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逃走、盾役少女  作者: 善信
第四章 勇者、覚醒
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08 立ち上がれ、勇者様

ん?

突然、背筋に悪寒が走り、私はブルリと身震いした。

『もしかして、寒かったですか?』

背中に乗せていながらも、私の微妙な変化に気づいたウェネニーヴが声をかけてくる。

「あ、ううん。大丈夫よ」

ありがとうねと、ウェネニーヴの背を撫でながら、彼女の気遣いに礼を言う。

うーん、それにしても今の悪寒はなんだったのかしら。

「レルール辺りに、呪いでもかけられてたりしてな」

モジャさんが冗談めかしてそんな事を言う。

やめてよ、縁起でもない……。


さて、与太話は置いといて、そろそろ地上に降りる地点を探さなくちゃ。

ウェネニーヴの飛行速度なら、短時間でも街からもだいぶ離れたはず。

適当な所で降りるように彼女に頼み、私はコーヘイさんの様子を伺った。

「うーん、うーん……」

いまだに毒で痺れている彼は、唸ってばかりだ。

地上に降りたら、ウェネニーヴに解毒してもらわなくちゃ、やっぱりダメみたいね。

まぁ、しばらくは好き勝手やってたバチが当たったとでも思ってもらおう。


その後、山の中腹あたりにちょうどいい開けた場所を見つけたため、私達はそこへ降り立った。

「……ふぅ」

人の姿に戻ったウェネニーヴが、一息ついて私に駆け寄る。

誉めてオーラが全開な彼女を撫でながら、ついでにコーヘイさんの解毒をお願いした。

「了解しました」

快く引き受けてくれたウェネニーヴは、さっそくコーヘイさんの顔面を鷲掴みにすると、彼の体内から毒素を吸い出す。


「う……ここは……」

意識の戻ったコーヘイさんは、私達と周囲を見回してがっくりと項垂れた。

「そうか……俺は《加護》を封印されて……」

やっぱり、アーケラード様やリモーレ様にあんな目で見られて、ショックだったみたいね。

「く、くく……『異世界チート能力でハーレム展開』かと思っていたら、まさか『パーティ追放物』だったなんてな……」

顔を隠して自嘲気味に呟くけど……何の話だろう?

まぁ、そんな事よりもちゃんと立ち直ってもらわなくちゃ!


「コーヘイさん!確かにショックだとは思いますけど、貴方の使命はまだ終わってないんですよ!」

「ええ~、もういいよ……」

なんとか彼に奮起してもらおうと、色々と話しかけてみたけど、完全にいじけてる彼はのらりくらりと愚痴と泣き事を口にするだけだった。

うぬぬ……だんだん、腹が立ってきたわ。


「ああ、俺はなんて不幸なんだ……」

ポツリと漏らしたその一言が、私の逆鱗に触れた!

「甘ったれてんじゃないわよ!」

怒鳴りながら、思いきりコーヘイさんの頬をひっぱたく!

ダメージはほとんど無いだろうけど、コーヘイさんは目をパチクリさせていた。

「だ、誰が甘ったれだと!」

「確かにいきなり異世界に喚ばれて勇者やってくれなんて、大変だったとは思うわよ。でも、さんざんいい思いをしておいて、いざ困難な状況になったら泣き事ばかり、これが甘ったれてると言わずして、なんて言うのよ!」

そうよ!

私だって、守護天使の好みってだけで《神器》使いに選ばれて、それから色々と苦労しているのにっ!

若干、八つ当たりな感情も無くはないけど、それでも彼に比べたらこのくらい言っても文句は言われないでしょう。


頬を押さえてへたりこむコーヘイさん。

そんな彼の前に、腕組みしながら仁王立ちで迫る、モジャさんとマシアラの姿があった。

「エアルの言う通りだぜ、地獄を見てるのはお前だけじゃねぇ」

「左様。小生達も、現在進行形で不幸に見舞われておりますぞ」

二人の言葉に、コーヘイさんは顔を見上げる。

でも、彼等が不幸って言うほど、何かあったっけ?


「俺は童貞なのに、かつての部下達が全員、結婚していた!」

「小生、生前は童貞であり、今は骨の体なため〇〇〇がありませんぞ!」


すごいキメ顔で何を言ってるの、あんたら……。

思わず頭を押さえる私だったけど、コーヘイさんは予想外の反応を見せた。

「お、俺の不幸なんて大した事はなかった……あげん程度で落ち込んじょって、おいは恥ずかしかっ!」

うそ、何か理解するところがあったの!?

ぶわっと涙を流すと、感極まった男達はガッチリと肩を抱き合う!


「おっさん!キーホルダー!あんた達に比べたら、俺が甘ったれだったよ!」

「わかってくれたか、小僧!だったら、俺の事は師匠と呼べ!」

「小生は、アニキと呼んでもらって結構ですぞ!」

「師匠!アニキ!」

……何だか知らないけど絆が深まったらしい彼等は、男泣きに泣いていた。

「……お姉さま、なんですかアレ?」

「私にもよくわからないわ……」

文化が違うと言うか、なんというか。

まぁ、男の人には自分達の世界があるという事なんでしょうね。

「人間は複雑怪奇です……」

半分男の子なウェネニーヴも、難しい顔で首を傾げるばかりだった。


「……ふぅ」

ひとしきり感情を吐露した後、コーヘイさんはふと私に顔を向けた。

「ありがとう、エアル。俺がこうして立ち直るきっかけをくれたのは、間違いなく君だ」

むっ、なんか真面目な顔でそう言われると、ちょっと照れるわね。

「……思えば、俺がこの世界に召喚された時、最初に手をさしのべてくれたのも君だったな」

この世界に来た時……ああ、あの時ね(・・・・)

「ハハハ、なんだ?お前さん、こっちに来たばかりの時にも、何かやらかしたのか?」

「しょうがない勇者でありますなぁ」

「いやぁ、実は……」

モジャさんとマシアラが明るく茶化すと、コーヘイさんも召喚された時の醜態を冗談めかして話した。


「衆人環視の中で、自慰行為を……」

「やべっ、レベルが高すぎてついていけませんぞ……」

「あ、はい……ですよね……」

話を聞いて真顔になる二人に、コーヘイさんも表情が固くなっていく。

もう!せっかく纏まりそうな時に、彼の地雷を踏無ような真似を!

モジャさん達を叱りつけながら、なんとかコーヘイさんを宥めようと、私は必死にフォローする。

「やっぱり俺は、君の事が……」

ん?何か言った?

コーヘイさんが呟いた気がして問い返したけど、なんでもないよと手を振ってみせた。

ふうん?


──それからしばらくして、ようやく落ち着いたコーヘイさん達は、改めて勇者として相応しくなるべく、特訓を開始する事になった。

主なメニューは、モジャさんとの基礎体力作り、マシアラのゴーレムやウェネニーヴとの模擬戦など。

無論、私も大忙しである。食事の準備にお洗濯など、やることはいっぱいだ。

ああ……でも、こうして家事をしてると、なんだか落ち着くわ。

このまま、私達抜きで邪神とか倒れてくれないかな……そんな事を思っているうちに、一週間が過ぎていった。


「そいやぁ!」

コーヘイさんの一撃が、オーガタイプのゴーレムを打ち砕く!

今の彼は、ファットマンの時とは比べ物にならないほど、引き締まっている。

こんなに早く痩せられるのも、たぶんモジャさんとの基礎訓練と、身体能力を伸ばす《加護》の相乗作用なんだろう。ただ、彼の真似して褌一丁なのはどうかと思うけど。


「よぉし、今日はこのくらいにしておくか」

「押忍!ありがとうございました!」

武器が無いため、モジャさんから素手での格闘技術を学んでいるうちに、本当に師弟関係が出来上がったみたい。

コーヘイさんはモジャさんに挨拶をして、今度はマシアラの元へ向かった。


「アニキ、次はもうちょっと強力なゴーレムを作ってくれないかな?」

「ほほう、言いますな。では、次はオーガよりも巨体と怪力を誇る、トロルクラスにするでござるよ」

最近はキーホルダーサイズから、人間大のゴーレムに乗って活動しているマシアラが、キラリと目を輝かせた。

コーヘイさんは、様々なゴーレムを作り出すマシアラにも、すっかりなついたみたいで、今では普通に彼をアニキ呼びしている。

「所で、アニキ……夜のゴーレム(・・・・・・)もお願いしたいんだけど……」

「グフフ、お主も好きよのぅ……」

どうやら、性処理の意味でもお世話になってるみたいね。

まぁ、年頃の男の子だし、仕方ないところはあるんでしょう。

ただ、もうちょっと隠せよとは思うわ。


「ところで、お姉さま。そろそろ、レルール達の動向を探った方が良いのではないでしょうか」

食事の準備を手伝ってくれていたウェネニーヴが、不意にそんな事を言った。

ああ、うん、そうよね……。

正直な事を言えば、彼女達にはあんまり関わりたくない。

コーヘイさんを敵視するのはまだしも、私なんかに妙な幻想を抱いてるみたいだし。

「お姉さまの素晴らしさは、もっと認知されても……」

なんてウェネニーヴが呟くけど、マジで止めてね。

普通でいいのよ、普通で。


「まぁ、レルール達の動きもそうだが、コーヘイの仲間と《神器》についても調べなきゃならんだろうな」

いつの間にか話に入ってきたモジャさんが、気になっていたことをズバリと告げてくる。

そう……アーケラード様達と、コーヘイさんの鎧の《神器》の行方も気になるのよね。

勇者フェロモンの呪縛が解けた後どうなったのか。持ち主の元に戻ってくるハズの《神器》が、コーヘイさんの所に来ないのはなぜなのか。

調べなきゃならない事は、いっぱいある。ただ、どこから手をつければいいのかが、わからないのだ。


「ふむう、まぁ色々とやることはありますが、とりあえずは、早急にやらねばならぬ事がありますぞ」

「やらねばならぬ事?」

何の事かと問い返すと、私を除いた全員が声を合わせて言った!


『飯っ!!!!』


……あー、ハイハイ。

皆、呑気ねと思いながらも、自分の作った食事を心待ちにしてもらえる喜びに、自然と顔が綻ぶ。

そうね、難しい話は食事の後にしましょう。

私は大鍋からよく煮込まれたスープを皿にとると、腹を空かせた仲間達に配っていった。

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