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逃走、盾役少女  作者: 善信
第四章 勇者、覚醒
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11 吸血鬼の罠

私の捨て身の奇策によって片方の鎖を封じられたレルールは、珍しくその表情に焦りを滲ませる。しかし、すぐに気持ちを立て直すと、迫り来るコーヘイさんを迎え撃とうとしていた。

「はぁっ!」

彼女の手から、槍の刺突を思わせる鎖の一撃が、一直線にコーヘイさんへと向かって放たれる!

「ふん!」

しかし、体を捻ってその一撃をかわしたコーヘイさんは、一気に間合いを詰めて、レルール首元に手をかけた!

本来なら、そこで押し倒してチェックメイト!といった所だろうけど、なにしろ相手は《加護》の力でパワーアップした聖女様だ。

下手をすれば、逆に組伏せられてピンチになるかもしれない。


「うおぉっ!」

しかし、そんな私の心配を余所に、レルールに組み付いたコーヘイさんは、彼女の服を引き付けながら同時に足を刈る!

見たこともない体術で自分の体ごと巻き込むと、半回転してレルールの体を地面に叩きつけた!

「うあっ!」

背中を強打したレルールの口から、苦鳴の声が漏れる。

「柔道の技なんて、中学の体育以来だぜ!」

不細工な背負い投げだけどな!と彼は豪快に笑う。

ジュードー?セオイナゲ?

よくわからないけど、それって異世界の体術なのかしら?

殴る蹴るの護身術はこの世界にもあるんだけどな。異世界(あっち)では、モジャさんみたいに組み付くのを主体にする武術がメジャーなのかもしれないわね。


「くっ!」

倒れたレルールが、押さえ込まれる前に立ち上がり、それと同時に鎖を振るう!

かわそうとしたコーヘイさんだったけど、避けきれずに彼の足へ鎖が巻き付いた!

それを起点にして、コーヘイさんのバランスを崩そうと、レルールが鎖を引っぱる!

しかし、彼はその力に逆らわずに、何故かそのまま足をレルールに向けた。

「ロケット・キイィック!」

彼が叫ぶと、鎖に巻き付かれたままの脚甲が弾かれたようにコーヘイさんの足から外れ、直線上にいたレルールに向かって飛んでいった!

って、なにそれ!?


「なぁっ!?」

私と同じように驚きの声をあげたレルールだったけど、飛来した脚甲が激突する寸前で、避けることができた。

体勢を崩しながらも、再びコーヘイさんに視線を向けた時、すでに彼は次の攻撃を放っている(・・・・・・・・・・)

「ロケット・パアァァンチィ!」

脚甲と同じ要領で撃ち出された手甲が、レルールの顔面にヒットし、意識を無くしたらしい彼女は、がっくりと膝をついたのだった。


「よっしゃ、戻れ!」

コーヘイさんの命令に従って、飛んでいった手甲と脚甲が戻ってくると、自動的に彼の体に装着される。

鎧の《神器》の能力、『爆発的な威力で、鎧を脱ぐ事ができる』を、まさかこんな使い方をするなんて……。

脱げた部位は生身を晒すから危険にもなるけれど、意表を突くことに関しては超有効だわ。


「どうだった、エアル!俺の戦い方は?」

「あー、うん。なんとも型破りでビックリしたわ」

割りとめちゃくちゃだけど、この世界の住人では、多分思い付かなかった戦法なのも事実よね。

この発想力の差が、異世界から勇者を喚ぶ根拠なのかもしれない。


「う……うう……」

倒れているレルールから、呻き声が漏れる。

もう意識を取り戻しそうになるなんて、さすがは聖女なんて呼ばれてるだけの事はあるわね。

「今のうち、レルールを拘束しとかないと」

「そうだな。ただ、あいつ《・・・》がソレをさせてくれるかが問題だ」

倒れたレルールの後方に佇む、天秤の《神器》使いモナイム。

なぜか棒立ちのままだけど……レルールがやられた事に、ショックを受けてるのかしら?


「なんにせよ、今がチャンスなのには違いねぇ。エアル、援護を頼む!」

私に絡まっていた鎖を外し、今度はそれでレルールを縛り上げるべく、コーヘイさんが走る!

それに合わせて、私もモナイムに向かって盾を投げつけた!


コーヘイさんがレルールにたどり着き、回転する盾が飛来しているというのに、モナイムは身動きひとつしようとしていない。

え、ちょっと!そのままだと、顔面に直撃しちゃうわよ!?

《神器》使いとはいえ、魔族と違って生身の人間なんだから、防御もしなかったら大怪我を負うのは間違いない!


「ぐっ!」

モナイムに当たる寸前で盾を引き戻そうとした、その時!

視界の端から、モナイムと盾の軌道上に飛び込んでくる黒い影があった!

硬い金属音を響かせて、その影は私の盾を叩き落とす!

この突然の乱入者に、レルールを縛ろうとしていたコーヘイさんもその手が止まる。

「なんだ、お前は……」

影……というか、真っ黒なローブを纏ったその乱入者は、コーヘイさんの問いには答えない。

背を丸めたような姿勢で、ユラユラとふらつくように小刻みに動いている姿からは、年齢はおろか性別すら読み取る事はできなかった。

ただ、目深なローブの奥で光る鋭い眼光は、こちらに対して友好的な感情を抱いているようには見えないわね。


「うおっ!」

「ちぃっ!」

さらに、他の連中と戦っていた仲間達の声が届く。

何事かと目をやれば、同じような影がみんなの戦闘に介入していた。

「ひょっとして、どこかの国の裏部隊か何かっ!」

コーヘイさんが、なぜか期待のこもった目で黒ずくめ達を見回す。

うーん……でも、この連中がそういう、表沙汰にできない荒事を受け持つ連中だとして、レルール達を助けたんだから、たぶん教会の回し者よね。

つまりは現状、私達の敵だけど……。


「な、何者ですか、あなた達は……」

当のレルールが、この連中を知らない様子。

結構、高い地位にある彼女が、この手の輩を知らないはずは無いしなぁ……。

そんな風に首を傾げていると、以外な方向から声があがった。


「お、お主達はっ!」

「ふぅ……助かりましたよ」

驚きと安堵の台詞を口にしたのは、マシアラとライアラン。

共に魔界十将軍の二人が反応するって事は……。

『いつまでも遊んでいるんじゃない、ライアラン……』

「そう言うな、ラトーガ。予想外に幼女が強かったものでな……」

『……その台詞は、かなりみっともないぞ』

顔を隠しているせいか、言葉は聞き取れても声色からは、男か女かわからない。

「ライアランとタメ口って事は、同等の地位……って事でいいのよね?」

そうであって欲しくはないな……そう思いながらも、確認のために問いかけた私に、マシアラはコクリと頷いた。

「奴の名は『暗爪(あんそう)』の『ラトーガ』。魔界十将軍の中でも、随一の暗殺者でありますぞ」


暗殺者!?

なら、あんな格好も頷けるわ。

でも……四人いるけど、どいつがラトーガなの?

「すべてがラトーガでござる!奴の得意技、分身によって四人に分裂しているのでござるよ!」

な、なんですってーっ!

そんなのアリなの!?

「落ち着けよ、エアル。あの手の技は、分裂したぶん能力も分割されるっていうのがセオリーなのさ」

分身の技を知っているのか、コーヘイさんが自信満々でそんな事を言う。

そうか、そういうリスクが……。

「いや、特にそういった制限は無かったはずでありますぞ?」

「あ、はい……」

どうやら、コーヘイさんが思ってたのとは違ったみたい。

珍しく感心したのになぁ……。


「ともかく、奴の素顔や戦い方を見た者は、魔界十将軍の中でも一部だけであります!なお、小生は見たことがありませんぞ!」

微妙な情報を提示するんじゃないわよ!もっと、他に役立ちそうな情報はないの?

「奴の好物は甘い物ですぞ!」

それを今聞かされて、どうしろって言うのさっ!


「遊び……とは、どういう事です、ライアラン?」

いつの間にか、しっかり意識を取り戻したらしいレルールが、わちゃわちゃやってた私達を置いといて、ライアランに鎖を伸ばして問い詰める。

突然乱入してきたラトーガよりも、わずかにでも付き合いの長い吸血鬼の方が何か企んでいると、彼女は見たようだ。

《神器》の能力により、再び繋がれたライアランは、レルールに逆らえない。だけど、何故か吸血鬼の顔には余裕の笑みが浮かんでいた。


「つまり……こういう事ですよ、レルール嬢」

パチンとライアランが指を鳴らす。すると突然、レルールの《神器》は力を失ったみたいに、ライアランから外れて地面に落ちてしまった!

「なっ!」

さすがの聖女も、その現象に驚きを隠せない。っていうか、あれって天秤の《神器》の能力じゃないの!?


「モナイム!何のつもりですかっ!?」

激昂しながら、従者の方に振り返るレルール!しかし、彼女の目に映ったものは、光の無い瞳に虚ろな表情で、ただ《神器》を発動させているモナイムの姿だった。

「これは……」

モナイムの異変に、レルールは目を見張る。

「そいつにばかり気を取られていると、危ないぞ?」

ライアランの声にハッとしたレルールだったけど、かわす間もなく鉄球(モーニングスター)(メイス)の容赦ない攻撃が加えられた!

「かはっ!」

意識を飛ばす鉄球を頭部に、また衝撃を分散すること無くコントロールする鎚の一撃を腹部に受けて、レルールは吐瀉物と吐き出した血にまみれながら、地に転がった。


「あが……うぐっ……」

「だから、危ないと言ったろうに。あーあ、せっかくの美少女が台無しだな」

モナイムと同じように、虚ろな顔つきになったジムリとルマッティーノを左右に侍らせて、ライアランは倒れた聖女を、悠然と見下ろしていた。

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