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逃走、盾役少女  作者: 善信
第五章 邪神軍の進行
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05 『神託の間』にて

翌朝。

朝食をいただき、いよいよレルール達の《神器》開放の儀式を行う段と相成った。


「神殿の一番奥が、神様や天使様達から神託を授かる、特別な場所になっているんです」

そう説明してくれたレルールに、なるほどと私は頷く。

つまりは、エルフの国にあった世界樹の上みたいな場所ね。

天界に近づくために、わざわざ高い場所へ行かなくてもいいというのは、さすが信仰の中心地って感じがするわ。

立会人なんていっても、ほぼ見物に近い気楽な私とウェネニーヴに比べて、やはりレルール達は緊張の面持ちを隠せていない。

儀式を行う場所へと向かう今も、彼女達は一言も口を開こうとはしていなかった。


「心配するな、お前なら必ずやれる」

「そうだ。いつも通りの力を発揮すれば大丈夫だ」

無言で歩く一団の最後尾にいる、王様と教皇(・・・・・)が、そう言いながらレルールを元気付ける。……って、こら。

何しに着いてきてるのよ、お爺ちゃんズ!?


「ひ、暇だったから……」

スッと目をそらして、ボソリと呟くリングラン陛下。

「そんな訳ないでしょうが!」

「そうですぞ、陛下。あなたは仕事が山積みでしょう」

私の尻馬にのって、オーダムラー教皇が王様を責める。

いや、あなたも大概でしょう?

「わ、私には監督責任があるし……」

「それを言ったら、私にも国の行く末を判断するための責任がある!」

くっ!ダメだわ、このお爺ちゃん達。

おおかた、昨夜の『儀式によって、レルールが危険な目に会うかもしれない』って話を聞いて、居ても立ってもいられなくなったって所かしら。


「お爺……国王陛下に教皇睨下?立会人にはエアル様がいらっしゃるので、多忙なお二方に立会っていただかなくても結構なのですが?」

孫にたしなめられ、一瞬ひるんだ二人だったけど、ゴホンと咳払いなんかしてレルールを見据える。

「レルール大司教。君は、我が教団の宝なのだ。なればこそ、私は最高責任者として、君の試練を見守る必要がある」

「そして、宗教と国政が切り離せぬ我が国の王としても、この試練の結果を見届ける義務があるのだよ」

もっともらしい事を言いながら、彼等は引こうとしなかった。

その目には、レルールが心配であるというのと他に、孫の晴れ舞台をこの目に焼き付けたいという、祖父の野望が燃えたぎっている。

ああ、こういう状態のお爺ちゃんは、何を言っても引き下がらないわ……。


「で・す・か・ら!事が成ったら報告はいたしますので、お二方はお仕事に戻ってください!」

しかし、祖父の心の内など気にしない孫の一喝に、王様達はシュンと項垂れる。

「うう……(孫と)この国の将来が心配なだけなのに……」

「教団の長(あとレルールの教育をしてきた者)として、務めを果たそうとしてるだけなのに……」

何か含みがあるけど、ちょっとかわいそうな気もするわね……。

「ダメですよ、エアル様。これがこの二人の常套手段なのですから!」

レルールからは、そう注意が飛んでくる。……いつもやってるのかしら、この二人。


そんな呆れる私に、まるで『拾われた捨て猫が、その日の内にまた捨てられた』みたいな、すがるような目でこちらを見つめてきた。

さらに、お爺ちゃん特有の孫ラブのオーラ!これが中々無視できない。

何て言うか、故郷のお爺ちゃんを思い出すのよね。

私が旅立つ時に、色々と旅の心得や冒険者時代の話をしてくれたお爺ちゃん……。

それを思うと、この二人の想いもなんとかしてあげたくなってくる。


「……まぁ、少しくらいならいいんじゃないかしら?」

私がそう言うと、王様達はパアッと顔を輝かせ、逆にレルールは渋い顔つきとなった。

「エアル様……」

「あー、もちろん邪魔しない事が前提条件よ!? あと、各々の仕事が入ったら、そっちを優先させるって約束してくれるならね」

「アーモリー王の名において誓おう」

「同じく、アーモリー国教皇の名において誓う」

仰々しく誓いの言葉を口にするお爺ちゃん達。いや、孫のいい所を見たいだけなのに国とか出されても……。

ウキウキしている王様達に、レルールはまだ何か言いたそうだったけど、ひとつため息を吐いて諦めたみたいだった。


「もう、お好きになさってください。ただ!」

ぐっとレルールは王様達に詰め寄る。

「くれぐれも、試練の邪魔はなさりませんように!」

「誓う、超誓う!」

「マジ誓うわ!」

調子良くコクコクと頷く二人に、レルールは再び大きなため息を吐いた。


──そんなわけで、正式に見学する事となった王様達も含めた私達の一団は、神殿の最奥、「神託の間」と呼ばれる部屋の前にたどり着いた。

この部屋は、普段は厳重に施錠されて、祭事の時にしか開かれないという。

その扉の前にレルールは歩みでて、膝をつくと祈りの言葉を口にした。

すると、扉の向こうでガコンと大きな音が鳴り、軋むような音を立てながら勝手に扉が開いていく。

おお、なんかすごい!

「さあ、参りましょう」

レルールに促されて、私達はゾロゾロと室内に歩を進める。

「わぁ……」

思わず、声が漏れた。

広い部屋の中は、飾り気どころか窓がひとつ無い、殺風景な物だった。けど、どこから取り入れているのか、光が満ち溢れていて、荘厳な雰囲気に包まれている。

そして、そんな部屋のど真ん中に、目を引くオブジェがポツンと鎮座していた。


あれは……扉?

台座の上に設置されたそれ(・・)は、この神殿の入り口にそっくりな、大きい扉らしきものだった。

うーん、なんだろうこれは?

部屋の中に大扉だけなんて、シュール過ぎてちょっと理解が追い付かない。

ちなみにオブジェの後ろに回ってみたけど、本当に何もない、ただの扉だけといった代物だった。


「……何これ?」

「これは『天界への扉(ヘブンズ・ドア)』と呼ばれる、天界へと導く《神器》に近い神具です」

首を傾げる私に、レルールがそう説明してくれた。

へぇ、天界へ導く……って、何それ!?すごい!

はぁ……そんな《神器》っぽい物があるだけで、ここが特別な部屋だというのはわかるわ。

確かに、この国は神様にもっとも近い場所とか言われるほど、信仰の度合いが強い国だけど、こんな物が有るなんてね……。

いや、こんな物が有るから(・・・・・・・・・)信仰心が強くなったのかしら?


「それでは時間も有りませんし、さっそく守護天使達を呼び出しましょう」

卵が先か、鶏が先かみたいな思考で頭の中がグルグル回っていた私は、そんなレルールの一言でハッと我にかえる。と、同時に不吉な予感が頭をよぎった!

『守護天使を呼び出す』

それはもしかして、エルフの国の悪夢が(・・・・・・・・・)再現されるのでは(・・・・・・・・)ないのかしら(・・・・・・)


今でも、目を閉じれば思い出す。

セクシーな衣装に身を包んだおっさんエルフ達が、半狂乱で唄い踊りながら天使へと呼び掛けていた、あの地獄のような悪夢を。

あ、ちょっと吐きそう……。

「……エアル様、大丈夫ですか?」

気分の悪くなっていた私に、ジムリさん達が声をかけてくれた。

「え、ええ……大丈夫です。ただ……」

レルール達も、エルフの長老達のように、アレ(・・)をやるのだろうか?

いや、確かに美少女や美女揃いのレルール達がやるなら、それは素晴らしい舞いになるだろう。だけど、それって完全に十八禁(ノクターン)扱いになるかも。

しかもそれを、王様と教皇様の前でやるのは、ちょっと酷じゃないかしら……。


「あ、あの!天使を召喚って、どういう方法を行うんですか?」

心配のあまり、私はジムリさん達に尋ねた。

すると、彼女は大扉の方へ進むレルールへ視線を向けて、ご覧になっていてくださいと頷いて見せる。

皆が見守る中、無造作に大扉の前に立った彼女は、枠の所にあった何かのスイッチに手を伸ばし、おもむろにそれを押した。


『ピンポーン!』


静かな室内に、軽快な音が鳴り響く。

『……はぁい、どちら様ぁ?』

少しの静寂の後、扉から声がちょっと間延びしたような女性?の声が聞こえてきた。

「ご無沙汰しています、レルールです」

『あらぁ、レルールちゃん!久しぶりねぇ。今日はどうしたのぉ?』

「『本日は、《神器》の力を開放してもらうべく、守護天使の試練を受けに参りました」

『あらあら、それはそれは……。ちょっと待っててねぇ』

そう言うと、扉の声は別の方向に向けて、呼び掛けるような物に変わった。

『みんな~、レルールちゃん達が来てるわよぉ。試練が受けたいんですってぇ』

声をかけた後、また扉の声をレルールに向けられる。

『すぐに行くから、もうちょっと待っててねぇ』

「御手数をかけます」

『いいのよぉ。それじゃあ、レルールちゃんも頑張ってねぇ』

そう言うと、それっきり扉の声は止んで、再び部屋には静寂が訪れた。

……なんだったの、いまの会話。それに、レルールは誰と話していたんだろう?


ちょっとジムリさん達に聞いてみようとしたら、なぜか彼女達は感無量といった表情で涙を流していた。

「ど、どうしたんですかっ!?」

「すみません、あまりの尊さに……」

「普段は、レルール様しか聞くことのできない声が聞けて、感激のあまり……」

涙を拭きながら、《神器》使い達は誇らしげに口を開く。

「いま、レルール様とお話になっていた、あのお声……あれこそまさしく、神の声に違いありません!」

…………はぁっ!?

神様?あれがっ?


「いやいや、あれじゃまるで『子供の友達が遊びに来た時の母親』みたいな対応だったじゃないですか!世間一般の神様のイメージと違いすぎて、ビックリしますよ!」

「神様は、我らを創造したお方。言うなれば、みんなのママですから……」

み、みんなのママ……。

な、なるほど、貴女達ほどの実力者がそう言うなら……って、ならないわよっ!


いや、確かにさっきの扉の声からは、威厳というか包容力みたいな物は感じたけどさ!?

「あの気さくそうな割りに、レルール様にしか答えない辺りがポイントよね」

「わかるー!」

気分が高揚しているのか、ジムリさん達はキャッキャッと盛り上がっている。

ダメだわ……私みたいな一般人と、教会の人達では受ける感動に差があるみたい。


「はー、神様と対等に渡り合える私の孫が尊すぎる」

「私も育ての祖父として、鼻が高いですな……」

《神器》使い達と一緒に神様の声を聞いたっていうのに、こっちのお爺ちゃん連中はまったくブレない。

でも教皇様の方は、もうちょっと何か感銘受けた方がいいんじゃないかな……とは思うけど。


「皆さん、来ますよ」

いつの間にか、扉の前から私達の所に戻ってきていたレルールが注意を促した。

おっと、不意打ちとかはないだろうけど、一応は気を付けておかなきゃね。

気を取り直して、私達が『天界への扉』へ目を向けた、その時。

存在しないはずなの内側(・・)からゆっくりと開いた扉から、背中に翼を持つ複数の人影が、この場に姿を現した。

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