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逃走、盾役少女  作者: 善信
第六章 人と魔族の総力戦
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04 それはちょっと無理でしょう

ちょっと待ってよ!

私ひとりで、あの魔界十将軍(六人だけど)を足止めしろって!?

そりゃ、ルマルグにベルウルフ、ラトーガとは戦った事があるけれど、ほぼ一対一だったし、ウェネニーブがいなかったら殺られていたと思うんだけど!


そんな私のちょっぴり情けない主張を受けて、レルールもそうかもしれませんね……と、呟いた。

ふぅ、わかってもらえたみたいね。

「ですが、エアル様ならきっと大丈夫です!」

わかってないっ!

なんで?

なんで私なんかに、そんな曇り無き眼で全幅の信頼を寄せてるの?


「今まで、あらゆる困難をはね除けてきたエアル様ですもの。ほんの五分程度、魔界十将軍を引き付けるなんて、できないはずがありません!」

ちょっと何言ってるのか、わからない。

仮に、今まで戦った事のある連中とならって言うなら、五分くらいはなんとかなるかもしれないわよ?

でも、砲撃してくる魚人間(フィッシュマン)に、百人もの冒険者を一蹴する獅子人間(ライオンマン)。さらには、砦を一刀両断する無茶苦茶な剣士もいるんでしょう?

五分どころか、十秒も持たせる自信がないわ!


「ワタクシが、一緒に時間を稼ぎましょうか?」

無理だとレルールを説得しようとする私の様子に、ウェネニーブがそんな提案をしてくれる。でも……。

「そう言ってくれるのはありがたいけど、それだと本末転倒だから……」

そんな風に、やんわりと私は彼女の申し出を断った。

確かに彼女が加勢してくれるなら、五分は逃げ切れるかもしれない。だけど、それでウェネニーブが負傷したり、疲労して満足にドラゴンブレスを放てなくなったら意味がないわ。

なにより、私が足を引っ張ってそうなる確率がめっちゃ高いしね。

私に断られて、しょんぼりするウェネニーブ。

ごめんね、気持ちは嬉しいからね。そう言いながら頭を撫でてあげると、彼女は少し安心したみたいだった。


「ああ……せめて、コーヘイさん達が間に合っていたらなぁ」

まったく、こっちはこんなにピンチなのに、いまだに合流しない男衆は何をやってるのかしら。

はぁ、こんな時に《神器》使い並みに頼れる助っ人がいたらなぁ……。

「いるさ!ここに一人な!」

私の心の声を読み取ったかのような声をかけられ、思わずそちら目をやると、左腕を天に向けてポーズを決めるシルエットがひとつ!

「あなたは……エイジェステリア!」

声でなんとなくわかっていたけど、予想通りの天使の姿があった。


でも、観察者として戦いには参加しないと宣言していたいたのに……ゴリラエルさん達との約束は大丈夫なの?

「私は、観察者としてエアルちゃんの(・・・・・・・)戦いを、最後まで見守る必要があるわ!だから、邪神との決着がつくまで、エアルちゃんを死なせる訳にはいかないのよ!」

その為に、エアルちゃんに力を貸すのは合法と、エイジェステリアは言いきる。

なんだか、すごい詭弁というか屁理屈にも聞こえるけど、彼女が協力してくれるならありがたいから黙っておこう。

私の防御力に天使の機動力が加われば、なんとか魔界十将軍達を撹乱して時間が稼げるかもしれない。ちょっとは希望が見えてきたわ!


「ありがとう、エイジェステリア!」

私は思わぬ協力者に、ガシッと彼女の手を握りしめる。

「フッ、いいのよ……エアルちゃんに何かあったら、大変だもんね。でも、報酬をくれるというなら……」

熱いキスでも貰おうかしら?なんて囁くと、彼女の顔が私に近付いてきた。

ちょ、ちょっと……。


「その辺にしなさい」

エイジェステリアにキスされそうになる寸前、私達の間に滑り込んだウェネニーブによって、その行為は阻まれた。

あ、危なかったわ……。

「何を邪魔してんのよ、竜っ娘」

「どさくさ紛れで、お姉さまに情欲をぶつけないでもらいたいですね」

何度目だろう、フフフ……と目の笑ってない笑顔でぶつかる二人を見るのは。

まったく、そろそろ仲良くしてもらいたいものだわ。

「そもそも、どちらかと言えば、お姉さまが天に召される事を望んでいた貴女が、いったいどういう風の吹き回しですか?」

「べ、べ、別にぃ?」

うん?そういえば、そんなことを言っていたわね。なんだか、わかりやすいくらいに動揺してるし……何か隠してる?

「わ、私が天界にいない間にエアルちゃんが死んだら、他の天使に魂を担当されちゃうからとか、関係ないんだからねっ!」

何よ、その間違ったツンデレみたいな台詞は。

はぁ……やっぱり、エイジェステリアはエイジェステリアだったか。


「なんにしても、これで反撃の用意はできましたね!」

うーん、このやり取りを見ていて、その台詞が出るレルールもたいしたものだわ。

「それでは支度ができしだい、ヌイアー砦へ向かいましょう!」

そう言うとレルールはジムリさんに、他の《神器》使い達を召集するように指示を出した。

短く返事をして部屋から出ていったジムリさんを見送り、私達も準備を整える事にする。……とは言っても、別に慌てて用意をするような物は無いんだけどね。


荷物はだいたい魔法の鞄(マジックバッグ)に入れっぱなしだし、重武装をする訳でもない。

ウェネニーブやエイジェステリアも同様で、むしろレルール達の準備がすむまで、少し手持ち無沙汰になってしまった。

「ねえ、エアルちゃん。よかったら今のうちに、私達のフォーメーションを決めておかない?」

ふいに、エイジェステリアがそんな事を言ってきた。

んー、確かにどうやって動くか決めておくのは大事かな。


「何かエイジェステリアに考えはあるの?」

言い出したからには何か考えがあるのだろうと尋ね返すと、待ってましたとばかりに、彼女はニコニコしながら私の背後に回った。

「色々と考えたんだけど、やっぱり私がエアルちゃんを後ろから抱き締め……抱え込んで、高速で移動するパターンが一番しっくり来ると思うの」

なるほど、エイジェステリアは移動のみ、私は防御のみに専念するって事ね。

確かにわかりやすいし、二人の長所を活かすならその形がいいかもしれないわ。


「じゃあ、実際にやってみようか……」

なんとなく息が荒いような気もするけど、エイジェステリアはそっと後ろから手を回してくる。

そうしてギュッと私の体を引き寄せると、フワリと宙に浮いた。

おお……ウェネニーブに乗って空を飛ぶ時とは、また違った感動があるわね。

天井近くまで浮かび上がり、ちょっと受かれた私は、眼下のレルール達に手を振ったりしてみた。


……でも、どうしたのかしら?

移動するはずのエイジェステリアは、今の位置から動こうとしない。それに、耳を澄ますとなんだか荒い呼吸音が聞こえてくる。

もしかしたら、どこか具合が悪いの!?

「エイジェステリア、大丈夫?」

心配になった私が声をかけると、彼女がボソボソと小声で何かを呟いているに気付いた。


「ハァ……ハァ……エアルちゃんの髪の匂い……エアルちゃんの体臭……」


ゾワッと全身に鳥肌がたった!

こ、この天使はっ!

そんな変態じみた独り言を呟いてんじゃないわよっ!


「は、離れなさい!」

「いやぁ……もっとぉ……」

匂いを嗅いでいたのがバレたエイジェステリアは、離れるどころか開き直って、クンクンとあからさまに鼻を鳴らす!

ひ、ひぃぃっ!

思わず悲鳴を上げそうになったその時!

「お姉さまっ!」

私の異変に気付いたウェネニーブが、一足跳びで私にしがみついてきた!


「は、離れなさいよ竜っ娘!重いのよ!」

「お姉さまに、何をしてくれてるんですか!うらやま……不埒な真似はやめなさい!」

私を挟んで、竜と天使がギャアギャアと言い争う。

はて、前にもこんな事があったような……?

まぁ、それはさておき!

空中で揉みくちゃにされていたら、いつ落下するか気が気じゃないわ。ここは一旦、地上に降りた方がいいと思うの!

そう二人に提案するけれど、まったく聞いちゃいない。


私を間に挟んだまま、押し合い圧し合い……ちょっと待って。

なんだか、二人とも息が荒くなってない?

お互いを押し退けようとしていたはずなのに、いつの間にか前後から私の体をまさぐるようにして、ウェネニーブ達はスリスリと自分の体を擦り付けてきていた。

ちょ、ちょっとぉ!二人ともそっちの方向に行ってどうするのよ!


「ハァハァ……もう辛抱たまらんわ……」

「フゥフゥ……このまま、最後まで……」

「いい加減にしなさぁい!」

さすがにブチ切れた私が、大声で二人を一括する!

その怒声にハッとなったエイジェステリアは、憤怒のオーラを放つ私に気づいて、気まずそうな顔でソーッと私達を地上へと降ろした。


「あ、あの……エアルちゃん?」

「お、お姉さま……」

何事か弁明しようとする彼女達に、私は冷たく一言だけ返した。

「正座」

「え?」

「いいから正座しなさい!」

有無を言わさぬ私の態度に、二人には大人しくその場に正座する。

そして、そこからジムリさん達が準備を整えて姿を現すまでの小一時間、二人が半泣きになりなるまで、私の説教は続いた。


余談ではあるけど、そんな風に二人に説教をかます私の事を、レルールがうっとりとした瞳で見つめていたとはジムリさん達の談である。

はぁ……また彼女に、過剰な期待感を持たせてしまったかもしれないわ……。

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