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逃走、盾役少女  作者: 善信
第一章 反抗組織と毒竜
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03 思わぬ仲間の証

──結局の所、私はしばらく彼等と行動を供にする事にした。

話を聞いてみれば、彼等が起こそうとしているのは血生臭いクーデターではなく、竜の協力を得ることで威圧し、悪徳領主の不正の証拠を手に入れて国王に直談判するという計画であること。

そして、隣のウグズマ国にこっそり侵入するには、その計画に乗ってどさくさに紛れた方がいいと思ったからだ。


いや、《神器》があれば国境は自由に往き来できると聞いてはいるけれど、それでは勇者達に私の行動がバレる可能性がある。

一応、私の身の上は冒険者目指して旅に出た、ファーキン国生まれの村娘という事にしておいたら信じてもらえたようなので、そのまま彼等の行動に乗じた方がいいかな……という打算もあった。


でも、彼等が圧政に苦しむ人達を助けたいというのは本当みたいだし、政変や領主の代が変われば、いつそんな立場になるとも限らない平民の私にとっては、知ってしまった以上はスルーするのも気が引ける(仮にも救世主一行に選ばれたという、負い目もあるし)。

それで、ひとまず彼等が竜と交渉するまでは付き合あってみるけれど、さすがにその後の領主襲撃には参加しない方向で……という事で話はついていた。

まぁ、幸いにも(?)この山に潜む竜は『毒』がメインの竜らしいから、【状態異常無効】の《加護》を持つ私なら、なにかしらの役に立つかもしれないしね。


「まぁ、お嬢さんがピンチになったら俺達が助けてやるよぅ!」

「おおよ、おじさん達を頼っていいんだぜ?」

「若い子の前だからって、うかれ過ぎだぞ、お前ら!」

ガハハと笑う、褌おじさん達のテンションは高い。

そんなおじさん達に、タハハ……と愛想笑いを返しつつ、どうしても疑問に思う事が二つほどあったので、思いきって聞いてみることにした。


「あの……ちょっと聞いてもいいですか?」

私がそう尋ねると、彼等は「なに?なに?」と目を輝かせて答えようと群がってきた。

ええい!おじさん達、はしゃぎ過ぎ!

「いえ、何らかの信念が有るんでしょうけど、竜とやり取りをするのに、皆さんの格好はどうかと思うんですけど……」

これがどこかの村の奇祭というなら理解できるけれど、褌一丁で竜の元に向かうなんて、無理がありすぎるんじゃないのかしら?

下手をすれば、向こうからしたら(カラ)が無くて食べやす~いなんて、思われるかも……。

すると、意外にも彼等は私の疑問も尤もだと、深く頷いた。


「俺達の格好は、権威の象徴である服を脱ぎ捨てる事で、そんな物に縛られないぞ!という事を表現しているんだが、必要以上の武装をして相手に威圧感を与えないという意味もあるんだ」

へぇ……意外に考えられていたのね。趣味じゃなかったんだ。

でも、権威に縛られないのはいいけど、常識にはもう少し縛られてほしかったかな。

まぁ、確かに話をするだけなら、ガチガチに武装した集団よりは相手に与える警戒感は少ないかもしれない。

変態集団と認識されて、いきなり攻撃される危険もあるかもしれないけど……。


それじゃあ、もう一つの質問をしてみよう。

「竜に協力を頼むにしても、なにかしらの報酬は用意してるんですか?」

元々、関係のない竜を人間世界のいざこざに巻き込もうというのだから、相手にとっても何か得になる物がないと協力なんて得られないと思う。

特に宝物を集める事を好むと聞くし、それなりのお宝を用意しなくちゃいけないんじゃないかしら?

しかし、彼等はほとんど手ぶらであり、竜を納得させるだけの物を持っているようには見えなかった。

「ああ、その交渉には、これを使おうと思ってる」

そう言うと、お頭さんは自身の持つ『槍』を掲げてみせた。って、ええっ!?

そ、そんなどこにでも有りそうな槍が、竜との交渉材料になるわけないじゃない!


「おっ?今、そんな槍で竜が釣れる訳がないと思ったろ?」

多分、私以外にもそんな反応を見せた人がいたんだろう。しかし、お頭さんは得意気にニヤリと笑ってみせた。

あれ?こんなに自信あり気ということは、何らかの秘密があの槍にはあるんだろうか?

「よーし、あんたにも見せてやろう。この槍の真の姿をな!」

真の……姿?

謎の言葉と共に、お頭さんが気合いの声をあげると、突然彼の槍が発光し始めた!

それに合わせて、槍はその姿をジワジワと変化させていき、光が収まる頃にはそれは素晴らしい、気品すら感じる美しい槍へと変貌を遂げていた。

でも……あの槍から感じる、この感覚は……。

ふと、ある可能性に気がついた私に呼応するかのように、盾が小さな共鳴の音を奏でる。これは……間違いない。

あの槍、あれは《神器》だわ!


ん……?

ということは、まさか……お頭さんも、世界を救う勇者の仲間って事!?

褌一丁で、三十代で、体毛もモジャモジャなのに!?

「どうだ、この姿が変化する『魔法の槍』なら、竜の収集欲をそそる事、間違いなしだろう」

衝撃を受ける私に気付かず、お頭さんは変化した槍を突き付けるように見せてくる。

それが《神器》だと理解していないのか、単に珍しい魔法の武器だと思い込んでるみたいだ。

貫通力が凄いとか、デザインが秀逸とか自慢してるけど、《神器》だもん、当たり前よね。

しかし、彼が選ばれし者だとすると、おかしな点がある。

先程から【加護看破】をこっそり発動させてみてるんだけど、お頭さんには《加護》がついていないのだ。

《神器》と《加護》はワンセットだと思っていたのに、これは一体……。


「あの……その槍は、どういう経緯で手に入れたんですか?」

恐る恐る尋ねてみる。

「ああ、これは家に入った泥棒を退治した時に、落としていったんだよ」

「ど、泥棒!?」

「そうさ。なんか天使のコスプレした変態が、夜に窓から入って来たから、俺の必殺技(フェイバリット)・ロメロスペシャル(古から伝わる闘技らしい)で痛め付けて、窓から放り投げてやった」

ダメじゃん!

なんで天使に、必殺技なんか仕掛けてるの!?

確かに夜中の不法侵入は怪しいけれど、相手は天使なんだから話くらい聞いてあげてよ!……と、思ったけど、変に絡まれる前に追い返したのは、案外正解と言えるのかしら?

なんせ、私欲丸出しで私を選んだ下衆い天使(エイジェステリア)の例もあるわけだしなぁ。

まぁ、お頭さんに変態呼ばわりだけは、天使もされたくないだろうなとは思うけど。

でも、どうりで《加護》を得ていない訳がわかったわ。

天使から詳しい話を聞く前に撃退したんじゃ、そりゃ貰えないわよね。彼等は前置きとかして、話を勿体ぶってから譲渡するのが好きみたいだし。


しかし、重量の変わる私の『盾』や、刀身の長さが変わるアーケラード様の『剣』に比べると、槍の《神器》は見た目の姿が変わるだけって、なんだか地味な感じね。

そんな風に思っていると、お頭さん達の会話が耳に飛び込んできた。


「しかし、いつ見てもこの武器はエグいですよね」

「おお。なんせ、見た目は普通の槍だから、皆油断するしな」

「そのくせ、馬鹿みたいに鋭いから、本当に詐欺ですよ」


ああ、なるほど。

敵にショボい槍だと思わせられれば、一突き目での初見殺しも可能なんだ。

そう考えると、確かにエグいわね。

「だけど、いいんですか? そんな凄い槍を、竜に差し出してしまって……」

お頭さんにそう聞いてみると、「苦しんでる人達を助けるためなら、安いもんよ」と返ってきた。

本当に、いい人達ではあるんだよな……「今の台詞、モテそうじゃね?」とか言って盛り上がらなければ。

でも、私の他にも《神器》持ちがいるなんて……。

思いもよらない強力な味方の存在に、なんだか竜の説得も上手く行きそうな気がしてきたわ。


──それから、竜の住み処まで、一日半ほどの時間を要して私達は到着した。

道中は特に危ない目にも会わず、順調な道程ではあった事もあり、私も食事担当として大いに腕を振るっていた。

……うん、そこまでする必要が無いのはわかるよ!?

でも、このおじさん達って、捕まえてきた猪や兎なんかを雑に処理して「男の料理」とか言い張るんだもの。

せめて血抜きや内臓の処理くらいはちゃんとやってくれないと、美味しく肉が食べれないじゃない!

無駄に捨てる部分を増やしたりしたら、食材になってくれた動物達に失礼よね。


「……それじゃ、行くぜ。お嬢さん」

ブツブツと自分の世界に入っていた私に、褌おじさんの一人が声をかけてくる。

はーい、了解です!それじゃいよいよ竜の巣に突入だ!

気合いを入れて、一歩踏み出した所でちょっと待て!と止められた。

「話を聞いてなかったのか? 竜の巣は毒が充満していて、このまま入ったら死ぬって言ったろう?」

……食材の扱いに対する愚痴に意識が行っていて、全然聞いてなかったわ。

確かに【状態異常無効】があるからって、つい話を重要視してなかったのもあるわね。そこは反省しなくっちゃ。

「ごめんなさい。それで、どうやって竜の所に行くんですか?」

「これを使うのさ」

そう言って、褌おじさんが褌の中から拳大の玉を取り出す。

あれ?おじさんの褌に、そんな物が入るスペースあったかな?

「この導火線に火をつけて、巣穴に放り込むんだ。すると、中で大きな音がして、それに気付いた竜が這い出て来るって寸法よ」

謎の収納術に「?」マークを頭に浮かべる私を尻目に、彼等は素早く準備を整える。

全員が所定の位置につくと、お頭さんが頷き、皆が一斉に導火線に火のついた玉を、竜の巣穴に放り投げた!

コーンと小さく床に玉の落ちる音。

そして、数秒後。


突然の激しい閃光と、耳をつんざく爆発音!

そして、巨大な炎の塊が竜の巣穴から逆流してきて、入り口付近にいた私達を無慈悲に呑み込んでいった!

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