんな、逃げて!」

私はともかく、他の人達はこの一撃で全滅するかもしれない。

「腰が抜けて動けないのぉ!」

槍に寄りかかり、キリッとした真剣な表情で、最高に格好悪い台詞をお頭さんが口にする!

「僕達、」

「私達も、」

「腰が抜け動けません!!!!」

なぜか綺麗に言葉を繋げて、褌おじさん達もピンチを伝えてきた。

ああん、もう!竜を味方につけるとか意気込んでたくせに、いざとなったらダメ過ぎじゃないっ!


仕方ないわねと内心で毒づきながら、私は竜の注意を引くべく、盾をガンガンと打ち鳴らす。

そうしながら、皆に影響が及ばない位置に回り込んで、竜に向かって叫んだ!

「こっちよ、紫デカトカゲ!そのゴブリンのおならみたいな臭っいブレスが、私に効くかどうか試してみなさい!」

『ッ!!』

私の挑発をモロに受けた竜の目が、こちらに向けられる。

心なしか、鱗の上に血管が浮き出るくらい、怒ってるように見えるわ。ゴブリンのおならは、言い過ぎたかしら……。

だけど、怒った竜は目論み通り、私を標的に変えて怒濤の勢いで毒のブレスを放ってきた!


数秒の間ではあったけど、凄まじい猛毒のブレスによって大地が抉れ、周囲の草木は一瞬で朽ち果てる!

『…………グフゥ』

小気味良く喉を鳴らして、ブレスを吐き終える毒竜。

だけど、もうもうとした残り火のような煙が晴れた時、そんな地獄の中で平然と盾を構えて立っていた私の姿を見て、竜は目を見張った。

『なっ!なんだと……』

竜の表情なんてよくわからないけれど、それでも驚愕している雰囲気は伝わってくる。

ふふふ、ただの小娘だと思って甘く見たようね。


『馬鹿なっ、人間ごときがぁ!』

再び、竜がブレスを放つ!

今度のは勢いは大したことがないけれど、先のブレスよりも毒の濃度を増した物みたいで、みるみる大地が腐るほどの毒性が込められていた!……まぁ、それでも【状態異常無効】の《加護》があるから、私には効かないんだけどね。

本来なら、あらゆる生き物が腐れ死んでもおかしくない、そんな猛毒を受けているのに、やはり平然としている私の姿を見て、さすがの竜も呆然として言葉を失う。


これは……チャンス!

私はショックで棒立ちになる竜へと向かい駆け出し、素早く間合いを詰める!

「うおおぉぉっ!」

そうして、スキだらけな竜の爪先目掛け、50トンという最大重量へと変化させた《神器(たて)》の縁を思いきり振り下ろした!

バキリ!と爪の割れる音!

それと同時に、毒竜の苦痛の叫び声が、辺り一帯に響き渡った!

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