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逃走、盾役少女  作者: 善信
第一章 反抗組織と毒竜
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02 反抗組織の目的

反抗組織(レジスタンス)『裸がユニフォーム』……?

いや、そもそも、彼等は何に反抗してるの?世間体?

理解が追い付かずに言葉を失う私に、お頭は小首を傾げるが、何かを察したように破顔した。

「俺達は反抗組織、『裸がユニフォー……』」

「それはわかったわよ!」

どうやら、私が聞き逃したと思ったらしく、もう一度名乗ろうとするのを、強引に遮ってやった。


「おやおや、スーパーヒーロー達を前にして興奮しているのかな?」

「有名人を前にしたら仕方がないがね」

「最も俺達が有名になるのはこれからだけどな!」

HAHAHA!と、笑ったり肩をすくめたりする変質者達にイラッとするけど、ここで冷静さを失ってはいけないわ……。

こんな場所でたむろする彼等の目的……それが私にとって不利益になるなら、落ち着いて逃げなくちゃ。

でも、相手の目的を引き出す話術なんて私は持っていない。

どうやって聞き出そうかと考えていると、向こうから話を振ってきた。


「で、話を戻すが、お嬢さんはこんな所で何をやってるんだ?」

確かに彼等は怪しいけれど、汚れた服装で山の中をうろつく私も怪しいわよね……変質者に警戒されるのは、なんだか嫌だけど。

「わ、私は、その……冒険者に……憧れ、て……」

なんとか誤魔化そうとしたけれど、歯切れの悪い、バレバレなその場しのぎの事しか言えなかった。

ううん……やっぱり私には話術とか無理だわ。

だけど、彼等は意外にも私の言葉を信じたようだ。

「おいおい、君みたいなお嬢さんが冒険者とか、感心しないな」

「あれは、かなりギャンブル性の高い職だぞ?」

「家に帰るんだな、お前にも家族はいるだろう」

……なんだか、親身になって心配されてる。

ひょっとして、見た目に比べて中身はまともな人達なのかしら。


「……だが、このまま一人で帰すわけにもいかねぇな」

すると、横からお頭が口を挟んできた。

むっ!やはり、私を手込めにして……とか考えちゃったのっ!?

「山の中は危ねぇし、人里に送っていって通報されても困る。だからお嬢さん、しばらく俺達に付き合わないか?」

つ、付き合う!? それって私に『裸がユニフォーム』の一員になれって事!?

「わ、私は裸になんてなりません!」

盾の影に隠れながら必死で否定する私に、「違う違う、そうじゃ……そうじゃない!」と、お頭は慌てて弁解してきた。

「俺達が目的を果たすまで、ついてきなって事だ!それがすんだら町まで送ってやるからよ」

あ、なんだ……そういう事か。

でも、反抗組織なんて名乗ってる割りに、やっぱりいい人達っぽいなぁ。

それにしても……。

「目的って……なんですか?」

変な事じゃないだろうなー……と尋ねてみると、お頭はニヤリと笑って目的(それ)を口にした。

「この山の奥地にすむ怪物……(ドラゴン)さ!」


(ドラゴン)

それは、冒険者ならずとも一度は見てみたいと憧れる、この世界で最強の種族!

その強さと雄大さから、憧れと畏怖を集める生物の頂点がこの山に……。

そういえば昔、おじいちゃんからファーキンとウグズマの間にある山岳地帯には、竜の住み家があるらしいって話を聞いたような気がする。

その手の与太話を山ほど聞いてたから信じてなかったけど、まさか本当なの。

「でも、竜なんてどうするつもりなんですか? まさか『竜殺し』をやるつもりじゃ……」

『竜殺し』……それは世界で最高の名誉。

さらに倒した竜の素材は宝の山であり、まさに地位と財宝を手に入れる一石二鳥の手段なんて言われている。

ではあるけれど……そんなに簡単にいくなら、誰も苦労はしないわよね。

竜に挑むなんて、天災に挑むのと同様だ。

私はまだ死にたくはないので、彼等が『竜殺し』に挑むなら、全力でお断りしなくちゃ!


「いやいや、そんな大それた事は考えちゃいないさ。ただ、竜に協力を仰ぎたい」

俺達の真の目的のためにな!と、彼等は一糸乱れぬ動きでポーズを決めた。……練習でもしてたのかしら、その動き。

だけど、竜に協力を仰ぐ?

確かに一部の竜は人間にも協力的だったり、知能が低い亜竜なら飼い慣らす事ができるなんて聞くけど……。

「そんな危険を犯してまで、何をしようとしてるんですか……」

反抗組織を名乗ったり、竜の力を借りたいと言ったり……もしかして、国家転覆でも狙っているのっ!?

目の前の変質者達は、ひょっとしてヤバいテロリストなのでは……と、内心焦りを覚えていた私に、お頭が代表して真の目的を口にした!


「モテたいです!」

顔をクシャッと歪めて、お頭は力強く言い放った!

……ん?モテ?

一瞬、何を言ってるのかな?と混乱する私に、お頭はもう一度、

「モテたいです!!!!」

と先程よりも強く言い放った。

いや、だから聞き逃した訳じゃないのよ!

「お前は一体、何を言っているんだ?」って感じなのよ!


竜に協力してもらうと、モテたいの発言が繋がらず、頭を抱えそうになる私に、他の褌おじさん達が説明をしてくれた。

「我々は元々、ウグズマ国のイアーズ領内にある各地の村から集まった、自警団的な組織だったんだ」

「しかし、ある時から領主の政策が変わり、酷い重税を課せられる事になった」

「逆らえば容赦なく罰っせられ、絶望と嘆きに沈む村人達を見て、我々は思った」

「そう、『この状況をなんとかできたら、モテるんじゃね?』とな!」


「最低だよ、その発想!」


真面目に聞いてて、めちゃくちゃ損した!

すごく弱みに、つけ込んでるじゃない!そんな事考えてるから、モテないんだよ!

ああ、でも褌をユニフォームにするようなセンスからしてダメだったわ!

義憤からもきてんねんで!とか反論してきてたけど、だったらそっちを前面に出してほしかったわよ、もう!


「ま、まぁ……百歩譲って人助けって事は理解したわ。でも、どうして竜なの?」

どう考えても、竜を味方にしようなんて作戦が成功する確率は低い。

それでも、それを選ぶと言うことは、竜の力無しでは領主を倒せない……とか?

一体、どんな領主なのよ、それ……。

彼等の行動の意味を考えていた私に、大した理由じゃないさと、お頭は自嘲気味に笑った。

「竜に乗って颯爽と現れたら……格好いいだろ?」

本当に大した理由じゃないのね!

もしかしてとは思っていたけど、この人達すごくバカなんじゃないかしら!?


……しかし、なんで彼等はそこまで『モテたい』という事に、執着するんだろう。

お頭なんて、(体毛はともかく)顔だけ見てればそれなりにモテそうな物だと思うけど。

「それには、訳が有ってな」

お頭の言葉に、ドキッとする。あらやだ、考えが口に出ちゃってのかしら。

そういう顔をした……とだけ言って、お頭はその理由を話はじめた。


「俺はなぁ……昔は滅茶苦茶ガリガリだった」

ん? 何の話?と思いはしたけど、一先ず空気を読んで黙っておく。

「もう、本当にガリガリでな。なんなら、その辺の竹の方がたくましいんじゃねえかってくらいでよ」

それは……凄い痩せ方ね。正直、生きていられたのが不思議だわ。

「そんな俺にも、希望があった……そう、『三十歳過ぎても童貞だと、魔法使いになれる』って希望がな」

無いわよ、そんな希望!……無いわよね?

「その日のために、俺は努力した。来る日も来る日も、格好いい決めポーズの研究に余念はなかった」

努力の方向を間違えてると思うけど、変な希望を持つとそうなっちゃうのかしら……。

自分を客観視できなくなるのって、怖いわね。

「だが……運命の誕生日(その日)、俺は……魔法使いに成れなかった」

そりゃ、そうよね。魔法の勉強もしないで、決めポーズの練習なんかしてるんですから。

「俺は深く絶望した。そして考えて考えて……普通に鍛えて、こうなった」

そう言うとお頭は、ムキムキになった胸板を自慢気に叩いて見せた。って、最初から鍛えなさいよぉ!

どれだけ、無駄な道を歩んでるの!? やっぱり、バカだこの人!

呆れて物も言えなくなった私だったが、他のメンバーは違ったようで、涙すら浮かべてお頭に称賛の声を送る。


「流石だ、お頭ぁ!」

「あんたこそが、俺達の希望だよ!」

「魔法使いに成れなかった男達の星だぁ!」

変な宗教の、当主の言葉に盛り上がる信者みたいに熱いエールを送る褌おじさん達。

え、でもちょっと待って……。


「ここにいる人……皆三十代童貞なの?うちのお父さんと同世代なのに……」

あまりの衝撃に、つい言葉が漏れる。

そして次の瞬間には、お通夜ばりに表情を無くしてへたりこむ反抗組織(レジスタンス)メンバーの姿があった。

「素でそういう事言わないでっていったじゃん……」

震える小声で訴えるお頭に、私はまた謝る事しかできなかった……。

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